第6話 八月二十二日 手術

 ガラガラガラガラッ


 ドラマの世界である。

 俺は移動式ベッドに乗せられ、手術室に運ばれていった。

 そこにはテレビでしか見た事が無かった光景が広がっている。

 もしくはブラックジャックで読んだ世界か。


 そして俺のブラックジャックこと、M医師から説明がある。


「これ、全身麻酔するからねー。一応麻酔医のH先生から教えてもらったよね?」


 初耳である。

 そのH先生は慌てた様子で手術室に入ってきた。

 そしてM医師に詰め寄るではないか。


「もう! まだ説明してませんよ!」

「あはは、ごめんね。それじゃ今説明しちゃおうか」


 詳しい専門用語は分からんが、俺の手術は折れた骨を切開してくっつける。ずれた骨の位置を直すっていうのかな? それは激痛を伴うらしく、部分麻酔だと辛いらしい。

 痛いのは嫌いなので、全身麻酔はウェルカムである。

 

 H先生はご機嫌斜めながらも説明してくれた。

 この人もM医師の被害者なんだなぁ……


 そんなこんなで説明を終える。

 麻酔は腰骨に打つらしい。

 話に聞くとチクッとした瞬間に意識を失うそうな。


 まさかーw 俺の精神力で麻酔に打ち勝ってやるぜ!

 絶対起きててやる!


 そして俺は全裸に剥かれ、手術台に乗せられる。

 いやん、恥ずかしいぃぃぃ。

 そんなに見ないでぇぇぇぇ。


 家族以外にここまで全裸を見せることになるとは。

 新しい癖に目覚めてしまいそうだ。


 なんて馬鹿なことを考えていると……


「はーい、チクッとしますよー」


 いよいよか。


 チクッ……


 …………


 ……………………


 …………………………………………



 はっ!?

 ここはどこ!? 

 俺はいつの間に病室に!?


 体を動かそうにも夢うつつで、


「うー……」とか「あー……」とかしか言えなかった。

 麻酔、恐るべし。

 お母さん、俺麻酔には勝てなかったよ……


 起きてるのか、夢なのか分からない状況の中、誰かが病室に入ってくる。


「パパ、大丈夫!?」


 おぉ、愛娘ちゃんだ。

 娘は心配そうに俺の顔を覗いてくる。


「あうあうあー」(大丈夫だ。問題ない)

「何言ってんの?」


 ほんと、こんな感じだった。

 少しすると、ようやく意識が覚醒してくる。


「すまん。心配かけた。踵が折れてるんだってさ。しばらく迷惑かけると思う」

「そうなんだ…… 早く良くなってね」


 と哀しそうな顔をする娘。

 大丈夫だ。お前のためにしっかり金をかせがないとな。

 娘は中高一貫の私立の学校に行っている。

 学費が高いんだよぉぉぉ。


 まぁ、かみさんも正社員でしっかり稼いでくれているので、生きていく金はなんとでもなるのだが。


「来てくれてありがとな。ほら、ここは病院だからあんまりいちゃ駄目だ。風邪がうつるかもしれないぞ」

「うん…… 明日も来るね……」


 と言って娘は祖父母に連れられ、去っていった。

 あまり仲が良くない義理の両親だが、手続きやら、着替えやらを持ってきてくれた。ありがとうございます。

 そして娘はなぜか、「パパが寂しくないように」と言って娘がお気に入りのぬいぐるみを持ってきてくれたのだが…… 俺がこれをいると思いますか?


 みんなが出ていった。

 そうだ、仕事仲間や、俺の両親にも連絡したんだった。

 スマホを取り出すと……


 メールやら、着信やら、ラインが鬼のように溜まっていた……

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