第19話お給料

 十月に入り少しずつ気温が下がってくる。

 アイウォークこと第三の足を手に入れた俺はそれなりに業務をこなしていた。


 そしていつも通り、H営業所に出勤すると……


 デスクの上に置いてある紙……

 給料明細だ!


 毎月の楽しみでもある。

 先月は残業代と傷病休暇の一部が入ったので、かなりたんまりお金ちゃんを頂いた。

 

 むふふ、先月はいくらもらったのかなー。

 俺はワクワクしながら給料明細に目を通す。



【八万円】


 ん? 何かの見間違いかな?

 これは控除額なんじゃないの?


 だが給料明細に何度も目を通しても支給額は八万円だった……


 バイトかよ……orz

 初任給で貰った額より少ないじゃん……


 まぁ仕方ないことなのだ。

 俺は今傷病休暇扱いだ。

 実際に働いていても実働として扱われない。

 

 例え一日16時間働いても、傷病休暇は一日に8時間しか労働時間がつかない。

 それを20日で160時間。

 つまり俺は会社が指定した最低労働時間分のみのお給料しか貰えないのだ。


 因みに保険で貰える額は雀の涙。

 あまり期待しないほうがいいだろう。

 

「あかんやん……」


 あかんやんである。

 こちとら食べ盛りの娘がいて、さらに三千万のローンを抱えている。

 

 それなりに貯金はあるので、いきなり困るようなことはないのだが……


 くっ! このままでは嫁さんとの経済格差が広がっていくではないか!

 毎月の給料では俺のほうが勝っているが、ボーナスでは彼女に負けている。


 いや、これは勝ち負けじゃないのは分かっているのだが、ほら、なんか俺、骨折家の大黒柱じゃない?←自分で言うな

  

 このままでは父として、夫としての面子が!


 そして業務を終え、家に戻る。

 すると嫁さんも帰っており、ご飯の支度をしていた。


「あら。お帰りー。早いのね」

「ま、まあね……」


 俺は装具を外し、落ち着きなく嫁を見つめる。

 俺の給料が知られたら…… 

 だが俺の心配事はあっさり嫁子に筒抜けだったのである。


「今月のお給料、どうしたの?」


 ギクリッ!?

 す、既に知ってらっしゃいましたか!


 そりゃそうか。

 俺の銀行カード、通帳は全て嫁子に預けてあるからな。

 俺は金が必要な時に嫁子にお小遣いを貰っているのだ。俺の口座からだけどな。


「す、すまん…… 基本給しか貰ってないからな。色々引かれたらこれぐらいしか残らなかったみたいで……」


 だが嫁子は怒るわけでもなく……


「ふふ、大丈夫よ。まだまだ貯金はあるしね。それにあなたって全くお金使わないじゃない? その点はいい人と結婚したって思ってるわよ」


 嫁子……

 彼女の言った通りなのだ。

 俺は金を使う趣味を持っていない。

 ゲームはやるが、一本のソフトを一年かけて遊ぶ。積みゲーなどしたことがない。

 バイクは好きだが、今乗ってるPCXも、そろそろ10年経つしな。

 極めつけは小説だ。

 休みの日は、自分の小説を書くか、他の人の小説を読むかしかしていない。

 

 さらに言うと、嫁子は金融関係なのでお金の管理はどんとこいな人だ。

 うぅ…… いい人を嫁にもらった……


「ありがとう…… 来月は足を治してしっかり稼ぐから!」

「ふふ、期待しないで待ってるわ」


 期待してよ……


 ともあれ、俺はさっさと足を治して稼がないと。

 労働に対するモチベーションが上がった十月だった。

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