第5話 八月二十二日②

 怪我した翌日、新たに訪れたT外科病院。

 診察の順番が来たので、診察室に入ると、さわやかダンディM医師が出迎えてくれた。


「あらら。大変そうですね。どうしたんですか?」

「ちょっと高いところから落下しまして……」


「あはは、そうなんですね。ではレントゲンの結果ですが…… あらー、これは綺麗にバッカリ折れてますね。踵骨骨折です」

「…………」


 折れてる? 

 いや、今なんて?


「お、折れてるんですか?」

「うん、これは綺麗に折れてるねー! これは長くかかるよー!」


 M医師はニコニコ答える。

 いや、そんな笑顔で言われても……


 もう絶望しかなかった。

 俺は立場的に受け持ち地区の営業所は七つある。

 現在、受け持ち地区にいる社員は足りていない状況なのだ。

 

 間も無く八月は終わるが、繫忙期の真っただ中。

 それなのに、骨折とは……


 血の気が引いていくのを感じた。

 だが、M医師の説明は続く。


「ほら、ここ見える? 綺麗な線が走ってるでしょ。踵の骨が真っ二つになってるの。これ入院と手術しなくちゃね。今日時間ある? 手術しちゃおうかw」

「M先生!? 今からですか!?」


 看護師さんがびっくりした声を上げる。

 俺もびっくりだ。

 そんな「ちょっとコンビニ行ってくるわ」的な感じで入院手術が決まるものなのだろうか?


 動揺を隠せない俺と看護師さんを尻目にM医師は手術の準備にかかる。

 席を外したところで看護師さんが耳打ちしてきた。


「ごめんなさいねー。あの人、腕はいいけどひょいひょい手術を決めちゃうの。本当だったらご家族を呼ばなくちゃいけないのに……」

「そ、そうなんですね……」


 でも腕がいいというのは安心だ。

 それに俺も気持ちを切り替えた。

 折れてしまったのであれば仕方ない。

 ならさっさと治すだけだ。

 それに即手術は好都合。

 一日でも早く治して、さっさと仕事に復帰しないと。


 その後、俺は人生初ギプスを経験し、入院する個室に運ばれていった。

 個室は別料金がかかるらしいので、大部屋でもいいですと言ったのだが、現在個室しか開いていないとのこと。


 まぁ、入院費は保険で下りるからいいか。

 病室は六畳程度の広さだった。

 曇りガラスで外が見えないのが悲しい。


 俺はパンツ一丁になり、用意された服に着替える(浴衣っぽいやつね)

 そして看護師さんの用意された書類に記入。

 手術の同意書だな。


「ごめんなさいねー。いきなりでびっくりしたでしょ。ほんとにM先生ったら…… こっちの都合も知らないで」


 なるほど、色々大変そうだな。

 でも後で聞いたのだが、M医師はマイペースながらも看護師さんからは人気があるらしい。

 つまり腕のいい先生が主治医としてついてくれたということだ。

 俺は運がいいぞ!


「骨折さーん、準備出来たー?」


 とM医師が病室に入ってくる。

 まぁ書類にサインするだけだからね。


 最後に先輩のEさんと変態Bさんに【折れてた……orz】とラインを送っておいた。


 俺はあれよあれよという内に移動式ベッドに乗せられ、手術室に運ばれていったのだった。

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