文芸の本棚を飾るにふさわしい、出版に対する誇りと希望に満ちた作品

長野の小さな出版社を舞台にした、本づくりに人生をかける人たちの物語。全10話にまとめられていますが、その中に収められたひとつひとつのエピソードの濃さが物凄い。一見本筋とは関係ないような話まで全部根底でつながって、人と人との関係のはかなさや強さ、大きなものに巻かれてしまいそうな社会のもろさ、とにかく色んなテーマがひしめき合って読む者に響いてきます。
主人公をはじめ、社長に社員たち(そして1匹)、みんな決してスーパーマンではない。何かしら事情を抱えて生きている。
けれど、その情熱が本に向かうときのエネルギーの強さ。どんなに足元が危うくても信念と誇りを貫く彼らのプロ意識は、大手も弱小も都会も地方も関係ないのだと見せつけるようです。
また出版社のお話だけに、本編の中にふたつの物語が挿入されているのですが、これが素晴らしい存在感を放っています。
本づくりに対する愛情と誇りがつまった作品。公式本棚にふさわしい文芸書です。

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