第15話注目されてどうする
「ねえ……あの女の子誰……?」
「さあ……」
昼食後六人でのんびりしていると、そんな声があちらこちらから聞こえてきた。俺の存在を気にしているのはどうやら生徒たちだけでなく、教師や生徒の保護者達もこちらをちらちら見ている。
「もしかして透様か雫月様の彼女!?」
「兄弟かもよ」
色々な推測が飛び交ってるなあ……正解を教えてあげようか? 俺はねえ、雪のお兄ちゃんで蒼井透っていうんだあ。
「ねえでもよく見て、なんだかあの透様の従妹の子に似てない?」
「あー、確かに!」
おおー、そこの女子、察しがいいな。でも俺は可愛い雪のお兄ちゃんだからな。お姉ちゃんじゃないからな。
「じゃああの子のお姉ちゃんかな? 背高くてモデルみたいだしあの服を完璧に着こなしてるよね」
「お人形さんみたーい!」
くっ、屈辱……! くっそー、征太め、主人にこんな扱いしやがって。
「あ、あの」
突然、誰かに声をかけられた。声をかけてきたのは生徒の保護者。因みに知らない人だ。
「娘から聞いたんですけれど、紗夜花さんの保護者の方ですよね?」
「え? ああ、そうですね。初めまして」
征太が全力の営業スマイルを浮かべて答えた。こいつはこんなんでも仕事がタクシー運転手なのでいかにも愛想がいいようにふるまえるのだ。
「ご両親ではないんですよね? 確かご両親のご兄弟だとか……」
「ええ、二人の両親は海外に赴任中でして。私たちが預かっているんです」
海外に赴任中だって。随分いい感じに言うんだな。真面目な会社員ぽい感じでてるよ。実際はパリピなのにな。前にも言ったが俺たちの両親は超パリピ陽キャで、大企業セイカの社長なんかをやっていて年がら年中忙しい。一年ぐらい前に“本場ディ〇ニー行ってくるー!”って言ってアメリカに仕事しに行って帰って来てない。ほんとなんなんだあいつら。
「じゃあ、そちらの可愛らしい娘さんはお二人の子供さんですか?」
俺娘じゃないんだけどなあ。しかもさくらと征太の子供じゃないんだけどなあ。こればっかりは仕方がないなあ。身バレ怖いし。
「はい、そうですよ」
「え~、こんなに大きなお子さんがいるなんて全然見えないです!」
そりゃあそうだろ。俺も無理がありすぎると思うよ。二人の実年齢二十と十九だもん。
「ありがとうございます。お姉さんもとっても美人な方ですね」
ふんわりと、さくらが笑った。どう見てもお姉さんの年齢じゃない気しかしないが、彼女が納得しているので良しとしよう。
「また役員だとかでお会いできるかもしれませんね」
「はい、またお会いできればいいですね」
ぺこりと頭を下げて、彼女は去って行った。この状況で俺たちに話しかけられるなんて大した度胸だと思う。話し終わったさくらはテントの奥の方に潜り込み、そしてはああああ、と大きくため息をついた。
「緊張したあ」
「よく頑張ったね」
さくらは人見知りなので、知らない人と話すのが苦手だ。よくそれでカフェの店長ができるなと思う。
「お嬢様たちを自分の子ども扱いしたり上から目線で話してしまいました……」
「いいよいいよ、仕方ないし」
そんなこと気にしなくてもいいのに。メイドという立場を気にしているのだろうか。征太を見てみなよ、雇い主に対する態度じゃないからさ。
「そろそろ着替えないと時間が無くなるからいいかな?」
「あ、はい、行きましょうか」
時計を見て、もうすぐ一時だということを確認した俺はテントを出てさっき着替えた場所までさくらとともに歩き出した。なるべく母娘感を出して。
「やっぱり透様の親戚の方々は顔立ちが整ってるよね」
「いいなあ」
そっかそっか、因みに血縁関係があるのは芽里と雫月のペア、俺と雪のペアだけだけどね。家族ぐるみの付き合いってだけ。さくらと征太とかちょっと前まで全くの他人だったから。
「あの透様の従妹のお姉さん? モデルとかやってるんじゃないの? 調べたら出てくるかな」
「コスプレイヤーとかかもよ? 私も調べてみる!」
残ねーん。調べても出てきませーん。俺はモデルでもコスプレイヤーでもなくアイドルですー。いつも俺の存在認知してないのにちょっと容姿いじっただけでみんなの注目の的だよ。嫌だなあ、目立ちたくないのに。注目とかされると吐き気とめまいで倒れそうになるんだけど。なんとなく見られたくなくて、さくらが持ってきてくれていた日傘をさして視線を遮った。これまた見事なゴスロリ日傘だ。どこに売ってんだよこんなの。
「あー、顔隠しちゃった」
「でもクールな感じでいいよねー!」
なんでそうなるんだよ! 単純に! 人が怖いだけです!
「さくら……もう嫌だ……」
「あとちょっとなので我慢してください……」
申し訳なさそうにさくらがそう俺を慰めてくれる。あー、もうやっと女装から解放されると思ったら次も女装なんて絶望しかねえー!
――――――――――――――――――
さくらが可愛い。
次回の更新は3月28日になります。ちょっとあいちゃうけど許してね。その間は別の作品を更新してます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます