第六夜 忠告
「おそらく、数ある逃亡のうちの、ひとつです。ミコトくん、何処に行きたいのかしら。誰に断ることも無く、何度も、逃避的に病院から姿を消すのです」
アキラは、窓の外の果てしなく円環する世界を自由に飛翔する鳥を見て、その姿を借りたいと言ったときのミコトを思い浮かべていた。あのときは、夢ではなく、現実世界に羽ばたく鳥が見えていたではないか。
「今後、関わりを持たれないほうが、いい。
アキラは、患者のデータを流暢に語る女医に辟易した。
女医の忠告には耳を貸さない。アキラは、ミコトと会い続けた。
✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*
「これは僕の食べものじゃない」
ミコトは滋養を果てしなく拒否した。アキラは、そのメニューを眺める。
「シチューに白米にミルクにマカロニサラダ。真っ白で
「じゃあ、アキラさんが食べてよ」
ミコトは寝台を四十五度に傾けて、背中に枕を当てて座っていた。今日は、暖かそうなフランネルの
明かり取りの窓から射す真昼の
触れた指の冷たさに驚いたのも束の間、ともするとアキラよりも冷たいミコトの手が、長い指を
「綺麗な指だね。長くて細くて、爪が切り込まれている。アキラさん、もしかして鍵盤楽器の奏者?」
アキラは、ミコトの寝台の端に腰を下ろして語る。
「僕の指は鍵盤をはじく指じゃない。
「
ミコトは、
「まだ鍼を持つ免許は無いんだ。修業中だよ」
「学生さんなの?」
「うん……ミコトくんも学生さんだよね。
アキラの目に映るミコトは、小さな男の子だ。
図書館で会ったときから、何故だろう。強く
メラニン色素が欠乏したようなグレーの瞳を不安気に潤ませ、通った
「僕は
美しい病人に
彼が何歳でも、何者でも、いいと思えた。
第七夜『お買いもの』に続く
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