第17話
雪風のCICで本郷はヒューギルが停船するのを複雑な表情で見つめていた。
「停船した船を盾にするのは気が引けるな」
「しかし司令、あの船はまだ降伏を表明したわけではありません。」
「あぁ、それでも今後の両国の関係を考えたら無抵抗の船を巻き込むのは下策だ。
敵戦艦の予想射程外にでる時間と浜風の安全圏への離脱時間は後どれぐらいか?」
「このままの速度の場合10分。
増速することで6分で射程外に出ます。
浜風の安全圏への離脱まであと11分です。」
「ならば、敵Bを盾にして、あと11分敵を引き付ける。」
と指示を出した直後、待っていた報告が上がってきた。
「司令!艦隊司令部より入電。
赤城、加賀より艦載機の発艦を開始。
あと10分で現着とのこと。」
「想像以上に速いな増槽を使うのか…。
よし、待ちに待った反撃を開始する。
先ずは敵艦A、B、Eにミサイルを1発を発射。
動きを鈍らせたのち最大戦速で射程から離脱。
航空支援が入ると同時に反転する。」
寺間艦長は司令の指示を受け艦の指揮を執った。
「砲雷長、対艦ミサイル3番から5番を敵艦A、B、Eに発射。
その後、最大戦速で離脱する。」
今回シュキルアは敵艦を凝視していたので、ミサイル発射の瞬間を見る事が出来た。
全く違う方向に飛んだかと思うと空中で方向転換しこちらに向かってきた。
「何をしている回避運度だ!」
と言い切る前に右舷に大きな爆音と主に衝撃が走った。
運よく当たった部分が装甲区画だった為、ダメージを受けることは無かった。
「は・・・は、ははは!
どうだ、敵の貧弱な攻撃では我が艦の装甲は破れん!
敵を追え!」
「て、敵艦凄まじい速力で離脱しています。
追いつけません。」
「ふん、逃げ足だけが早いとはまさに弱者のそれだな…。
まぁいい、残っている艦を集結し、再度陣形を組みつつ。奴らが調査しているという島へ向かう」
「その前に、僚艦の救助は如何しましょうか。」
「ふん、放っておいて構わん。
あの程度の敵にやられる奴らなど知らん。」
「…では無事な艦はそのまま進行し、通報艦隊にその辺を任せましょう。」
「好きにしろ。
我らの艦隊行動が遅れなければいい。」
編成を組みつつ航行していると尾を引くような轟音がいくつも響いてきた。
「敵の攻撃か?全方位警戒!」
指示を下すと同時に大きな衝撃が走った。
艦中央部の甲板に命中したらしく作業をしていた人員が居なくなっており、煙突も後部が一本が折れていた。
シュキルアがボー然としていると参謀が声を上げた。
「司令あれを!」
指差す先を見ていると遠い空に矢じりの様な物が複数こちらに迫ってくるのが見えた。
「あれが空を飛ぶ兵器なのか。
艦長!撃ち落とせ!」
「不可能です。
この艦の砲はどれもあの高さの敵を攻撃できる程、角度を取れません。」
「クソ!なら回避だ!」
赤城 F-4烈風隊の隊長青崎3佐は敵艦隊を目視でも捕捉できる距離まで接近した。
今回は敵艦の装甲を確認する為、一発撃った後に接近し状況を確認する様に命じられていた。
「こちらブルー。
煙突一本が折れていますが、敵は健在。
これより再度攻撃を開始します。」
F-4はステルス機なので本来は機体内部のウエポンベイにミサイルを収納するが、レーダーがたとえあったとしても、敵には航空機に対抗する手段がないであろう事が予測された為、長距離を移動する為の増層を取りつけ、更にF-2の血筋を誇示するかの様に翼の下に大型の対艦ミサイル4発を積載しフル装備で出撃をしていた。
この後は一方的だった。
次々と飛来するミサイルが命中していき、一発二発は耐えられても次々に艦が沈んでいった。
戦闘から離脱したヒューギル以外は次々と沈んでいき、残りは命中弾が10発を超えて虫の息となった旗艦のみだった。
「司令、わが軍の敗北です。
降伏するか小型艇にのり移り通報艦隊へ向かい撤退するかお選びください。」
「いやだ!
お前らには軍人の矜持がないのか?
まだ後部主砲が残っているではないか!
最後の一兵に成るまで誇り高く戦う気はないのか!?」
みんなが黙っている中、艦長が声を上げた。
「軍人の矜持は勿論あります。
難敵との戦いの中で死ぬのは本望です。
しかし、これは違います。
我々は敵に一発の弾も当てらないどころか、ろくに発砲すら出来ていません。
これは戦闘などではありません。
駆除です。
戦闘で死ぬのなら我慢できますが駆除されるのはごめんです。」
「貴様、誇りある戦いを侮辱するのか!
こいつを拘束しろ!
…早くしろ、何をしている。」
それに答えたのは無数の銃声だった。
艦長以外の艦橋要員が、司令と司令部要員を銃撃したのだった。
「おまえら!なんて事を!」
副艦長は艦長を見つめて答えた。
「艦長。
我らが従うのは一族の威光を借りる無能ではなくあなたです。
降伏しましょう。
ヒューギルが健在なところ見ると、戦意無き者には寛大の様です。
司令はこの船と一緒に自沈させましょう。」
「…解った。
降伏の旨を通信して総員退艦。
ヒューギルへ合流する。」
雪風は当初反転を試みたが、戦闘艦隊の降伏を知り、迂回し通報艦隊の側面に廻ることにした。
航空機は燃料の不安から殆どの機体が一度赤城と加賀へ帰還する事となり、控えとして残っていた3機が通報艦隊に向かって新たに飛びだった。
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