第22話手配が早い。

「透やばい」


十二月。期末テストの真っ最中のある日に、帰りの車で芽里は神妙な顔つきでそう言い出した。なになに、怖いんだけど。


「何が?」


「最近さあ、家の近所のスーパーとかにね、パパラッチっぽいのが来てるみたいで」


はあああああ!? なんだと!?!? パパラッチ対策でここまで、女装とか男装とかをやっているので俺たちは今までどこかの週刊誌にすっぱ抜かれたり、テレビで私生活を報道されるなんてことはなかった。むしろ謎に満ちた生活として数多くの憶測が飛び交っている。全然謎に満ちてないけどね。芸能人も人間なんだからプライバシー守る権利はあるだろ。お前ら憲法かなんかに違反してるよ??


「とうとう来てしまったか……なにかまずいことしたっけ」


「してないけど、紗夜花透としての噂が広まったかも。だからなんかの芸能関係者って思われてるのかも……もしかしたら他の芸能人がこの辺に住んでるのかもしれないけど……」


うわあ、芽里の顔がいいばかりに……でもそろそろ潮時かもしれないし……


「引っ越すかあ……」


割と最近考えていたこと。だって父さんたちも帰ってこないしな。勝手に家変えたところで怒られないだろ。というかそもそも怒られた記憶がないな。今俺と雪は小さいマンションの一室に住んでいて、芽里と雫月は一軒家だ。目立つような豪邸ではないが、特に芽里の家は外からのぞかれれば一発で顔がわかってしまう。そのためになるだけカーテンは閉め切ってるけど、ご近所付き合いもあるので簡単にはいかない。


「遠くに行くんですか?」


「別にこの辺から離れる訳じゃないよ」


心配そうにそう尋ねてきたさくらに俺は安心して、と返した。だってここから離れたら雪の中学の校区から外れるだろ。困る困る。


「もうちょっとセキュリティがしっかりしてるところがいいなと思ってたところでさ。ちょっと今の家はあまりにもがばがばすぎるかなって。特に芽里の家ね」


「わかる。透の家もマンションというかもはやアパートじゃん」


確かに。俺の住んでるとこ二階建てだからアパートだ。


「逆になんで今まで引っ越さなかったのか雪不思議で仕方ないんだけど。しかもめりねえ達とも別で住んでるし、家が近所って訳でもないし。なんでそんな家にしたの??」


「母さんたちに聞いてくれ……」


俺も大いに思ってたところだよ。


「とりあえず物件の目星はつけてあったから荷物の整理よろしく。引っ越し会社には頼めないから征太たちも協力して。大型の電気製品なんかは諦めよう。確かちょうど、変え時だったし」


「「了解」」


さて、俺も家の片づけしないとな。父さんたちの部屋を片付けるのは骨が折れそうだ。



「征太ー、こっちの段ボールも入るかな?」


テストが無事終わり、自宅学習日の今日、俺は征太と一緒に家の荷物を運び出していた。とりあえず一往復目で持っていける分をどんどん彼の車に積み込む。


「そろそろ行きましょうか」


「そうしたほうがいいかな」


俺は助手席に乗り込むと、後部座席にまで山積みにされた段ボールを見て少し笑ってしまった。これを一体何往復すれば、俺の家と芽里の家と征太たちの家の荷物を運び出すことができるだろうか。


「征太の家は片付いた?」


「そうですね、大方は。もともと必要最低限のものしかおいていませんでしたから」


まあそれは仕方ないね、二人とも高卒で働いてるから資金不足なのは仕方がないでしょ。


「芽里たちびっくりするかな」


「そりゃあされるでしょうに」


今後すむ予定で買い上げた新居を見上げ、俺はふっと息をついた。



さて、四日にわたってちまちま運び続けていた荷物はとうとうなくなり、家中がすっかりと片付いた。今日はいよいよ他の四人を新居に連れて行く日だ。場所を知っているのは俺と征太だけ。みんなをいつも通り乗せ、車が走り出す。


「ねえねえおにい、新しい家ってどんなところなの?」


「セキュリティがって言ってたしマンションだよね? この辺にいいとこあった?」


うーん質問攻め。ついてからのお楽しみだよ。


「ほらもうすぐ着くよ」


俺が目的地を指さす。するとさくらと、芽里と、雫月と雪は、目を見開いた。


「「えええええええええええええ!?!?!?」」


そう、俺が次の新居に選んだのは、最近――といってももうわりと前だけど、このあたりにできた高級マンション。の。


「ここ!? ここが今日から家なの!? やばすぎる……」


「確かにセキュリティなんてばっちりじゃん……」


口々にそういう四人を連れて、俺はマンションの裏側に回った。


「ほら、行こう」


小さなドアを開けて、少し広めのエントランスでエレベーターの上行のボタンを押す。驚くのはまだ早いぞ、俺頑張ったんだから。陰キャなのに。手続きかなり頑張った。すごい。


『扉が開きます』


明らかに広いエレベータ内にアナウンスが響く。そこを抜けて、目の前に現れた大きくて綺麗な扉を開いた。


「うわあ、ペントハウスだ!!」


「やばい! 最上階全部うちの家ってこと!?」


「荷物ほどいてないから何もないのにすでにこれでいい感じがします!」


それじゃあよくないよ、さくら。


「さあ、みんなで荷解きしようか」


――――――――――――――――――


高級マンションのペントハウスに引っ越しました。とはいえ透達、そんなに都会に住んでたわけではないのでたぶん地価はあんまり高くない。知らんけど。駅前とかでもなく、ほんとに緑の近いとこに建ったマンションと思われます……高いけどな……

次の更新予定日は十二月十六日です

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