無数の文章の泡の一つ一つが太陽のような存在感を持つ美しい作品

この作品を一言で表すのは難しいです。
敢えて言うのであれば、本を愛する者たちのリアルが美しい、とでも言いましょうか。

そもそもは筆者の上月さんの他の作品を読んで、この作品がカクヨムの本棚に載ったと書いてあったので、とりあえず覗いてみた、という感じでした。正直、カクヨムの本棚とやらにどういう作品が載るのか知りませんし、過去に公式運営がレビューしたものでも、少し読んで興味が失せて読まなくなってしまったり、ということもある中、この作品はメテオライトの如く強烈なインパクトを残していきました。

黒百合書房を取り巻く環境と登場人物たちのリアルが生々しい。
登場人物たちの言葉や心境が社会に痛烈な斬り込みを入れていく中で、主人公野花を中心に様々な人物たちの人生ドラマあり、出版社業界の現実あり、経営に纏わる葛藤あり…とにかくピースが多い!濃厚なセレクションを持つバーの如く、美味しく頂ける色とりどりな文章たち…

出版社を冠に置いたので、作品中にショートストーリーも入っていて、これもとても面白かったです。

ヤバイっと思ったのは八話目ですかね。読むの一旦止めようか迷いました。
これは完全に個人的なことです。

八話目は野花の色々な側面が見えた回と感じました。全話を通して野花の性格はよく表れていました。それは間違いありません。しかしラウンドを重ねて打たれてきたボディが効いてきた、という感触です。野花は気の弱いキャラで、しかも弱いからといってありがちな心が綺麗、というわけでもなく、じゃあ憎たらしいのか、といったらそうでもなく、自分勝手な考えの時も見え隠れすると思えば、利他的な活動もしたり、意外と強い一面を持っていて、まるで真逆のことが同居しているのに全て筋が通っている…要するに、本物の人間…その深みをよく体現しているキャラと認識しました。
じゃあ、それの何がヤバイのか…誠に勝手な言いがかりをつけるようで申し訳ないが、自分が連載中の作品のキャラたちに野花がちゃっかり顔を出しそうで、全く違う作風で書いてあるものなのに…強いていうなら、スパイスをたっぷり入れた自慢のカレーを作っていたら、高級な寿司を食わされて、ああ、寿司もいいなあ…なんて思って寿司を入れそうになる、という感じです 笑
やめとけっちゅうに、あんたはそんなん作ってないでしょ、と本の神様に叱られそうです 笑

結局は完読させていただきましたが、ご馳走様でした、という感想です。
このレビューをご覧の皆さんも、よ〜く読んでみることをお勧めします。




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