4章 シャンキア防衛戦
第20話
シュゼナス准将は戸惑っていた。
彼がクーデータに参加したのは陸軍で唯一の上官であるセギュルス将軍からの誘いだった。
セギュルス将軍はシュゼナスが陸軍に入隊した際の最初の上官で公明正大で上官であっても納得できない命令に強く抗弁する気概のある尊敬できる上官だった為、彼の言う義憤を信じた。
しかし、部隊を率い首都に到着した彼が見たのは同格であるはずのジュライス将軍に媚びへつらうセギュルス将軍の姿で、上官にも臆さず抗弁するかつての尊敬する上官の姿はなかった。
失望しつつもシュゼナスが情報をまとめ、今後の部隊運用の相談のため、会議室の前に立つと、上機嫌なジュライス将軍の笑い声が聞こえた。
ノックをし、入室の許可の声に応じて戸を上げると媚びたような笑顔のセギュルス将軍が同席していた。
「おぉシュゼナス准将。貴殿は本当に働き者だなセギュルス将軍が信頼するのがよくわかる。」
「ありがとうございます。
早速で申し訳ございませんが、いま前線から敵軍配置の最新情報が届きましたので、部隊の配置についてご相談させていただきたいのですが。」
「わかった。貴官の案を聞かせてくれ。」
「まずは現在中立のシャンキアですが、敵拠点のシャルギアの進路上にあるため、ここが敵側についてしまうと前線の部隊が孤立してしまいます。
その為、補給路を確保する為、シャンティア付近に部隊と仮設駐屯地を配置すべきだと思います。」
「シャンティアは表向きは中立と言っているが、ジュリアス知事は私の同族でクーデーターの為に働いてくれているようだ。
おかげでジュキアス兄弟とその一族が我らに賛同して参加してくれた。」
シュゼナス准将もジュキアス兄弟の悪評は聞いており、彼らはあとから参加したにもかかわらず我が物顔でえばり散らし、現場に混乱をきたしているという話を聞いていたので、押し付けられたのではないかという疑念がぬぐえずにいたし、何より、その噂が立ったのはクーデター直後ではなく、日本がシャルギアに入港した後という事も気がかりだった。
そんな彼の疑念を感じたのかセギュルス将軍がジュライシュ将軍の表情をうかがいながら続けた。
「シャンキアが反乱軍についた場合、シャンキアは二方を山、一方を海で囲まれており反乱軍勢力圏とは細い山道一本でしかつながっておらず部隊の移動も困難で、海は砂浜と岩礁で、大型船を停泊させることができる港がないので、海から敵への援軍も来れない。
逆に我らの勢力圏からは、ほぼ平地で進軍の妨げになるものは存在しない。
もし敵につくならば、撃破もたやすい。
愚かな敵に身の程を思い知らせてやればいい。」
重ねて対シャンキアへ配置を進言しようとしたが、セギュルス将軍のたしなめる様な視線を感じたので、本題に入ることにした。
「わかりました。
それでは今回の本題に入らせていただきます。
彼我の戦力差は陸軍ではこちら14万で敵が7万、中立が3万で我らが有利です。
しかし、日本と潜伏している敵を警戒し、首都近郊に4万、中立勢力のけん制に2万を割いている為、
純粋な対シャルギア戦力には8万しか割り振れておらず、この戦力差では一方を深い入り江、三方を山に囲まれたシャルギアを落とすには不足しております。
そこで、国内が統一できるまで、日本との間に不可侵条約を結ばれてはいかがでしょうか。
これで、首都近郊の兵から3万を対シャルギアへ回すことができます。」
ジュライス将軍はシュゼナスの日本と不可侵条約を結ぶと聞いて、憤怒の表情を浮かべた。
「貴様!
ふざけているのか!!
我らが立ち上がったのは、侵略者に媚びへつらう売国奴を排除し、ライシャル人の誇りある自立を守る為だ!!
それを、敵に媚びるなど許されるわけがない!!」
「なにも、永続的なものではございません。
最終的に日本と戦うというのは、私も同意見ですので、国内を統一できるまでの方便です。」
と言った後、シュゼナスは自身の発言を後悔した。
目が血走り涎があふれる口元をみて、ジュライス将軍が既に正気ではないことが解ったからだ。
ジュライス将軍の腰に拳銃があるのを確認し、どう収めるか考えているとセギュルス将軍が助け舟を出した。
「申し訳ございませんジュライス将軍。
彼はまだここに来たばかりで現状をよく把握できていないようです。
シュゼナス准将、確かに日本との二正面作戦になる可能性があるが、その日本は我々の同族たちの国に囲まれているからうかつに兵は派遣できないだろう。
あと、各大学の教授を集めて日本が我々をだましていることを、科学的に暴くプロジェクトチームを結成した。
良かったら彼らの話を聞いてきなさい。」
「その通りだ准将。少しは勉強して来い」
ジュライシュ将軍は仇敵を見るような目つきで吐き出すように言った。
「…不勉強で申し訳ございません。
早速話を聞いてまいります。」
言葉短めにその場を立ち去ったが、既にクーデターへの参加を後悔し始めた。
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