2章 政変
第9話
初のライシャル人との交渉から二ヵ月以上たった。
坂白はライシャル人国家を飛び回り、松田は技術提携などで、シャルヌティア、シャルジュレスを訪問、山根はライシャルの医療現状の視察と過去の伝染病の調査、東山は新設した統合自衛軍の練成などで、月詠以外は国外に出る事が多く、全員が日本に揃う事が稀になる忙しさだった。
そして、全員が久しぶりに日本に揃ったのを機に進捗報告の為の会議が開かれた。
現在の会議は手を加えていない資料を各自に埋め込まれたAIに送信しAIが、主人にとって重要な情報や見落としそうな情報をピックアップしたり、会議の進捗に合わせてAIが情報を整理していくという形式になっている。
「まずは外交ですが、対ライシャル外交は順調に推移しており、シャルヌティアとシャルジュレスと調印を交わし貿易が始まり、現在大使館設立の為の調整中で、取りあえず建物を借り受け、仮大使館を立ち上げました。
また、その他のライシャル人国家があと4か国あるそうなので紹介してもらい、内2国と交渉を開始し、残り2か国とは調整中です。」
「順調そうで何よりです坂白大臣。転送された資料には反日本運動が見られるようですが?」
「はい、シャルジュレスの中には過去の侵略の影響で日本人排斥を訴えるものが少数ながらいるようです。世論は親睦派が多数派ですので、政治上は問題ないですが、民間人の渡航には注意が必要かと思われます。」
「解りました排斥派の動きは今後も注意してください。必要であれば防衛省外局を使用しても構いません。」
「外局?日本版CIAと言われるあれですか?」
「CIAやMI6に比べれば規模はずっと小さいですし、出来る事は僅かです。
しかも人種が根本から違うライシャル人国家では情報収集も難しいかも知れませんが、それでも調査と分析については彼らが国内で最も頼りになると思います。」
「わかりました。早速使用するか検討を行います。」
「次に文科省と経産省からです。
シャルヌティア、シャルジュレスには高天ヶ原からの受電施設の設置と通信局の設置が完了し、電気供給と携帯電話の試験運用が始まりました。シャルヌティアではそれと同時に電車車両の贈与を行いますが、現在ひかれているSLとは線路が合わないので新しい線路の敷設をまずは穀倉地帯と港をつなぐ路線から開始します。
空港の建設も新たに計画が始まりました。
一方シャルジュレスでは鉄道と空港は排斥運動の経緯を見てからと延期をしています。
技術提供はまずは自力での発電の為の火力発電システムと水力発電システムの提供を行い、建造の際は技術者の派遣も約束しております。
資源関係では沖縄とシャルヌティアの中間にある無人島付近の海域に海底油田が発見され、協同開発という形で採掘用のプラットフォームを建造中で、3ヶ月以内に稼働をさせる事が出来そうです。
金属につきましては、幾つかサンプルを入手し利用方法の検証に入っています。
また、地質データから油田やレアメタルの様な物が有りそうな地域に目安を立てており、6か所はどのライシャル人国家からも離れており領有が宣言されていないので近日中に試掘を行う予定です。」
「高天ヶ原の給電能力はまだまだ余裕があると思うので、技術提供で発電施設を作るくらいなら、自動車などの運搬技術や道路などのインフラ技術の方が良いのでは?」
「高天ヶ原からの電力供給が不足する可能性は有りませんが、両国はライフラインを握られる不安がある様なので、そちらを優先しました。」
「あぁ~なるほど確かにそうですね…。解りました引き続きその方向でお願いします。」
東山が控えめに手を挙げて要望を述べた。
「あと、原油の試掘が出来た場合、成分が違う可能性があるのでサンプルからジェット燃料を作成する方法の確立を最優先でお願いします。電気動力への置き換えが困難でこれが一番はやく底をつきそうなので。」
「解りました。早急に手配します。」
「厚生省、環境省からの報告します。
現在無人の地域を中心に環境調査と病原菌調査をしており、現地生物から幾つかのウイルスが発見されました。
現在ウイルスは分析中で、同時にワクチンの研究も並行して進めています。
ライシャル人についてはまだわからない事が多く、聞き込み調査から、こめかみの器官は目の一種でサーモグラフィーの様に物を見る事が出来る様です。
その他、身体的な特徴は医学書から研究を行っておりますが、民間伝承的な記述も多く、詳細は精密検査が必要で検体を募集するか検討中です。
過去の文明断絶の原因となった死病は、それ以来発症したことが無いらしく詳細は不明で、現在は発症直前に入植した土地等を聞いてそこを重点的に調査をする事と、外洋航海技術が失われたという事なので、ひょっとしたら海洋哺乳類が原因の疫病の可能性があります。
その為、この世界で取れる未知の魚類は調査前に食べる事を禁止した方が良いかも知れません。
また仮称小笠原列島に建設した自動農場で、現地の土壌と水を使用しての地球由来作物の試験生産を行っており、収穫はまだですが順調に成長しています。」
「検体の募集については、人体実験と思われない様に慎重に行ってください。
海洋生物の調査については、一度国内に周知した方が良いかも知れないので、早急に通達しましょう。
念のため、ライシャル人に海洋生物の可能性がある旨を伝えて、船乗りが海の上で食べていた海洋生物を聞いてみてください。
作物の試験生産ですが資料を見ると米、麦の他、野菜がメインの様ですが、大豆も加えてください。
もしテストする余剰が無い場合は、野菜をいくつか中止し、大豆を優先してください。
日本人に必要な味噌や醤油が足りなくなる事態はなるべく避けるべきです。」
「解りました。自動農場は現在余剰が無いので野菜を中止して大豆を植え、中止した作物は来月完成の新工場で再開させます。」
「自衛軍からの報告です。1週間前に飛ばした高高度偵察ドローンから第一報がまとまりました。テレビ放送が開始されていたので、映像から言語解析に掛けた結果が今朝まとまりました。
向こう側には4つの大国が存在し、その大国は植民地政策をとっており、軋轢で代理戦争や大国同士の小競り合いが絶えないことが解りました。
判明した4大国の名前はリスティア、連合議会、ザリス共和国、ギュホス帝国で、地形などは偵察衛星が未完成なので地図を作成できず、大陸という言葉が出てきたので、大陸だと推定される以外は不明です。」
「なるほど、紛争の火がくすぶっているわけですが…。
当面は食糧、資源共に何とかなりそうな中で、戦乱に巻き込まれる可能性も高い向こうの国との接触は延期しましょう。
しかし、未だに植民地支配と帝国主義が台頭しているならば、防衛体制を万全にする必要があります。
ドローンで軍事に関する情報を取得次第、優先的に解析してください。
また現在平行して進んでいるGPSと偵察衛星は偵察衛星1機を優先して生産してください。」
「では最後に私からです。
10月2日投票日で臨時議員の総選挙の準備を進めています。
また、民自党以外の党員が居ないので、現状では立候補者のみなさんは無所属で出馬していただき、当選した方々で改めて政党を組んで頂くことにしていますが、事前調査では民自党が圧倒的に多い為、民主主義のバランスを保つために、移転前の議席数+10人を上限とし、私が入党させるかどうかの判断をしようと思います。
ところで、東山さん以外の皆さんは出馬されますか?
勿論民自党には入りたくないという事でも内閣に入ってくれるなら問題ありませんよ。」
松田が驚いたように聞き返した。
「え、それでいいんですか?」
「規定では大臣は民間人であればOKなので、所属政党は問題ありません。
それよりも現在は、政党の争いよりもこの危機を乗り越える事の方が重要です。」
坂白は小さく手を挙げて
「なら私は出馬させて頂きます。党は取りあえず無所属との事ですが、最終的には民自党を希望します。」
松田は申し訳なさそうに
「私は国が安定したらまたエンジニアとして働きたいです。
前の会社は部下に譲ったので、また一から起業に挑戦するつもりです。
なので政治家にはなれません。」
山根もまた
「私はあくまでも医者です。
この世界での防疫の基礎ができたら、医者に戻るつもりですし、この世界で改めて国境なき医師団を設立しても良さそうです。」
「解りました。
坂白さんありがとうございます。
松田さん、山根さんお二方が、本来の人生の道に戻れるように私も国の安定化に全力を尽くします。」
報告会が終わると会議の内容と上がった検討課題をAIにまとめさせ、関係官僚へ転送を命じた。
終わった時間も遅かったので、一緒に夕飯を食べようかと話していると秘書の藤堂が部屋に入ってきた。
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