第8話変な人
「おはようございますわ、透様。ねえお願いだから案内してくださらない? 今日は手持ちがたくさんありますの」
今日もまた札束をちらつかせながら、
「……いらない」
冷ややかに芽里が告げた。よし、そのまま初姫になにか言うんだ!
「……その髪飾り、趣味が悪いな」
言ったー! それを見ていた周りの女子たちは驚きつつもやっぱりあんな人に興味はないんだ、とひそひそ話している。
「まあこれがですか?」
初姫が髪飾りを外した。ピンク色のりぼんに金の細工と大粒の宝石が縫い付けられている。髪飾りに宝石使うとかどんなんだよって思うんだけど。しかも初姫にはあんまりそういうピンクは似合わないし…… まじまじとその髪飾りを見つめていた初姫が顔を歪める。どこが悪いのか全く分からないと言った様子だ。
チャイムが鳴って席についた彼女はおもむろにかばんを漁り始めた。ピンク、黄色、黄緑、水色。紫に白。いろいろな色の髪飾りを出してはしまう。さっきからそれを繰り返している。授業を聞け。さっき趣味が悪いと言われたのが悲しかったのだろうか。分からないがこれだけは言わせてもらう。色が違うだけでデザインがほとんど一緒だから結局趣味が悪いの一緒だろ。
「えーここがだな……高円寺初姫嬢?」
流石にこれに気づかないはずがなく、授業をしていた教師が初姫に声をかけた。
「何か探し物でも?」
「い、いえ、ペンをかばんの中に落としてしまったみたいで」
飛び切りの笑顔を彼女は教師に向ける。ならいいが、と呟き、教師は再び話し始めた。
「清楚感のある白が一番かしらねえ……」
小さな小さな声が聞こえた。俺はその中では一番紫が似合うんじゃないかと思うけどな。まあ全部似合ってないんだけど。
「透様、これではどうでしょう。お気に召しませんか……?」
休憩時間になり一番に芽里に駆け寄った初姫は開口一番にそう言った。芽里が眉間にしわを寄せる。
「可愛いと思えない……」
それはきっと、初姫自身のこと。でもそんなことを言われて素直に引き下がるわけがない。
「あら、でしたら明日は違うデザインのものをしてきますわ。確かにこの髪飾りは可愛いと思えませんもの」
それはなあ、つける人によって可愛いか可愛くないかが分かれるデザインなんだよ。というかお前は可愛いと思ってるのかそうではないのかどっちなんだよ。
「そうじゃ……ない……」
反論した芽里の声は、彼女には届かなかった。
「初姫嬢、変な子だね」
帰りの車の中で、芽里はそう呟いた。
「だって私、初姫嬢のことを可愛いとは思えないっていう意味で言ったのに髪飾りの話になってるんだもん」
「変な人」
それを聞いた雪がそう言った。雫月もさくらも征太も頷く。満場一致で初姫は変な人ということが決まった。
「でも、結構手ごたえはあったんじゃない? 授業中焦ってるようにも見えたし。趣味が悪いって言われた時表情が歪んでた様な気がする」
「ほんと!?」
芽里が笑った。少し安心したのかな。
「征太凄いね」
「お褒めにあずかり光栄です」
俺だけ態度違うのほんとなんなんだろ。雪もだし。でも雪は可愛いから許す。
「雪、大好きだよ」
「え!? いきなり何!? 怖いんだけど!」
困惑した顔で雪は叫ぶ。そしてそのまま芽里に抱き着いた。あ、おい芽里、そこ代わって!
「めりねえ、おにいが変だよ。初姫嬢よりも変!」
それは流石にないと思うぞ。だってあの初姫よりもって相当だろ?
「うんうんそうだね雪ちゃん。放っておこうね」
「雪ちゃんも大変だね」
おいこら芽里、雫月!
「よしよしです!」
「お嬢様もお坊ちゃまがお兄様で苦労しますね」
「何だよお前ら!」
さくら、周りに流される必要ないんだぞ。俺も可哀想だよなあ? さくらならわかってくれるよな?
「征太さん、今度お嬢様方が学校に行っている間にお出かけしに行きませんか?」
「行こうか」
何も思ってないみたいだ。なんだよみんなひどいなあ。みんなもう少し俺のこと気付かってくれてもいいと思うんだ。今も狭い荷物入れるところに押し込まれてるんだぞ?
「あ、透、週末のライブ、何やるか決めておいてね。直前になって決めるのはだめ」
「わかった」
芽里に返事を返し曲名のリストをかばんから取り出した俺は家につくまでずっとライブの選曲に集中していた。
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