最期の夜 薔薇は融ける
アキラは入院中、ミコトが大切だった。すなわち、愛していた。
アキラの関わってきた多くの人間の中で、ミコトは段違いに無垢で、世俗に染まり切らない生きものである。あまりにも、まっさらな内面を現実に
もっと楽観的な人生の絵を描けば、いいのに。ミコトの脳裏に描き出された心象を、ほんの一部分でも分かつアキラは、入ったことのない病棟を前に
「まぁ、お久し振りです。すっかり、お元気そうですね」
かつてのアキラが、軽口に辟易した女医。その声に不思議と救われた気持ちに、なる。
「お久し振りです。お陰様で元気です。ミコトくんも元気ですか?」
「ミコトくん、もう
「快復して、退院したのですね」
女医はアキラの楽観を、あっさり否定する。
「生きて、いけなかったのです。聖堂の近くで楽に、なっていました」
女医の声は、
「分からず仕舞いの息子でした。あの子は私から生まれたのに、薔薇から生まれたなどという妄想に
突然の
きみは、もう
ミコトが潤んだ
アキラの腕に抱えられた花束は、既に朽葉の香りがする。花束を抱きかかえたアキラは、愛している少年と同じ軌跡を
その果てには、黄金の薔薇が季節外れの
そして、少年の
✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*
心の
アキラさん。
「僕の心が壊れても、愛して、くれますか」
「ミコトくん。きみは壊れてなんて、いない。壊れていたのは、僕のほうなんだ」
過去に置いてきた、大切な忘れものを思い出した。
✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*
その後、現実の時間は流れた。アキラとミコトの存在は、音無く降る雪みたいな
それこそが、薔薇の杯が斟酌した
終
皐月の闇に薔薇は融ける 宵澤ひいな @yoizawa28-15
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