第20話本当のスノーホワイト
重いです。
――――――――――――――――――
「それで? お返事はいかがですの?」
次の日の放課後、またもや彩々愛に呼び出された雫月と芽里は、昨日と同じ場所にいた。因みに俺も昨日と同じ場所である。なんで。
「彩々愛嬢……」
きゅ、と芽里の眉間にしわが寄る。ああっ、ほどほどにしておいてね。跡になるから!! ゆっくりと彼女とに距離を詰めると、雫月がにっこりと笑う。
「結婚詐欺、して楽しいか?」
彩々愛の顔色が変わった。その美しい顔から、表情が抜け落ちる。
「な、」
「言い逃れは出来ないけれど。詐欺って犯罪だよ?」
笑顔の圧力が怖い。
「今回は警察に言ってないけど、次やれば今度こそ捕まるかもしれない。西園宮家は詐欺しなきゃいけないほど貧乏じゃないのに、お金には困っていないはずなのにどうしてそんなリスクを冒そうとするのかな。きついこと言うけれど、君のお父さんはどうしてそんなに強欲なんだろう。止めた方がいいよ」
言っていることはすべて正論だ。本来ならここで捕まってもおかしくない状況なのに、僕たちによって西園宮家は生かされている。でも彩々愛の大きな目には、どんどん涙がたまっていく。
「君もそれに嬉々としていっしょにやっているのか、それともやらされているのか分からないけどこれからはやめ……」
「おかあさまが悪いのです!」
とうとう、ぽろりと大粒の涙がこぼれた。一度決壊したら止まらないようだ。次々と雫が頬を伝い、地面へと落ちていく。
「お父様は悪くないのです。おかあさまがお父様を操ってる。お若いころお父様は会社の経営があまりうまくいかなくて、それでもわたくしのお母様と結婚なさってわたくしが産まれて、とても幸せにお過ごしだったのです。でもお母様がわたくしを産んで間もなく亡くなられて、悲しさとさみしさを紛らわせようと、わたくしを育ててくださる方を、と今のおかあさまと再婚なさったのです」
おかあさま、とわたくしのお母様。どうも家庭事情が複雑らしい。今までたったの三人しか登場していないのに、すでに母親が二人いる。というか操ってる!? それやばくないか。
「それがだめでした。おかあさまは何か会社を経営してらっしゃっただとかそういうことはない御方だったのにお父様にうるさく口出しするようになられて、とうとうお父様は会社を倒産させてしまったのです。お父様はひどく反省されたのです。それから必死に立て直そうとされて、でもおかあさまはいつまでだっていらない知識をお父様に吹き込むのです」
うわあー、素人は黙ってろよ……確かに意見することは大事だ。でもこれではまるで、その継母が倒産の原因だ。
「おかあさまはとっても美しい方で、最初のうちは優しくて、でもだんだん大きくなるにつれてわたくしに冷たくなられて、わたくし嫌われてしまったのかとひどく落ち込んだのです。そうしていたらおかあさまにお部屋に呼んでもらえて、嬉しくってそのお部屋に行ってしまったのです」
彩々愛が、思ったより複雑な事情を持っていたことに驚きを隠せない。ずっとただあざとく男をおとそうとしているんだと思っていたのに。で、その続きはどうなったのだろうか。気になって仕方がない。
「おかあさまは入ってきたわたくしにいきなりナイフを突きつけたのです。そしてこうおっしゃった。『私より美しい顔が許せない、このナイフで一生の傷をつけてやる』と。怖くて必死に逃げ回りました。その時どうしてそんなに言われなければならないのかと思ったの。だってわたくしの目にはいつだっておかあさまこそとても美しいお方に映ったから」
目元を覆って泣き続ける彩々愛。いや継母怖い。ナイフ!? 殺人未遂じゃん今すぐ離婚しな!?
「とうとう最後におかあさまは、そんなにその顔が大切ならその顔を使ってお金を稼いでらっしゃいとおっしゃいました。そして、一円でも稼げなければ家に入れないとわたくしを屋敷の外に締め出したのです。わたくしどうしたらいいか分からなくって、咄嗟に誰かお金のありそうな若い男性に声をかけて今回と同じようなことを……」
よし、児童相談所に行こう。今すぐ出ていって連れて行きたいきたい気持ちをおさえて、俺はその様子をかたずをのんで見守る。どんだけ壮絶な人生なんだ白雪彩々愛。
「家に帰って、どうしたのか教えろとまた追いかけまわされて、味を占めたおかあさまに言われて続けて今に至るのです。おかあさまなのです。お父様は何にも知らないのです」
彼女はわっと泣き崩れた。咄嗟に雫月が支える。
「ねえ彩々愛嬢」
やわらかい雫月の声が風に乗ってふわりと紡がれた。
「君は偉いよ。よく頑張った。だからもう詐欺なんてしないで。君はとってもきれいだよ。きっと、すぐに素敵な相手が現れる」
「雫月様……」
あーあ、その激甘ヴォイスで何人をおとしてきたんだ。推定数百万人ですね。知ってます。
「お父さんに相談しよう。どうにもならなかったら、僕たちのところにおいでよ。一緒に相談しに行こう。だからもう泣き止んで。お母さんに怒られないようにとりあえずお金はわたしておくから、ね?」
こくこくと彩々愛が頷いた。ぎゅっともらった札束を握り締めて、言葉を絞り出す。
「ありがとうございます、わたくし、頑張るから、どうか」
「信じてるよ」
心の底からほっとしたような、やっと解放されるとでも言いたげな表情で、彼女は去っていった。きっとあの言葉は全部事実だ。どこかで聞いたような美しさを巡ったいざこざ。白雪は、
「本物の白雪姫だったのか」
―――――――――――――――――――
思い付きで彩々愛が白雪姫になりました。いい感じになったと思うよ。
次の更新予定日は十一月十五日です
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます