第13話妹のためなら
校庭にだんだん人が集まりだした。役員をしている保護者たちが敬老席の椅子を設置している。今日は運動会。我ら陰キャたちが絶対にやりたくないと思っている学校行事の一つだ。まあ全部やりたくないんだけどね。
「そろそろ校庭に行った方がいいぞー。椅子の養生テープ忘れるなよ」
一斉に動き出した生徒たちに揉みくちゃにされつつも廊下に出られた俺は、昇降口に向かって歩き出した。すると、周囲がざわついた。
「透」
現れたのは雫月。ジャージ姿に青いはちまきを巻いていて、別にみんなと変わらない格好なのに異様に格好よく見える。
「雫月」
同じ青色のはちまきを巻いた芽里が、さらりと髪をかきあげて雫月の方を見た。あれ、隣の女子グループがものすごい早口で二人の方をさしながら何か言ってる。
「今年は同じ青組だから、雪が見つけてくれやすそうだね」
確かに中学の時はクラスが違ったから列に並んでる時色んなところを見ないといけないって言ってたもんな。そう納得していると、隣から女子たちのひそひそ話が聞こえてきた。
「ねえ、雪って誰?」
俺の最強に可愛い妹です。
「ほら、いつも雫月様と透様のお迎えの車に小さい女の子が乗ってるじゃない。きっとあの子よ」
「ああ、透様の従妹ね」
ノー芽里の従妹。イエス俺の妹。
「彼女かと思っちゃった」
「あの言い方じゃあ彼女のはずがないでしょ」
まあ確かに。雪の彼氏は俺の厳正なる審査に合格したやつしかなれないからな。
雪がいる。雪が俺を見ている。わーわーやっている間に始まってしまった体育祭。長い校長の話が終わって、競技の説明が終わって、そうこうしているうちに三十メートル走が始まる時間になった。本当は三十メートルなんて死ぬほど速く走れるのだが、いかんせん目立ちたくない。若干手を抜いて二位か三位ぐらいでゴールしようと思っていた。なのに。
「征太、おにいの走りをばっちりおさめといてね」
「もちろんですよ、お嬢様たちのために修得したこのカメラワークでお坊ちゃまを完璧にカメラにおさめましょう」
お坊ちゃま言うな。じゃなくて、もちろん二人は割ると離れたところで話しているのだが、どうにも読唇術がうまくなったようで割と何を言っているのか聞こえるのだ。さてどうしたものか。雪が俺の勇姿を期待しているぞ。
……やるか。
俺は決心した。雪のために走ろう。どうせ陰キャだから肝心なのは誰が走ったかじゃなくてどの組が走ったかだろ。
「次の人準備してくださーい」
スタートラインに立って、まっすぐ前を見据える。
「位置について」
あー、応援してくれてる雪もさくらも可愛いな!
「よーい」
パン、とピストルの音が鳴った。その音と同時に、俺はゴールに向かって走り出す。必死感出したくないからな。余裕ぶって走ろう。一緒に走っていた女子三人をおいて軽々と三十メートルを駆け抜けた俺は小さく肩で呼吸しながら邪魔な前髪を耳にかけた。
「一位、青組!」
青組の観覧席から歓声が上がる。うーわ、ライブの時みたい。居心地悪。早く席帰ろっと。こそこそと遠回りで席に向かっていると、おもむろに芽里が席から立つのが見えた。だんだんこっちに近づいてくる。あ、後ろから女子軍がついてきてる。お互い向き合うような形で歩いていたから、俺は芽里とすれすれですれ違った。その時芽里がぼそりと何か言った。
「お疲れ様、かっこよかった」
まじか嬉しいなありがとう。頑張った甲斐があった。やっぱりこの三人だよなー、世界で一番かわいいのは。さくらは天然だし、雪はツンデレだし、芽里は優しい。いたる人に自慢したい。そんなコミュ力ないけど。
さて、そうこうしているうちに五十メートル走、百メートル走が終わって二百メートル走になった。次は芽里が走る番だ。頑張れー。
「位置について、よーい」
パンッ。もう今日だけで何十回も聞いたピストルの音が鳴る。やっぱり芽里は速いな、かっこいい。こんどは堂々とできるので、征太が全力で動画を撮っていた。因みに雪はさくらの膝の上でのんびりしながら応援していた。癒し。
「一位、青組!」
「きゃああああ、透様かっこいい!!」
黄色い歓声が会場を包み込む。芽里の顔死んでるんだけど。
「位置についてー」
次の人達が走り始めてもまだ芽里に対する歓声が上がり続けていた。アンコールほしいライブかよ。そしてその次の人が走り始めたあたりでようやく静かになってきた。もう二百メートル走この組で終わるんだけど。最後まで最初の方に走った人に歓声あげ続けるってなかなかやばいよ。
「次の四百メートル走に出場する人はスタート位置に集まってくださーい」
さて四百メートル走。我らが兄ポジション、四人の中で一番陽キャ寄り――まあそれでもド陰キャだけど、雫月が出る種目だ。しっかり応援させてもらおう。
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長い事更新できてなくてすいませんでした!きょうから更新頑張りますよ~。
次の更新は明日です!
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