第19話え……?

『で? 一体どこの誰デス? シヅキの許嫁なんてデタラメ言ってるのは!』


怒っているというかなんというか、少々子供っぽい声が聞こえてくる。雫月ははあ、と息をつくと、忌々しそうにその名を告げた。


「白雪だよ。西園宮彩々愛」


『サイオンノミヤササメ……影の薄い最下位のサイオンノミヤ家のことデースか?』


あれ、西園宮家って金持ちトップ20の20位だっけ!? おれずっと17位だと思ってた……というか俺たちの家の全員から影が薄いって思われてる西園宮家、爆笑すぎる。ほんとになんの家かわかんないんだよ。ごめんてわらわら。


「そう。なんか所詮は親同士の口約束だからそんな風に言うのも無理はない、でも自分はこの結婚を夢見て生きてきたから謝罪が欲しい。だから破棄したければ慰謝料払えって言われたんだ」


『なんて悪質デース! そこまでしてシヅキと結婚したいデースか!?』


その言葉に、雪がひっそりと首を傾げた。なになに? なんかわかった? わかったら教えてね。


『それで、慰謝料は何円デース!?』


とりあえず聞いておこうと思ったのか、意味が分からないといったように彼女は雫月に問いかける。あれ、でもさあ、慰謝料の金額言ってなかったよね?


「そう言えば言われてない……かなりの高額奪い取られるかもしれないな」


うわあいやだ。金ならあるけどそういう問題じゃないし。車の中が一気にため息の嵐になる。その時だった。ずっと黙りこくって何かを考えていた雪が、あっと声を上げたのだ。


「待って!」


「んどうしたの? 雪ちゃん」


不思議そうに芽里が雪を覗き込む。画面の向こう側からもどうしたデースか?と声が聞こえた。


「西園宮家、なんだか心当たりがあったんだけど、思い出した!」


何思い出したの、早く教えて。


「あの家ね、確か……」


「確か?」


ごくりと唾を飲み込む。


「結婚詐欺一家、だよ」


えっ。えっ。


「「えええええええええええ!?!?」」


「結婚詐欺!? それっとほんとなの!?」


信じられない、と芽里が雪に詰め寄った。ほんとだよ。どこ情報? 聞いたことない。そんな面白い情報なら教えてよ……


「西園宮家はもともと17位ぐらいの割と大きな会社の一家だったんだけど、今の代で経営が悪すぎて倒産したんだよ。西園宮ってあんまり表に出してなかったからほとんどの人は知らないけど。ほら、聞いたことあるでしょ? なずな生命保険」


『知ってるデース!』


俺も知ってる。というか17位ってのは一応あってはいたのか。


「幸い西園宮家は元がかなりお金持ちだったからすごい借金を負ったとかそんなのはなかったんだけど、さすが倒産させた今の代がどうにかしてお金をもとに戻そうとして新規事業を始めたの。親族から非難されまくってちゃんとした事業も始めてるんだけど、それでもお金に目がなくて娘の白雪の容姿を使って何度も結婚詐欺させてるんだよ。ほとんどは白雪の可愛さに絆されて詐欺に気づいてないから被害届も出てない」


西園宮家がかなりやばい家ってことはわかった。今の代やばすぎだろ……


「結婚詐欺の話は雪が独自に調べたからちょっと間違ってるとこがあるかもだけど、大筋は確実にあってるから安心して」


「安心できない」


その通りだよ。全然引っかかるとかそういうのはなかったけど、気づかないままだったら怖い。


「はあ……」


当の本人はおかしな話だがまさか詐欺だとは思っていなかったようで特大のため息をついていた。俺だって同じ気持ちだもん。――まさか白雪が顔じゃなくて金目当てだとは思わないもんな……雫月たちは別にお金持ちだと言ったことはないし、いつも迎えに来るさくらたちも叔父叔母扱い。今までの告白はすべて顔目当てだったのだ。驚くのも無理はない。


『それじゃあそっちでなんとかできるデースか? コッチは深夜デースからそろそろ切るデス』


そうしてすべてを俺たちに丸投げして、マリアンヌ母さんは電話を切った。おい。


「なに? 警察に突き出したらいいの?? そもそも白雪って自分から結婚詐欺やってるの? 自分の意志じゃないの?? どっちなんだよ……」


頭を抱える雫月を雪がよしよしと撫でる。あー、雫月だけずるいだろ!! 俺にもやって、ねえ雪!!


「とりあえず忠告して聞いてみたら? なんかしてくるんだったらおにいがその場で警察呼べばいいじゃん」


どうやら俺はその場にこっそり居合わせることが絶対らしい。


「また会わなきゃいけないなんて最悪だ。全く人騒がせな……」


「それにしても雫月様のお母様、素敵なお声でしたねえ。外国の方でしたよね? 日本語お上手です!」


にこにこしながらさくらが聞いてきた。今その話? そういうとこもいいと思うよ。


「まあね。カタコトだけどね」


よく会話に母国語も混ぜてくるから厄介だ。俺マリアンヌ母さんの母国語喋れないし。なんならうちの親と芽里たちの父親もノリで話してるみたいなところはある。旦那ならちょっとは勉強しようよ。


「いつかお坊ちゃまたちのご両親にお会いするのが楽しみですね」


楽しみなわけがあるか。征太だって構い倒されるから覚悟しといたほうがいいと思うよ。


――――――――――――――――――


そのうち親全員出てきます。

次の更新予定日は十月二十八日です!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る