概要
出版の起死回生へ若い力を結集せよ!
きびしい出版不況に抗しながら、およそ5,000点の本を刊行してきた黒百合書房。
社長の犬飼涼子は間もなく古希を迎えるので、次世代に事業を承継したいと考えていた。
銀行が勧めるM&Aで他業種に身売りすれば出版の魂魄まで損なわれてしまいかねない。スタッフが継いでくれなければ閉業しようと思っていたとき、伝統を大切にしつつ新しい形態の出版を模索したいと名乗りを挙げたのが児童養護
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!出版社って大変なんですねぇ。
遥か昔、高校生だった頃、私を構ってくれる教員がいました。恐らく馬鹿学校の学生のくせに本ばかり読んでいた、私に目をかけて下さったのだと思います。
卒業後は進学する生徒が珍しい学校でしたので、私も就職するものだと思って話してくれたのだと思います。彼は出版社で売れない歴史の本を作ることを望んでいました。
「売れない本は作れない。それは仕事でなく趣味だ」
彼は大手出版社の最終面接で、そう言われて教師になったとの事です。その時は何でそんな話をして下さったのか、よく分かりませんでした。
このお話を拝読して、高校生の頃を思い出しました。どんなに自分が好きでも、売れない本は作れないんですよ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!文芸の本棚を飾るにふさわしい、出版に対する誇りと希望に満ちた作品
長野の小さな出版社を舞台にした、本づくりに人生をかける人たちの物語。全10話にまとめられていますが、その中に収められたひとつひとつのエピソードの濃さが物凄い。一見本筋とは関係ないような話まで全部根底でつながって、人と人との関係のはかなさや強さ、大きなものに巻かれてしまいそうな社会のもろさ、とにかく色んなテーマがひしめき合って読む者に響いてきます。
主人公をはじめ、社長に社員たち(そして1匹)、みんな決してスーパーマンではない。何かしら事情を抱えて生きている。
けれど、その情熱が本に向かうときのエネルギーの強さ。どんなに足元が危うくても信念と誇りを貫く彼らのプロ意識は、大手も弱小も都会も地方も…続きを読む - ★★★ Excellent!!!地域の小さな出版社、でも、その存在は地域にとって無二。
地域出版社を舞台にしたお話ということで、このお話を読みだしました。
おそらく作者様も私と同じ県に住んでおられるのだと思いますが、私の住んでいる県は、地域出版社や、信念を持って独自のラインナップを揃えている書店が昔は多く存在していたのです。
今では活動している地域出版社も減り、閉店した書店も多くて寂しい限りです。
出版不況と言われてから随分と時間が経ちますが、今も好転の兆しは見えません。
そんな出版不況の逆風の中でも経営を続ける「黒百合書房」を舞台にした本作。
「黒百合書房」の校正係を務める主人公「設楽野花」。
感受性が強く繊細だけれど、それ故に観察眼が鋭く時にシニカル。
そんな彼女を通して周…続きを読む - ★★★ Excellent!!!無数の文章の泡の一つ一つが太陽のような存在感を持つ美しい作品
この作品を一言で表すのは難しいです。
敢えて言うのであれば、本を愛する者たちのリアルが美しい、とでも言いましょうか。
そもそもは筆者の上月さんの他の作品を読んで、この作品がカクヨムの本棚に載ったと書いてあったので、とりあえず覗いてみた、という感じでした。正直、カクヨムの本棚とやらにどういう作品が載るのか知りませんし、過去に公式運営がレビューしたものでも、少し読んで興味が失せて読まなくなってしまったり、ということもある中、この作品はメテオライトの如く強烈なインパクトを残していきました。
黒百合書房を取り巻く環境と登場人物たちのリアルが生々しい。
登場人物たちの言葉や心境が社会に痛烈な斬り込…続きを読む - ★★★ Excellent!!!空の空の空をうちて星にまで達せんとす。
「小説ってなにがおもしろいんだろう」と、物書きの端くれながら折あるごとにつねづね考えています。振り返ってみると私が小説を好きになったのは物語の面白みに気づいてというより、最初はただ単にひたすら文字を追いかける行為そのものにあったように思います。その過程でしだいに言葉そのものの意味の奥深さ、物語の構成や登場人物の変化、伏線等を読み解くことにも面白みを見いだしてきました。
本作は長野県の小さな(といってもその実力は折り紙付きの)老舗出版社内で繰り広げられる人間模様を描いたものです。およそ10万字の端整な作品ですが内容は濃く、とくに主要な登場人物の人間性や心情の機微に丁寧さが感じられます。
主…続きを読む