第12話 ママンのお見舞い

「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」


 グイッ グイッ グイッ


 リハビリを終えた俺は、病室に戻り腕立て伏せに励んでいる。

 絶賛筋トレ中なのだ。


 松葉杖で体重を支えるには上半身の筋力強化が必要だと。

 理学療法士のWさんからの助言だ。


「18、19…… 20! よし、終わり!」


 腕立て伏せ二十回を繰り返し、インターバルを置いてから再び腕立て伏せを繰り返す。

 

 ふー、いい汗かいたぜ。

 

 俺は足を折った入院患者ではあるが、歩けない以外は健康そのものなのだ。

 リハビリ以外でもやれることはやっておこう。


 そして再び腕立て伏せを繰り返そうとしていた時……


 ピロリン♪


 おや? メールの着信だ。

 タオルで汗を拭きつつ、スマホを取り出す。

 メールアプリを起動すると……


【駅に着いたよ。今から病院に向かうね。何か必要な物はある?】


 おぉ! 実家からママンこと、お母さんが来てくれた!


 俺は急ぎメールを返信する!


【食べる物お願い! 甘いのしょっぱいの、何でもいいから!】


 因みに病室での飲食は自由なのだ。

 骨折以外、何の問題もなく更には個室ということもあり、M医師は「何でも食べていいよー」と爽やかに許可してくれたのだ。


 俺は急ぎママンを迎える準備に入る。

 わざわざ遠い実家から都内まで来てくれたのだ。

 お茶でも用意したいところだが、そんな物はないので、ベッドを綺麗にしておいた。


 そして三十分程のち……


 ガラガラッ


「骨折ー、あんた、何やってんの! 大丈夫なの!」


 ママンの登場だ! 

 その手には近所のスーパーで買ってきたであろう、大量の食料品を持って!

 女神やー。


「大丈夫だよ。手術も無事に終わったしね」

「ばか…… 心臓が止まるかと思ったわよ。お父さんの手術の前に、まさかあんたが入院するとはね……」


 そう、実は我がパパンもガンを患い手術を行うのだ。

 しかも予定では骨折した八月二十一日の翌日に、俺はパパンのお見舞いに実家に帰るつもりだった。


 因みに現在パパンは無事手術を終え、健康に過ごしている。


 俺は親不孝な息子である。

 父が入院だ手術だと、てんやわんやな時期に骨を折るとは……


「全くもう…… でも割りと元気そうね?」

「そりゃ足以外は健康だからね」


 ママンも俺の様子を見て安心してくれたようだ。


 母は大量のお菓子に果物、パンや惣菜売り場で買ってきてくれた寿司を買ってきてくれた。


 ご馳走である。

 母にお礼を言いつつ、俺はそれらを貪り食った。

 うぅ…… シャバの味だぁ……


 その後、母は必要であろう下着やゆったりとした膝まであるズボンなどを買ってきてくれた。

 そうこうしていると、もう夕方に。


「それじゃそろそろ帰るわね」

「え? もう? 娘ちゃんには会っていかないの? 電話して呼ぼうか?」


 俺の娘は母にとって初孫だ。

 とても可愛がってくれたので、会わせたかったのだが……


「別の機会でいいわよ。お正月に来るんでしょ? 今回はあんたに会いに来たんだからね。ほら、さっさと治して、あんたも実家に顔出しなさいね」

「うん……」


 と、母は割りとドライに病室を出ていった。

 40過ぎても俺はマザコンなのだ。

 寂しいよー( ノД`)


 その夜、再びお見舞いに来た嫁が病室にある大量の食料品を見てビックリしていた。

 

 

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