第五夜 現実
「これは
意味深長な女医の口調とは正反対の、軽い声音でアキラは答える。
「病室の扉が開いていましたので、会って少し話しましたよ」
その声音は、かつて学童だったころ、旅先で購入した名前入りのタオルを気恥ずかしく思う気持ちを、隠すためでもある。
「話す? ミコトくんが心を開いたのですか?」
女医は驚きの色を隠せない様子だ。図書館から病室へ、巡る会話に曇りは無かった。ただ、アキラに会う前、何の意味があるのか見当もつかないが、熱のある身体で室内を歩き廻っていた。素足で冷たいタイルの
「
「カウンセリングルームで、お話を。少し、お時間を頂けますか?」
返されたタオルを受け取るような気易さで、アキラは応じた。
✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*
ミコトの病室を素通りした先のカウンセリングルームで、
「ミコトくんに会われて、どう思われました?」
「ちょっと変わった男の子ですね。何と言うか、頭の良さそうな……」
「正直に
女医の声質に、
「ミコトくんは、もう半年以上、
女医が窓越しに向こうと差すのは、こどもには似合わない灰色の病棟だった。
「火遊びと水遊びの果てに肺炎を起こして、
アキラは
「初対面では、ありません。以前、図書館の
「いつごろのことですか?」
「まだ近い昔です。去年の暮れの、冷え込みの特に厳しい日でした」
第六夜『忠告』に続く
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