第9話ライブの前に知ったこと
「おにいー 今日も満員だよー!」
「まじかあああああああああぁぁぁ!」
「雪ちゃんその天才的な頭脳で今日という日をなくしてえぇぇえええ!」
無駄に元気よく楽屋に入ってきた雪に、俺たちは抱きついた。まて芽里、いくら雪が天才だからといって今日という日を無くすのは無理だぞ。
「外を見て見たら? まだ全員入れてないぐらい。グッズが飛ぶように売れる 東京ってすごい!」
今日は週末ということで、東京の会場でライブだ。外を見るとそこには人人人人…… 人多すぎて絵文字に見えてきた。あれ、このくだりどこかで聞いたことあるな。
「うわぁー、人ばっかり 無理無理死んじゃう」
同じく外を覗き込んだ芽里はそう言った。そして、何かに気がついたのか小さく声を漏らす。
「あ……」
「めりねえどうしたの?」
雪の問いに答えることなく芽里はふらふらとそばにあった椅子に座り込む。
「大丈夫!?」
「あ、あの、ちょっ、無理……外見て……まだ入り口の近くをうろうろしてるはず……」
誰が? 何の話だ? 俺と雪と雫月はよくよく入り口のあたりを覗き込んだ。ちょっと待て。あれは……あれは……
「
「初姫嬢!? なんで!?」
「初姫嬢、ヴィオロザ好きなんだ……」
そこにいたのは、先日から俺たちが大変な思いをしている原因。ご丁寧に"翔様LOVE"だの"こっち向いて"だの書かれたうちわを持って青色のペンライトを持って列に並んでいる。その隣にはめんどくさそうな顔をした男の人が一人。たぶん初姫の家の執事か何かで、無理やり連れてこられたんだろう。グッズとか全部買ってくれるんだろうな。儲かる儲かる。さすがに全部買い占めはだめだから他の人の分がなくなることはないと思うけど。
「あ、おにい、タオル売切れたっぽいよ」
売切れたのか……皆買ってくれたんだな……
「そうかあ……初姫が見に来てるのかあ……」
「ねえねえ透。これって使えるかな……?」
使える? 何に? 何も分からないまま俺は首を傾げる。それを見た芽里は少しむっとした表情になった。可愛い。
「初姫嬢にね、ヴィオロザの翔と私どっちが好きって聞くの。推しと好きな人。気になるなあ。私と透、どっちが好かれてるのか」
「俺も気になる! 初姫にとっては推しと好きな人だけど実際はクラスメイトの陰キャと好きな人だからね」
こういうのって意外といいな。もちろん推しを選ぶんだよな? 俺だよな?
「もちろん私だよね! 推しとは接触イベントじゃないと会えないもんね! 毎日会ってるんだけどね! 笑える!」
「いやいやいやあの初姫のことだから金積んで会おうとするかもしれないぞ? 断るけど」
ライブの直前だというのに俺たちは何をやっているんだろう。そう思いつつやめられないまま笑いながら言いあっていたら、グッズの在庫確認に行っていた雪がいきなり間に入ってきて芽里に抱きついた。
「何の話かは知らないけど私はめりねえだと思う!」
「だよね! 雪ちゃんってば天才!」
……それはあまりにもひどくないか……? 雪だからもちろん許すけど……というか許す以前になにも怒ってないけど……
「それで、何の話?」
「あのね、初姫嬢は私とヴィオロザの翔、つまり好きな人と推し、どっちが好きなんだろうなって。気にならない? どっちを言っても否定する気なんてないけど」
さあ、話の内容を聞いて意見は? 変わったよな?
「ふーん……めりねえじゃない?」
「なんで!?」
まあでもいいか。どっちが好きか知ったところでだし、推しへの愛と好きな人への愛は違うからね。まあ実際はクラスメイトの陰キャとクラスの王子様なんだけどね。
「さあ、お客さん全員入ったしもう始まるよ。準備して」
「わかった! 雪ちゃん、後ろの飾りまがってない?」
最終チェックに入った芽里を横目で見ながら俺は会場を想像して深くため息をついた。どこかに初姫がいるんだろうな。推してくれてるのは嬉しいけど芽里に言い寄るのはやめような。芽里は俺のものだから。初姫、お前が恋してるのは今から俺と一緒に舞台に上がる茜音鈴だぞ。
――――――――――――――――――
複雑な推し事情。
悪趣味なことしてますけど許してください。こいつらが勝手に……(笑)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます