第29話伝わってるから

「おはようございますお坊ちゃま」


「どわあああっ!?」


突然ありえない声が聞こえてきて、俺は勢いよく起き上がる。目の前には征太。そうだ、俺引っ越したんじゃん……


「同じ家に住むということはこういう事ができるようになるということですね」


「そのために一緒に住んでるわけじゃないわ!!」


どうして俺は朝からこんなにツッコミを入れないといけないんだ。


「あ、透お坊ちゃま、早く準備してくださらないとお一人だけ今日の朝食はなしですよ」


そうだった、冷蔵庫がなくて保存しておけないから今日の朝食は外に食べに行くって話だったんだ……


「すぐ行くからちょっとまっててよ……みんなはもう準備できてるの? というか今何時?」


「皆さんまだ起きていらっしゃいませんし、今は朝の五時です」


そんな時間に起こすな!!! もう九時とかでみんな準備できて待ってるのかと焦ったじゃん!! 心臓に悪い、やめて!! 俺征太の雇い主だぞ!?


「はあー……征太は早起きだね……さくらはまだ寝てるんじゃないの?」


「いえ、さくらも朝は早起きですよ。カフェを開けないといけませんから」


確かに。朝から開けないとモーニング提供できないもんな……


「……だからといって俺のこともその時間に起こす必要ないよね」


「いえ、まあ透お坊ちゃまならいつ叩き起こしてもいいかなぁと……」


なんでだよ。内心悪態をついたけど、まあ起こされたものはしょうがないとのろのろ着替えを始める。さて、暇だし一応SNSチェックでもしようかと思ったところで、征太がなにか言いづらそうに扉のところに立っていることに気がついた。


「征太、どうしたの?」


「い、いえ、その……」


なんか話でもあるのかな?と近づく。と、何故か征太は距離を離した。なんなんだ?いったい……


「ちょっと、話があるならなんでも聞くから……」


「征太さん、まだ〜?」


リビングの方からさくらの声が聞こえてくる。


「さくら呼んでるけど何かあったの?」


「え、えっと、そのですね……えと……こ、こちらにきていただけますかっ!」


がし、と腕を掴まれて引っ張られる。ほんとに何なんだ!? とりあえずされるがままに引っ張られていけば、リビングになにかおいてあるのが見えた。


「なになに、なんなの?」


「透様!」


困惑していると、さくらと征太が俺の前で姿勢を正す。


「透様、今回は私達にこんな素晴らしい部屋をくださってありがとうございました!」


「へ?」


頭まで下げられて、変な声が出た。


「どういうこと? 俺何も感謝されるようなことしてないし……というかふたりとも部屋紹介したときに言ってたでしょ?」


「やっぱりちゃんとお礼がしたかったので……」


いや……そこまでしなくたっていいのに……


「透様は優しい方ですよ。普通ならこんな人間に声をかけようとも、仕事を与えようとも思わないに決まってます。それなのに、透様は家までくださって、その上家族とよんでくれた。こんなに嬉しい気持ちになったのは今までで初めてです」


珍しく、征太が俺を主として離しているのが落ち着かない。俺は、都合のいい存在を拾ったに過ぎないのに、そんなに言われるほどできた人間じゃないのに。親はいない、ライブやらなんやらで毎日忙しくて、その上正体を隠さないといけなくて、だから身の回りの世話ぐらいは他の人に放り投げたかった。流石にこの四人じゃあ限界が来る。そんなために連れてきたのにこんなに感謝されるなら、それは優しいのはさくらと征太なんじゃないかな。


「こんなに近くにいるのに家族じゃないなんて、そんなこと言えないよ」


ふ、と自然に笑みが漏れた。家族がいなくて寂しいなら俺たちが家族になるよ。


「ねえ透様、それで、これ、透様に!」


手渡された、ずっと気になっていた箱。何の飾り気もない無地の箱に、小さいリボンがかかっている。


「なに……?」


そっとふたを開けると、中からきらきら輝く窓飾りが出てきた。


「いつか、透様に何か贈り物したいって思ってたんです。ちょうどいい機会だからって。二人の仕事で稼いだお金をためたんですよ」


そっか、俺だって二人のこと雇ってるけど、二人とももうちゃんと自分でお金稼ごうと思えば稼げるもんな……そう思うとちょっと寂しくなった。もちろん解雇するとかそういうんじゃないよ? ただ、いつまでも出会った当時みたいないかにも家を飛び出してきましたっていう青年じゃないってこと。


「ありがとう。二人の想いはちゃんと俺に届いてるよ」



「あれ、おにい早起き珍し~」


いつの間にか日は上っていて、時刻は八時。目をこすりながらリビングに出てきた雪が、俺を見てそう言う。確かに、雪の方が俺より早起きだもんな……今日は特に休日だし。


「おはよう」


「おはよ~」


ぞくぞくとリビングに集まってくる面々。うん、賑やかだな。芽里と雫月が俺の家に迎えにきたり、俺と雪が芽里たちの家に行ったりするのもよかったけど、やっぱり一緒の方が何倍もいい。


「朝ごはんどこ食べに行くの?」


「モーニングやってるパン屋さんだよ」


「へ~! 楽しみ!」


うわっ、俺の雪が今日も眩しいっ!!


――――――――――――――――――


透はイケメンなので微笑むと大変な破壊力がありますが、透視点なので気づいてません。

さくらと征太の過去回とかちょっと書いてみたいかも

次の更新予定日は七月七日です!

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人気アイドルの生活は国家機密級!?〜俺らの秘密はバレると超ヤバイ!〜 森ののか @Nonoka_Ephemeral_Elfilion

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