第15話娘ちゃんの成長と劇的な出逢い

 ミーン ミンミンミンッ


 蝉がけたたましく鳴いている。

 俺は一人家におり、来るべき戦慄の欠員二名で営業しなければならない日曜日の対策を練っている。


 やれることはやった。

 他の営業所から支援を送れないか交渉したり、H営業所から出勤出来る者を探したり。


 だが見つからなかった。

 ヤバイぞ。このままでは当日の生産性は一万円を超えるだろう。

 詳しくは書けないが、うちの会社の生産性は七千円がいいとこだろう。

 一万円がコンスタントに続けば、死亡確定だ。


「何とかなんねぇかな……」


 と、俺は床に寝転ぶ……


 グーッ


 悩んでいても腹は減るものである。

 俺は松葉杖を支えにキッチンに向かうが……


 むぅ、何も食べるものがないではないか。

 あるのは生卵が一パックあるのみだった。


 仕方あるまい。買い物に行かねば。

 俺は外出しようと着替え始めるが……


「ただいまー」

  

 おぉ、娘ちゃんが塾から帰ってきた。

 まだ夏休みということもあり、娘は午前中は塾でお勉強だ。


「パパ、大丈夫?」

「あぁ、痛みはないからね。そうだ、俺今から買い物行くんだけど、何か食べたいのある?」


 まだ昼前だったしな。

 娘ちゃんと昼食をと考えていたのだが……


「私が買ってくるよ!」

「え? マジで?」


 娘が買い物を申し出てくれた。

 嬉しかった。

 すごく小さいことなのだが、この子なりに俺を気遣ってくれることが。


 甘えん坊で、怖がりで、落ち着きがなく、俺が守ってやらないとと思っていた娘が……


「いいからパパは大人しくしてて!」


 と言って娘は俺からスーパーの会員カードを奪い取り買い物に出ていった。


 ありがとな。

 俺は松葉杖を使っているから、両手が塞がっている。

 最低限の物しか買えないのだ。

 何度かスーパーには言ったが、かなり辛かったのを覚えている。


 足が折れて、落ち込むこともあったが……

 こうして娘の成長を目の当たりに出来たのだ。

 怪我をするってのも悪いことじゃないな。


 俺は娘を送り出し、パソコンを起動する。

 遊ぶんじゃないぞ。

 調べものをするのだ。

 俺は何か大切なことを忘れている気がした。

 

 大好きな俳優が怪我をして、そして記者会見をしている姿を。

 その俳優は足を折っていた。

 だが松葉杖をついてはおらず、見慣れぬ装具を装着していたことを……


 そう、その俳優とは……


 インディジョーンズ。

 ハン・ソロなど魅力的なキャラを演じたいぶし銀。


 ハリソン フォードを……


 そして俺は見つけた。

 第三の足となってくれるそれを……


 俺はポチった。

 これがあれば戦慄の日曜日を攻略出来る。

 三万円以上かかったけどね。

 決して高い買い物ではなかったはずだ。

 

 

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