第14話
シャルジュレスクーデーター軍の艦艇数は補助艦含めて全10隻で、シンボル的な戦艦であるシャルジュレスを除いた艦がこの日本打倒艦隊として出航していた。
グーデターに加わった艦隊の士官たちは、軌道エレベータへの出動をせず、尚且つ帰還者の話を与太話と信じなかった者たちが中心だったが、それにつき合わせれた乗組員は不幸としか言いようがなかった。
クーデター派は内通者を用意できなかったが、シャルギア港付近の住人を買収して日本艦隊の2隻が出航したと知らせを受け、万全に準備をしていた艦隊に出航が命じられた。
日本艦隊の目的地は不明だったが調査を行っている島があることは知っていた為、遭遇しなかったり追いつけなかった場合、島で何をしていたかを調べる予定でいた。
出航した艦隊の内訳は一等軍艦の戦艦、二等軍艦の装甲巡洋艦2隻、巡洋艦3隻の6隻からなる戦闘艦隊と、補助艦の通報艦2隻と補給艦1隻の通報艦隊の2艦隊の編成で、戦闘艦隊が単縦陣で進み、少し離れて通報艦隊が通報艦で輸送艦を挟むような形の単横陣で追従していた。
グーデター派は外観から日本軍の軍艦は戦艦程度の船体に貧弱な主砲一門のみと考えていた為、必勝を期した編成だった。
司令官のシュキルア第一海英はジュライス将軍の母方の従兄弟で、元々第三海英だったのを、クーデーターに際し無理やり2階級昇進。
更にシュキルアの親類、友人たちを1階級昇進させて幕僚に任命していた為、下士官たちからは冷ややかな目で見られていた。
「シュキルア司令、監視員が左舷前方に謎の光を発見したそうで、敵艦の可能性があります。」
「夜間に煌々と光を照らすとは日本人はあほなのか」
現実を直視せず敵を過小評価しあざ笑う上官や同僚を冷めた目で見ていた将兵が居た。
彼ソギュアスは運よく軌道エレベーターに乗ることが出来た士官で、知日派であったが、彼の妻の姉がシュキルアの妻であった為、クーデーター派の名簿にいつの間にか載っており、さらに義姉に妻を人質に取られていた。
「お待ちください司令。
わざと気付かせるために照明を使用している可能性がございます。
その場合、ついて行った先に罠が有る可能性がございます。」
シュキルアはソギュアスを見下した目で見つめながら返した
「貴官は、例の塔を観に行ってまんまと騙されて帰ってきたのであろう。
それ以上愚かなことを言っていると義弟とはいえかばいきれないぞ。」
「かばっていただかなくとも結構です。
それよりも直接耳聞きしていない人間が虚言と決めつける事の方が浅慮ではないでしょうか。
少なくとも私は実際に見て聞いて兵器が稼働する所も間近で見ました。
あれは紛れもない事実です。」
「浅慮だと!?
俺を馬鹿にするのか!!!
120ディバイス以上の離れた敵を発見し、音よりも早い速度で相手を追尾する砲弾や、空飛ぶ機械、宇宙まで届くエレベーターなど信じる方が愚かであろう!」
「かつての救国の英雄が80年前に敵の装備を見たとき、どれも魔法かと思う程に我らの想像を超えた性能の武器だったと回顧していました。
今回も同様に我らには理解できずとも事実であると考えるべきです。」
「黙れ!
貴様の様に敵に洗脳され虚言で味方を惑わすような輩は利敵行為として懲罰房行にするぞ!」
そこでソギュアスを一方的にライバル視し出し抜くためにシュキルアに取り入っている士官が蹴落とすチャンスとみて仲裁に入った。
「司令、たしか通報艦隊の司令部に参謀の欠員がいたはずです。階級はあいませんが、欠員の補填の為に移ってもらってはいかがでしょう。」
「それがいい。
ついでに今回の昇進は無しにする様に将軍にお願いする。
それで階級も見合うだろう。
今すぐ通報艦隊へ行け。」
「…拝命しました。」
彼は説得をあきらめ、手早く手荷物をまとめると副官と共に内火艇に乗り、通報艦隊に向かった。
残留を進められながらもソギュアスについてくることを選んだ彼の副官は不安そうに敬愛する上官に尋ねた。
「三英、敵の兵器が音よりも早く空を飛ぶ兵器とか、自動で目的を追尾する砲弾というのは本当なのですか。」
「あぁ本当だ。
…この戦争は直ぐに終わる。我らの敗北でだ。
今のところ日本は友好的で技術の公開にも積極的だ。
しかし、いつまでもそうとは限らない。
軍事力に物を言わせた征服が始まるかもしれない。
だから、いち早く追いつかなくてはならない。
下らない内紛などしている暇などないのだ。
お前は見どころがある。
生きて、日本の技術を見て学ぶんだ。」
「それは私ではなく三英です。
敵の技術をみて誰もがただ驚くだけだったところ、あなたとレギュス准将だけが、対抗手段の模索に掛かりました。
私よりもあなたこそが生き残らなくてはなりません。」
「…ありがとう。
そうだな、お互いこんなくだらない戦争では死ねないな。
通報艦隊の司令官は同期だし、試作品を積んだ輸送艦も所属してる。
天はまだ完全に見放していないのかもしれない。
勝つことは無理でも生き延びる方法を考えよう」
通報艦隊の司令部に到着すると、同期のリギュレイ第三海英が笑顔で迎えてくれた。
「ようソギュアス。
旗艦司令部員が分艦隊司令部付きになるなんて何やらかした。」
「やあリギュレイ。
総司令様が敵を侮っていたから、注意したら飛ばされた。」
「お前の事だ、ただ意見したのではなく、馬鹿とか言ったんだろ。」
「馬鹿まで言っていない。
浅慮ではないかと言っただけだ。」
「大して変わらんぞ。
まぁ、総司令官様は将軍の親戚である事しか誇れないくせにプライドが無駄に高いからしょうがないか。
…となると、日本の技術力は本当なのか?」
「あぁ、本当だ。」
「かぁ~失敗した!
お前がクーデター側についたというから嘘なんだと思ったんだがな。
奥方つながりで決めたのか。
しかし、あのおっとりした奥方がこんな政治に口出すとは思えんし、何よりお前も奥方の意見で翻意するとは思えんが。」
「…妻が義姉に人質にされた。」
「そうか…お前の義姉か。性格はお前の奥方とは真逆だもんな~。
顔はソックリなのに…。」
「それで日本の軍艦はどれだけヤバいんだ?」
「日本の軍艦は装甲は薄いので当てる事が出来れば恐らく装甲を破ることが出来る。
しかし最大の問題は射程距離の長さと命中率の高さだ。
ミサイルという兵器の射程距離は50ディバイス強、しかも敵を追尾するという。」
「兵器性能の差が有りすぎる。
こっちの砲で装甲が抜けるとしても近寄る事すらできないじゃないか。」
「あぁ、だがこれは推測なんだが、日本がいた世界の船の装甲はそんなに厚くないならばミサイルの貫通力はそんなに高くない可能性がある。」
「なるほど、上手くいけば装甲が持っている間に肉薄して主砲をたたき込むという事か…。
まぁ、それでもこの戦術は現実的ではないよな。
貫通力が低くても曲がりなりにも兵器だ。
何発も受けても大丈夫な訳が無い。」
「あぁその通りだ。
しかし今回はまだ良い方だ。
この海域ならば戦闘機は出てこないだろうからな。」
「戦闘機?
闘う機械ってどんな兵器だ。」
「空を飛ぶ兵器だ。
戦闘機の行動半径は約250ディバイスで、飛び立つには整備された道路でそれなりの距離での助走が必要になるらしいから、距離的には戦闘機が飛んでくることがないだろう。」
「それは具体的に、どんな兵き…いや、気が滅入りそうだから今は聞かないでおこう。」
「…お前は俺が説明する兵器の性能が信じられるのか?俺が騙されたと考えないのか。」
「騙されたもなにもお前とは長い付き合いだ。
日本は信じられんが、お前の事なら信じられるし、何よりお前は騙される様な無能ではないだろう。」
「ありがとう信じてくれて。」
「こんなことで礼を言うな。当たり前のことだ。
そんなことよりもお前が出航間際に捻じ込んできたやつ使えるのか。」
「使う事は出来る。
ただ検証が出来ないので効果のほどは解らない。
すぐにでも輸送艦からこの艦に移してくれ。」
「検証できないのはまぁしょうがないな。
あれは、お前の依頼だと聞いたから、出航前に輸送艦ではなく通報艦二隻に分けて積んである。
あれを使う人員も選出してあるから後で詳しい使い方のレクチャーを頼む。」
「ありがとう。
あれは攻撃兵器ではないので、敵を打ち破ることは出来ないが生き延びる事は出来るかもしれない。
お互い無駄死には避けよう。」
「まったくだな、終わったらお前の奥方の手料理をまた食わせてくれ。」
「あぁ約束する」
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