第4話陰キャの天才たち
「ああああああ、ドーム公演嫌だああああ」
「あああああああああああ神様あああああああああ!」
もうすぐ名古屋というところで、俺たちは絶望していた。吐き気がするほどに、緊張していた。人前に立ちたくない。なのにあの超パリピ陽キャたちのせいでなぜかこんな事態である。あーあ、失敗しそうで怖い。
「おにい、めりねえ、うるさいよ。人に聞こえたらどうするの?」
「だから小さい声で叫んでるだろ?」
「何それ意味わかんない」
呆れたように雪がため息をつく。
「私だってドームなんか行きたくないし」
「雪ちゃんならわかってくれると思った!」
「まもなく名古屋、名古屋です。お忘れ物の無いようご注意ください。まもなく名古屋に到着します」
車内放送がなった。人々が降りる準備をし始める。
「おにい、荷物持った?」
「持ったー」
俺たちも新幹線の扉まで移動する。再び車内放送がなった。
「名古屋、名古屋です。今日も新幹線をご利用いただき誠にありがとうございました。またのご利用、お待ちしております」
新幹線を降りて改札口へ向かう。ここからが大変だ。なぜかって?それは、いかに出待ちに関係者だと気付かれないように会場に向かうかで俺たちの運命が……は言い過ぎかもしれないけど変わってくるから。
「よし、行こうか」
意を決して俺たちは改札口を通る。と同時に出待ちしていたファン達から声をかけられた。あーあ、今回も俺らの負けかよ。
「あの、もしかして関係者の方ですか?」
「翔様は今日電車で来られるんですか?」
「それともお車で?」
残念だったね、俺ら今電車できたからこれ以上待っても誰も来ないよ。
「すみません。僕たちは知らされていなくて……」
雫月がその美しすぎる顔で、申し訳なさそうに彼女たちに謝罪する。俺には見える。彼女たちの瞳がハートマークになっているのが。
俺たちはそのままファンたちの間を抜けてドームの関係者入り口から楽屋に入って一息つく。今から本番なのに疲れてたらだめなんだけど……
「おにいー? しづにいと会場確認してくるから準備しといてね」
雪と雫月はアイドルではない。何をしているかというと、雫月が照明や音響。雪がその他諸々である。――全部雪にやらせてるとかそういうのじゃないからな?
「はあ、緊張する」
「おなか痛くなってきたんだけどどうしたらいい?」
ほどなくしてから雪が帰ってきた。
「おにい、めりねえ、準備できた?」
そう言いながら彼女はノートを開く。
「今日も満員だから頑張ってね。えっとここの収容人数は49427人か」
ウェブサイトから満員時の収容人数を探してメモを取る。雪はおもむろに俺たち二人のほうを向いた。
「おにい、49427×8500-10560000=409569500 おにい計算遅いね」
それは雪が速すぎる以外の何者でもないよ。式言ってそのままの流れで答え言ったでしょ。
「考える時間がないから当たり前だよ……せめて十秒くれ……」
「こんな計算に一秒もかからないでしょ」
俺は雪ほど頭いいわけじゃないからさすがに一秒じゃ無理だよ……
雪は、中学生にしてIQ300の天才である。普通に暮らしていたら何か特別なことをしているわけでもないので“ああ、あの子は頭がいいんだな”程度に思われるだけなのだが、実際中学校の授業やテストなど簡単すぎてつまらないから大学のテストが解きたいとか思っていそうだ。中学受験を勧めたのだが、怖いし注目されたら困るし人前に出たらたぶん死ぬからという理由で何もしなかった。俺たちのライブの時ぐらいしか特に知識を使うつもりはないと言っていたのでやはり優しい妹だと思う。本気で天使。誰が何と言おうと天使。可愛すぎ。
ちなみにさっきの式は、満席時の収容人数×チケット代-会場を借りるための料金。
「ほらほら、時間だよ。頑張って来てね!」
いつの間にか部屋に帰って来ていた雫月も少し微笑む。
「大変だと思うけど頑張って。今日もキラッキラに輝かせてあげるから」
「雪! 元気出てきた! 雫月! ほんとはやめてほしいけどよろしく!」
「頑張ってくるね、雪ちゃん、お兄ちゃん!」
ライブの幕が開けた。あふれる熱狂の中で、芽里が最上級の作り笑いを浮かべながら言った。
「皆さん、今日はヴァイオレットロザネイトのライブに来てくれてありがとー!
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