第11話 松葉杖の練習!

 カラカラカラカラッ


 俺は車椅子に乗せられ、T外科病院一階にあるリハビリ室に連れてこられた。


 中には入院患者さんであろう、おじいちゃんとおばあちゃんがいっぱいいた。


 俺は理学療法士のWさんに質問してみる。


「若い人はあまりいないんですね」

「先月までいましたけどね。今入院しているのはお年寄りだけなんですよ」


 なるほど。

 そしてWさんは笑顔で俺に向き合う。


「M先生から聞きました! 骨折さん、早く退院したいんですよね! 早く自立したいと思ってくれる方は支援し甲斐があります!」


 後で聞いた話だと、あまり素行の良くない患者さんもいるらしくストレスを抱えているそうな。


 どこの世界にも困ったちゃんはいるものである。

 

 少し世間話も交えつつ、Wさんは松葉杖を用意してくれた。


 まずは使い方から教えてくれる。


「いいですか? 松葉杖はヘッドを脇に当てるんじゃないんです。当てずに腕と側胸で挟むんですよ。こんな風に……」


 おぉ、知らなかった。脇に当てて歩くもんだと思っていた。

 松葉杖を受け取り、Wさんがやったように、ヘッドを脇に当てず腕と側胸で挟む。


 ギュウゥゥゥッ


 意外と力がいるな。

 だがこれでも器械体操を経験した身でもある。

 自分の体重を支えるだけの筋力はあるはず……

 と、思っていました。


 俺はリハビリ室を松葉杖を使い、歩き回る。


「骨折さん、すごいですね! もうコツを掴んだんですね!」

「えぇ、まぁ……」


 誉められて嬉しかったのだが、胸が擦れて痛くなっている。

 それに使う筋肉が違うんだろうな。

 三十分もすると、筋肉が悲鳴をあげているを感じた。


 舐めてた……

 これは大変な運動量だ。


 俺は一度休憩を取る。


「はぁはぁ…… け、結構大変ですね……」

「まぁ、慣れですよ。最初は掌にタコが出来ることもあります。もう少ししたら、階段の登り降りをしてみましょう!」


 階段ね。

 取り合えず歩けるようにはなったし、そこまで心配していなかった。


 小休止の後、俺とWさんはリハビリ室を出る。

 どこで練習するのかな?

 と思っていたら、病院の階段を使うみたいだ。


「よし、それじゃ登りから始めましょう!」


 松葉杖で階段を登る時は、まず折れてない足を一段上げる。そしてゆっくり両の松葉杖を足と同じ位置に持ってくるのだ。


 正直、そこまで大変ではなかった。

 問題は下りなのだ。


 俺はWさんに支えられ、階段の踊り場に到着。

 

「上手ですよ! それでは下りにチャレンジしてみましょう!」

「はい」


 俺はゆっくりと後ろを振り向く……?


 ゴゴゴゴゴッ


 そんな擬音が聞こえてきそうだった。

 高い。

 怖い。

 身震いがした。


「怖いでしょ? 松葉杖で危険なのは階段の下りなんです」

「そうでしょうね……」


 足一本使えないだけで、見る景色が違う。

 僅か数メートル下るだけの行為だが、俺にはそれが断崖絶壁から飛び降りるくらいの恐怖に思えた。


 行きたくない。

 だけど……

 この試練を乗り越えないと、俺は現場に復帰出来ない。


 勇気を出して一歩を踏み出した……


 そしてその後も練習を重ね……


 カツーンッ カツーンッ カツーンッ


「こ、骨折さん、もっとゆっくりでいいです!」


 ふはははは! 階段を攻略したぞ!

 俺はハイになっていた。

 嬉しかったのだ。

 松葉杖とはいえ、自由に動き回れることが嬉しかった。


 不謹慎かもしれないが、俺はとある想像をしながら練習していた。


 鉄拳チンミっていう漫画があるじゃない? 

 その中で、片腕、片足が無くて、杖を使ってるけど、めっちゃ強いキャラがいたのだ。


 そいつは不自由な体ながらもチンミを圧倒していく。

 彼をイメージしながら練習に挑んでいたのだ。

 前川たけし先生、ありがとうございますm(_ _)m


 おかげでコツが掴めました!


「も、もう練習はいいでしょう! 今日はお終いです!」

「えー、あと五時間はやってたいんですが……」


 こんな感じで、松葉杖を一日でマスターした。

 Wさんに無理を言って、院内で自主連する許可も得られた。


 後で聞いた話だが、入院患者の中にめっちゃ練習してる変態がいると看護師さんの間で噂になっていたそうだ。

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