骨折日記~人生初骨折、初手術、初入院。そして、かなり無茶したなと反省の日々~
骨折さん
第1話 八月二十一日①
ベキィッ
落ちたのである。
俺はちょっと高い所から落下した。
これでも運動神経には自信があり、バランス感覚もいいこの俺が二メートル足らずの高所からバランスを崩して落下した。
やばっ
この言葉が脳裏を過る。
このまま落ちれば頭から床に叩きつけられる。
必死で手を伸ばし、何とか足から着地することが出来たのだけど……
ベキィッである。
この聞き慣れない音が体の中から聞こえたのだ。
そして次に訪れたのは……
ズキィッ
「痛ー!!!!!!!」
ベキィッからのズキィッである。
俺は立っていられず、床に這いつくばることになった。
俺がいたのは営業所の休憩室。
なんでそんな所から落下したのかは、身バレがしてしまうかもしれないので内緒だ。
俺は潰れたカエルのように地面に這いつくばっていた。
声を出そうにも、
「うぅ……」
呻き声しか出せない。
今思い返しても、あの右足首から感じる激痛は異常だった。
死ぬ。マジで死ぬ。
誰か助けてくれ。
だが、休憩室には誰もいない。
40歳のおっさんが一人無様に床に這いつくばっているだけである。
そうだ! そういえば休憩室付近の喫煙所でT君がタバコを吸っていたはず!
俺は痛みを我慢しつつ、床に這いつくばったまま叫んだ!
「Tくーん! 助けてくれー! こっち来てくれー!」
頼む! 聞こえてくれ!
だがT君は中々来ない。
そういえばスマホとイヤホン持っていったもんな。
音楽でも聴いているのだろうか?
って、そんな場合では無かった!
だって痛いんだもの!
このままでは死んでしまうかも!
今思うと足が折れてるだけで死ぬわけないのだが、俺はパニックだった。
俺は必死で叫び続け……
ガチャッ
「骨折さん、どうした……? 大丈夫ですか!? 何があったんですか!?」
T君が来てくれた……
彼は床に這いつくばり、立てない俺に肩を貸してくれた。
そのまま俺を椅子に座らせてくれた。
その間も俺の右足は熱を持ち、ズキズキと痛みが走り続ける。
痛みを堪えながらも、何とか状況を説明。
そして当日の作業指示を出しておいた。
「すまん…… 多分俺は今日は働けない。でもさ、現場責任者は俺しかいないから、退勤時間まではいるから……」
「そんな場合じゃないでしょ! いいから病院に行ってください!」
とT君は言ってくれたが、機器故障対応、クレーム対応など、責任者は現場に居続けなければならない。
万が一のことを考えると……
「大丈夫ですから! 何かあったら近隣の営業所からヘルプを呼びますから!」
「そ、そうか…… すまんが、そうさせてもらうよ……」
営業は石に齧りついてでもやれと教わってきた俺だが、この痛みはそんなブラックな教えを忘れさせてくれるものだった。
だが俺の移動手段はビックスクーターだ。
バイクを走らせて病院に行くのは不可能だろう。
救急車? そこまで大事じゃないな。
タクシー? あんまり乗ったことないなぁ。
そこで、T君が案を出してくれた。
「もうすぐAさんが来ますから、車に乗せてもらいましょう!」
Aさんはこの営業所で唯一車で出勤してくれる頼もしい方だ。
そしてこの営業所付近に住んでおり、プライベートで小学生を相手にスポーツの監督をしている。
いい病院を知っているはずだ。
痛みに耐えつつ、俺はAさんが来るのを待つことに。
その間、T君はかいがいしく俺の世話をしてくれた。
あの恩は忘れないよ……
そして救世主ことAさんがやってくる。
「骨折さん、どうしたんですか! 聞きましたよ! さぁ、病院に行きましょう!」
「ありがとうございます……」
俺は片足けんけんで営業所を出て、Aさんの車に乗りこむ。
「ここから近いのはN総合病院ですね。行きますよ!」
そう言ってAさんは車を走らせた。
だが、そのN総合病院が罠の一つだったとは、その時の俺は気付く余地も無かったのだった。
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