第3話天然メイドと腹黒執事
授業の終わり。あらかじめ用意してあったかばんをつかんで、俺は一番に教室を出た。そのまま学校の裏手に回り、裏門を出る。
「あ、おにい! おかえり~」
「おかえりなさいませ、お坊ちゃま」
「俺はお坊ちゃまじゃない!」
「はっはっは、ご冗談を。私から見ればあなたはまだお坊ちゃまですよ」
くそ、バカにしやがって。裏門を出て早々出くわしたこいつは
「お坊ちゃま、何を考えてるかは知りませんがお嬢様方が困るので早く乗ってください」
お嬢様方とは芽里と雫月のこと。俺が裏門で乗って二人が正門から乗ることによって、芽里たちと俺の仲がいいことがばれないようにしている。え? 窓から見えるって? 甘いね。俺が座席の下や後ろの荷物を入れるところにでも隠れるんだよ。雪は芽里のいとこ設定だから乗ってても問題なし。俺だけなんか悲しいなあ……
「あらお坊ちゃま、おかえりなさいませ~」
「さくら……」
「わかってますよ、お坊ちゃまって言われたくないんでしょ。でもねえ、征太さんがお坊ちゃまって呼んでるから……」
「なんで仕えてる人じゃなくて同じ人に仕えてる夫が優先なんだよ。普通俺じゃない!?」
こっちはさくら。本名は
「ライブに遅れますよ~隠れて隠れて~」
俺は雪とともに征太の個人タクシーに乗り込む。
「行きましょうか~♡」
学校の正門側についた。門の前で芽里と雫月が女子に囲まれている。
「透さま、今日は電車でお帰りですかあ~?」
「雫月さま、一緒に帰りませんか~?」
「え、えーっと……」
あ、雫月困ってるなあ…… さくらがタクシーを降りる。
「透君、雫月君、お迎えに来ましたよ~」
生徒の視線をものともせず、さくらは芽里と雫月に近づいていく。いいよな。なんであんな中に入っていけるんだろ。怖いくないのかなあ……俺は絶対無理。さくらとかとは普通に話せるけど初対面の人とかと絶対喋れないし。唐突に雪が征太の座る運転席に移動する。
「征太あ……」
「どうしました、お嬢様。」
「この視線に耐えられないよ……」
外からは女子生徒の嫉妬や羨ましがる視線が降り注いでいる。ああ、これは雪には耐えられないだろうな……だって俺でも動けなくなるし。いやだいやだ。
「さくら、雪が……」
「あ、ごめんなさい。行きましょうね。」
さくらと征太は二人の叔父、叔母設定。まあ19歳と20歳の夫婦に13歳の娘がいるわけないんだけどさ。まあ大丈夫だよ。あんなにラブラブなんだからそんなこと考える野暮はいないでしょ。年齢公開してないし。二人がタクシーに乗り込み、追いかけてくる生徒たちを振り切って征太はアクセルを踏んだ。
「めりねえ、しづにい、おかえりなさーい!」
先程とは打って変わって、雪は明るい声で話しかける。
「あの人たち、毎日毎日飽きないね~」
「迷惑……」
芽里がため息をつく。ああ、美少年がため息ついてる…… ため息なのにかっこいい…… こういうところだよな、芽里が男でも陰キャでもモテる理由って。
「お嬢様、お坊ちゃま、今日はどこでライブなんですか~?名古屋って言ってましたけど」
「きょうはね、名古屋のドームかな。」
「大きいとこでライブなんですね~。お加減大丈夫ですか?」
全然大丈夫じゃない…… そもそも、陰キャだ陰キャだって言ってるくせにアイドルじゃねーかって思ってる人多いと思うんだよ。アイドルやってるぐらいなんだから完全に陽キャだろって。でも違うんだよなあ……
あれは、俺らが中二のころ。その辺を芽里と散歩してたらなんかスカウトされて、最初は断ったんだけど…… 俺らの親は本当に俺らの親かというほど俺らと真反対、つまり超パリピ陽キャ。母さんや父さんにそのことを言うと仕事の利益になるかもしれないというのもあって大賛成。別に単にやってみろって言われただけじゃやるはずがないんだけど、会社の利益になるかもしれないとか言われたら断りにくいし。で、なんだかよく分からないままアイドルになってみたらびっくり。めちゃくちゃ売れっ子のアイドルになりました!
こういうこと。ファンもついちゃったし、辞める訳にはいかないんだよな。俺母さんたちを一生恨むわ。
ほんとに人前なんて無理だし背筋凍るしいつも必死になってライブやってるんだよ。本音を言うとステージの上で芽里もろとも崩れ落ちて意識を失いそう。
「ドーム、ドームかあ……」
今日のライブ会場のドームはとてつもなく面積が広い。まあもっとでかいドームでも近々ライブの予定があるから俺の人生はここで終わりだな。
「透、透、駅付いたよ」
「ああ、うん」
ここからは俺と芽里と雫月と雪の4人だけで会場へ向かう。もちろん男装、女装はそのままで。
こうして別人に扮して行かないと、出待ちの人たちにサインしてくださいコールされるから…… 駅大迷惑だから…… 警備員動員しないといけなくなるから……
「名古屋に行く新幹線ってあれだよね。いこっか」
俺たちは名古屋に向かうため、新幹線に乗り込み一息ついた。
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