第11話メイドが天然すぎる
「ただいまさくら」
「おかえりなさいませお嬢様、雫月様!」
「めりねえしづにいおかえりなさーい!」
学校が終わって、正門から芽里と雫月が車に乗ってくる。後ろの女子たちを振り切って発車した後芽里は息をついた。
「透、
「もちろん。転校して別のイケメンを狙いにいくっぽかった」
「うわあ、ご愁傷様」
おい初姫の心配はどこに行った。そんなことは気にせずに自分に抱きついている雪を撫でながら、芽里が俺にこれ見よがしにどや顔してきた。そこ代われ。お願いだから。ずるいよ。俺の妹なんだぞ?
「今日はみんなで外食しに行きましょうね~」
「さくらとデートしていたら買い物の存在を忘れていましてね」
……お前らほんとに執事とメイドか? 別にいいんだけどさ。
「せっかくですから何か買っていきましょうね。お嬢様方は何が欲しいですか~?」
「お坊ちゃまは戦隊ものの変身グッズ(セイカの製品)ですね。了解しました」
「俺何も言ってないんだけど!?」
なんでわざわざかっこの中まで言うんだよ。俺今見てないから何やってるのか知らないしもらっても意味ないよ。
「というか俺はどうするんだ? 芽里たちと一緒にいられないぞ?」
「そこは私に任せてくださいな。お坊ちゃまを美人さんにしてあげますから!」
やっぱり俺は女装か。そうだな、そうだよな。
「どこに行くか決まってるのー?」
「まだですよ。どこがいいですか?」
征太の返事を聞いた雪は少し考え込んでからこういった。
「前行ったフレンチのお店がいいー! さくらのご飯ぐらい美味しいもん!」
花の綻ぶような微笑み。可愛いんだけど雪、あの店確か三ツぼ……考えるのはやめようか。さくら喜んでるし。うん。
ということでいったん家に帰った俺たちは、着替えて俺だけ陰キャから美人|(芽里と雫月と雪はそのままで十分だから)にされ、再び車に乗り込んだ。さくらのメイドではない格好が新鮮だ。見慣れないし。ただ征太はいつもスーツなので少しデザインが変わっただけでは違和感がない。ものすごく見慣れている。
「ふふふ、似合いますか? 慣れないな~」
「似合ってるよー! さくらかわいいー!」
俺もそう思う。でもやっぱり、俺はさくらのメイド服姿が一番だな。変な意味じゃないぞ。
「っていうかおにい変ー!」
「俺だって思ってるよ! 俺だってさくらにやってもらったら美人になれたのか!」
これはつまり、俺の女装が下手だっていうことなんだな。よくわかった。
「最初からさくらに頼んでおけばよかった……でもやっぱり目立ちたくないから嫌だ……」
この前は貸し切りにしたから普通に女装男装なしで行けたけど今日はそういうわけにもいかないからさくらにやってもらったのはこれが初めてだ。さくらはなんでもできるんだな……
「あ、ヘッドドレス外してくるの忘れてた! にゅ、入店拒否されてちゃう……?」
見ると、さくらの手には今外したヘッドドレスが。……いくら何でも入店拒否はないと思う。
「大丈夫だよ。それにここで外してつけていかなければいいだけなんじゃないかな?」
「あ、ほんとですね。外せばいいんでした~! 雫月様ありがとうございます!」
そして、そう言ったのになぜかそれを付けなおすさくら。なんで……しかもそのままにこにこしてるから言いづらいな……
「さくら? 言いにくいんだけど、ヘッドドレス……」
「え? あ、あれ、なんでもう一回つけたんでしょう!?」
天然なんだな。雪ほどじゃないけど可愛いから許す。
「いけませんね、メイドの癖が付いちゃって」
「さくらは可愛いから大丈夫だよ」
「えへへ、そうですか? 嬉しいなあ、征太さんに可愛いって言われちゃった~!」
征太はさくらと話すときは腹黒さが薄くなるのでまるで別人だ。ちなみにさくらは征太が腹黒いなんてたぶん思ってないと思う。ふわふわの天然メイドとこんな腹黒い奴が夫婦だなんて……何回も言うけど信じられないよ……
「征太、まだつかないのー? 私おなかすいた……」
「もうすぐですよ。ほらついた」
ぱっと顔を輝かせた雪は、さくらと手をつないで歩き始めた。
「いらっしゃいませ
この前は青葉・茜音名義で貸し切ったから今度は園乃唯。この前はさくらはメイド服で、征太は執事の格好で来ていたからたぶんばれることはないだろう。たぶん。あ、でも雪と雫月はあぶないな……黙っておくように言い聞かせないと。
「さくら、私これがいい!」
「わたしはこれで……」
「は~い! お嬢様はどうされますか~?」
お嬢様って他にいたっけ? 俺のことか。お坊ちゃまって言われ慣れすぎた。
「私はこっち」
「僕はこれかな」
やっぱりこの六人でいると落ち着く。でもやっぱり、女装してると色々めんどくさい!
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