第25話なぜかいつも俺

「さてお嬢様、今日の夕飯は何がいいですか?」


ひっろいリビングに戻ってきて、まだ何の家具も置いていない床に座って話を始める。夜ご飯うちで食べるんだったら、今日ピクニック形態じゃん。


「うーん……雪、この前見たチーズトマトスパゲッティが食べたい!」


マジで言ってる? いや、雪が食べたいんならたとえゲテモノ料理でも食べるけどさ。


「私もそれ、食べたいって思ってた!」


「奇遇ですねお嬢様!」


あのチーズトマトスパゲッティ、やばいよ? これは少し前、晩御飯に食べたいものやおやつに食べたいもののレパートリーを増やそうとみんなでレシピ動画を見ていた時に見つけた者なのだが。普通に作ったトマトスパゲッティのうえにこれでもかというほどチーズをのせ、オーブンで焼くのだ。まさにカロリー爆弾。いや、別に俺たちはライブでめちゃくちゃ体力消耗するし食べ盛りだから何とも思わないんだけどさ。やばいもんはやばいんだよ。最早チーズがメイン。


「じゃあさっそく材料を買いに行きましょうか」


征太がそう言ってさっさと買い物に行く準備を始めたので、俺は慌てて彼を追いかけた。



「まずはちょっとおやつでも食べていきましょうか」


時間はちょうど二時過ぎぐらい。ちょっとお腹空いてたしいいね、それ。


「どこか入れるところは……あ、あそことかどうかな?」


買い物に来ていたモールの端っこにあるカフェをさして雫月が微笑む。因みに今日は俺も完璧女装スタイル。いつも学校行ってる時みたいな格好してたらほんと不審者に見られるからね。だから、体育祭の時にしていたあの屈辱的な格好だ。仕方ない……


「いらっしゃいませ」


ウェイトレスの明るい声が響く。


「六名様ですか?」


「はい」


席に通されたところで、俺たちはやっと一息ついた。


「このカフェの雰囲気いいね、こう、閉鎖的というか」


緑で飾られたこの店は全体的に薄暗い。ぼんやりとしたオレンジの明かりで、外からの視線もないからなんとなく安心できるのだ。


「こういうのも素敵ですね」


「でも雪はさくらのお店好きだよ」


ふわりと微笑みながら店内を見回すさくらに素早く雪が意見を言う。わかる。俺もさくらの店好きだし。さくらのカフェは、もう少し花が多い。もちろん緑も多いけれど、花が咲く品種を選んで植えているらしい。それからこういうモールの中にある店と違って一軒だから、照明は太陽の穏やかな光だ。入った瞬間からふわふわ、まるでさくらみたいなあの店は、やっぱり作ってよかったと思う。


「こちらメニューになります」


何冊か持ってこられたメニューを手に取って目を通す。


「うーん、俺はキャラメルラテかな……」


「雪はメロンソーダがいい!」


「私はホットレモネード」


「僕はカフェモカ」


「私はイングリッシュブレックファストでお願いします」


「では私はコーヒーで」


口々にみんな自分が飲みたいものを言って、ってあれ? みんな俺の方向いてどうしたんだ?


「おにい、何やってるの?」


みんなこそ何やってるの??


「「早く注文して?」」


いや俺が注文するんかーい! みんな自分で注文すればいいのに、やっぱり今日も俺が注文担当になる。どうしてなんだ。俺も無理です。


「す、すいません」


緊張していたのと女声なので予想以上に声が裏返った。危ない危ない。男の声出るとこだった。


「ご注文お伺いいたします」


「あ、えっと、キャラメルラテ一つ、メロンソーダ一つ、ホットレモネード一つ、カフェモカ一つ、イングリッシュブレックファスト一つ、コーヒーを一つでお願いします」


ふー、注文終わった……メニューさして言わせてくれたらいいのに、みんなの視線の圧に負けた……


「確認させていただきますね。キャラメルラテがお一つ、メロンソーダがお一つ、ホットレモネードがお一つ、カフェモカがお一つ、イングリッシュブレックファストの紅茶がお一つ、コーヒーがお一つ。以上でよろしいでしょうか?」


大丈夫だと頷くと、店員さんは奥に消えていった。一安心。


「透の声めちゃくちゃ裏返ってた~」


おいそこ、笑うんじゃない。俺だって必死なんだからな!


「まあまあとりあえず、買わないといけないものをリストアップしましょうか」


おっとそうだった。明日は家具を買いに行く予定になっているので、いるものをあげておかないといけないのだ。


「まず俺たちのベッドはあるけど、さくらと征太のがないからそれでしょ、あとダイニングテーブルと椅子、キッチンにおくテーブル、リビングのソファ……」


「僕の本棚も欲しいなあ……」


「雪の机は??」


うお、意外と買うもんあるな……


「それから電気製品の方もまとめておかないと。冷蔵庫とオーブンレンジ、洗濯機もでしたっけ」


こっちもまた大型家電ばっかり……


「食器とかハンガーとか小物系も必要ですね。大変そうです」


冬休みに引っ越すことにしてほんとによかったって俺今思ってるよ。明日は朝からおね〇ん以上の家具屋に行かないとな……


「お待たせいたしました」


まあとりあえず、ちょっとここでのんびりしようか。


――――――――――――――――――


全員陰キャのため押し付け合いが発生しがち。

次の更新予定日は一月三十一日です

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