第16話俺、有能説()

久しぶりですね。


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やっとのことで倉庫裏までたどり着いた俺は、高速で来ていた服を脱いでジャージに着替えた。髪をお下げに戻して赤縁の眼鏡をかける。よし、いつもの俺。というかこれがいつもの俺って何なんだよ。俺別に女装趣味とかないんだけど。別に顔がかわいい系ってわけでもないしさあ、化粧でかなりごまかしてるもん。


「ではお坊ちゃま、後半の競技も頑張ってくださいね?」


にっこり笑顔で言ってきて可愛かったので、気分は最悪だけど午後も頑張ろう。ついでに芽里と雪も頑張ってね♡って言ってくれないかなあ。ま、言ってくれないか。


そうして閉会式を迎えて、とりあえず俺は早々に引き上げた。いつもの帰りのように裏口から征太の車に乗り込んで、正門で芽里と雫月を待つ。


「征太ー、今日のご飯何ー?」


「今日は外食の予定ですよ。どのお店がいいですか?」


せっかく自分たちが私服だし、お嬢様方が頑張ったから、という理由で外食になったそうだ。 


「あ、征太にさくらに雪ちゃん。ただいまー」


ファンクラブを撒いたようで気の抜けた声を出しながら芽里が車内に入ってくる。おいまて、俺もいるんだぞ俺も。いなかったことにするな。


「ねーねーさくらー、今日のご飯は?」


「ふふ、お嬢様方はご飯が大好きですねえ。今日は外食ですからお好きなお店か料理を指定してくださいね」


そんな食い意地張ってるみたいな言い方されたら笑っちゃうだろ。こらえきれなくて小さく吹き出したら、にっこり笑顔で芽里に睨まれた。


「雪ピザ食べたーい。ピッツェリア行こうよ」


「さんせー!」


六人全員が同意したのでいつも行っている、少し遠くなのがなんだがピッツェリアに向かった。



「はふう~、疲れたあ~」


おなかがいっぱいになって気が抜けたのか、芽里が車に乗ると同時に座席に倒れこむ。地味な格好で5人に並ぶわけにもいかず俺は格好をいじってあったので、雪の後に続いてトランクではなく座席に乗り込んだ。


「ライブはこんなに疲れないのにさあ、なあんで学校行事ってこんなに疲れるんだろ。最悪う~」


ああ、むすっとした顔もかわいーなあ。まあ彼女は今限りなく美少年なのだけど。仕方ないね。男装してるわけだし。


「しかも来月には学園祭準備が始まるし、これほど嫌なことはないよね」


困ったように眉を下げながら雫月は笑った。


「また今年も舞台発団にされそうだよ。もうちょっと陽の人たちに対する意志が強ければなあ」


去年雫月は、もちろん顔の良さと全校の人気から舞台発団所属の主演に押し上げられ、その発団は最優秀賞をとった。確かに雫月一生懸命でかっこよかったけれど俺はあれが最優秀賞と聞いて正直運営の頭を疑ったものだ。雫月の顔だけで決められたようなものではないか、と思えるほどひどい出来だったからだ。二年生の劇の方がよっぽど面白くてクオリティが高かった。


「ええー、雫月が出るなら私が出されることは決まりじゃない。だってクラスの子たちが雫月に勝つには私しかいないって言ってたもん。最悪。私影を薄くできる教室発団に入ろうと思ってたのに」


「あ、それに関しては安心していいぞ」


肩を落とした芽里に俺はにやにや笑いながら答える。


「俺たちは学園祭の日、二日とも仕事だから参加できない」


「え!? うそ!! ほんとに!?」


俺がそう告げたとたん、三人はきらきらの瞳で笑顔で俺の手握ってきた。俺有能だろ。


「その日学園祭の学校四校ぐらいからライブをしてほしいって頼まれてるんだ。どこもいいとこの学校で、ほんの一曲だけでいいから生徒たちを楽しませたいって言われて。ちょうど俺たちの学園祭に被ってたし一曲ぐらいならいいですよって承諾した」


「全然いい!! ずっと誰かに注目されてるより一瞬だけわって注目されてさっさと解放される方が何倍も嬉しい!!」


「僕もついてっていいんだよね!? 助かった~」


助手席で俺たちの会話を聞いていたさくらがにこにこと笑っている。


「では芽里お嬢様と雫月様の欠席連絡をしておきますね。透お坊ちゃまはご自分でお願いします!」


「あ、はい」


学校で俺と芽里は何も関係がないことにしているとこういう弊害が出てくるんだ! なんで俺には親設定のやつがいないんだよ!!


「そりゃあお坊ちゃまは私たちのほかにメイドやらを雇ってませんからね。ぜひご自分でどうぞ」


平然と心の中を読んで、しかも笑顔で毒は吐いてくるこいつは本来俺の執事なのだ。本来は。


――――――――――――――――――


これからは毎日投稿再開しようかと。次の更新予定は十月五日です。

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