第17話仮面の白雪
「おはよう」
なんだかいつにもまして生き生きとした表情で入ってきた担任に、俺はいささか既視感を感じ静かに天を仰いだ。ちらりと芽里の方を見れば、彼女も何かを感じ取ったのかげんなりした顔をしている。そしてどうやらそのいらない勘は当たりそうだ。
「転校生がいるんだ」
うん、転校生来る頻度おかしいよね。うち受験して入るタイプの学校ですけど??? 大丈夫? 限りなく裏口入学じゃない?? 試験やってる??? 大いなる疑問だが今度は誰なのかと、金持ちの人間たちを脳内で浮かべながら俺は扉が開くのを待った。
「入ってきていいぞー」
がらりと音を立てて教室の扉が開く。ざわついていた教室が、さらにざわついた。そして俺は眉をひそめた。
「ごきげんよう皆さま」
ボブカットで内巻きくせ毛の黒髪、艶やかな紅いくちびる。頭に白いヘッドドレスを付けた少女はスカートの端をつまんであどけない――とかいてあざといと読む微笑みを見せた。
「わたくしは
西園宮彩々愛。金持ちトップ20位のうち17位。影のうっすう~い西園宮家(何をやっている家なのかは忘れた)の令嬢。俺たちはこの少女のことを……白雪彩々愛と呼んでいる。だっていつも白雪姫狙いに行ってるもん。今日だって腕に白雪姫を彷彿とさせるリボンを巻いている。ドレスの時なんて特にひどい。結構狙ってやってくるからか、パーティーなんかに行くとかなり嫌厭されている印象だ。
「あそこの席に座ってくれ」
そう言って教師がさしたのは案の定初姫が去ったあと空きになっていた俺の隣の隣の席だ。そこ一体何の場所なんだよ。おしとやかそーに歩いてきた彩々愛が席についた時に浮かべた笑顔に俺は目を見開いた。あー、これはまあーたひと悶着ありそうだ。主に芽里と、雫月に。
放課後まで、彩々愛は特に何も接触して来なかった。だがこれでもう安心だとは到底思えない。その予想が的中したのか、帰る前に囲まれていたところに彼女は割り込んでいく。
「皆様少々お時間を下さいませね。透さん、雫月さんのお教室はどこですの? 道に迷ってしまってたどり着けませんでしたの。教えて頂けませんこと?」
こてんと首を傾げて上目遣いで聞いてくる彩々愛にきゅっと芽里の眉間のしわが深くなる。なんてことしてくれるんだ。俺の可愛い芽里の額にしわの後がついたら困るだろ。
「……正面玄関に地図がありますからそれを見ればいいのでは」
塩対応で帰る準備を再開する芽里。だがさすがは金持ち令嬢(偏見)。そうやすやすとターゲットをあきらめるわけがないのだ。彼女は芽里の腕をつかみやんわり握り締めた。
「透さんにお話がございますの。こみ入ったお話ですから外でお話させてくださいな?」
芽里のその美しい顔から血の気が引くのを俺は見逃さなかった。
「で、要件とはなんですか彩々愛嬢……」
かなり奥まったところまで目立つ芽里とあたりの視線をものともせず彼女を引っ張ってきた彩々愛は、嫌そうな顔をする芽里に挑発するような視線を寄こした。因みに俺は存在感がないので堂々とついて行ったがばれなかった。
「わたくしにそんなに偉そうな口がきけまして? ひどいですわ、わたくしはあなたの未来のお姉さまなのに」
「はあああああああ!?!?!?」
はあああああああ!?!?!? 危ない、俺も芽里と一緒になって叫ぶところだった。おい、今なんて言ったんだ白雪彩々愛!?!? あなたの!! 未来の!! お姉さま!?!?!?
「そんなこと聞いていない。一体どういうことだ!」
出来るだけ平静を保って、男装を崩さないように彩々愛を問い詰める芽里に彼女は不敵に笑う。
「あら、初めてお知りになったの? あなたのお母様はまだお二人に知らせていらっしゃらなかったのね。 では改めて自己紹介いたしますわ」
いやいやいやどういうこと!? 大混乱だが時は待ってくれない。
「わたくし西園宮彩々愛は、あなたのお兄様の紗夜花雫月さんの許嫁ですわ」
ストーップ、一旦落ち着いてくれ。雫月に許嫁がいたなんて初耳だぞ!? 本当に!? 本当なのか!? 親が親だから絶対にないと言い切れない!!
「っあ、兄に連絡させてくれっ」
慌ててスマホを取り出し雫月に電話をかける芽里に彩々愛は満足そうに微笑む。
「もしもし雫月!?」
『息せき切ってどうしたの、透』
「今すぐ体育館裏の奥の奥の奥の方まで来て」
それだけ言って彼女はぶちっと電話を切った。おお豪快。落ち着かない様子でうろうろしている芽里のもとに程なくして雫月が到着する。
「いったいどうし……」
ずっと芽里をとらえていた彼の瞳は、彩々愛を見た瞬間こぼれんばかりに大きく開かれた。青い目が宝石のようだ。まあ普通驚くよな。嫌厭されがちな白雪彩々愛が目の前で不敵に笑ってるんだから。
「ごきげんよう雫月さん。あなたのお母様、まだあなたにわたくしのこと言っていらっしゃらなかったのね。会えて嬉しいですわ」
「あーえっと……君はどちら様……?」
笑顔を崩さず冷や汗を流しながら困惑して尋ねる雫月に彩々愛はとびっきりの笑顔で答える。
「わたくしは西園宮彩々愛。雫月さんの許嫁ですわ」
「ええええええええええええ!?!?!?!?!」
おそらく彼の今年一番の絶叫が、秋晴れの空に響き渡った。
――――――――――――――――――
新キャラささめちゃんの登場です!ぱあ。
次の更新予定日は10月7日です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます