第13話 どんなプレイよ?
ブロロロロッ
あぶなっ!? 俺の横を車が通りすぎる。
俺は今、理学療法士のWさんと一緒に道路を松葉杖で歩く訓練をしている。
やっぱり松葉杖を使う分、普段と感覚が違うな。
「はーい、上手ですよ。それじゃそこの角を曲がって下さい」
俺はWさんの指示通り、十字路を曲がる。
そこには愛しのT外科病院の正面玄関があった。
「はい! それじゃ今日のリハビリは終了です! っていうか、もう全く問題無いですね」
おぉ、プロのお墨付きが貰えたぞ。
これはつまり……
「あ、あの…… 俺ってもう退院出来ますかね?」
「先生の判断にもよりますが…… 私からも推薦しておきますね!」
やたっ! もしかしたら入院三日目で退院出来るかも!?
幸いまだ午前中。
詳しくは知らんが、午後の検診で問題なければ退院出来るかも……
俺は早く家に帰りたかった。
やりたいことがたくさんあるのだ。
部下のトレーニング計画を立てたり、予算を見直したり、小説のプロットをパソコンに打ち込んだり、【娘と一緒に異世界転移!?】をカクヨム用に推敲したり、ゴーストリコン ワイルドランズの主人公ノマドとしてボリビアを救ったりしなければならないのだ。
俺は一縷の希望を胸に本日のリハビリを終えるが……
カッ
うぅ、夏の日差しが痛い。
直射日光が肌を焼く。
去年の夏って暑かったですよねー。
俺は汗でドロドロだった。
フロに関してはM医師の許可がなければ入れない。
やれることは濡れタオルで体を拭くだけだ。
シャワー浴びたいなー。
俺は静香ちゃん的な欲求を抑えつつ病室に戻る。
中にある洗面台でタオルを濡らし体を拭いていると……
ピロリン♪
ラインの通知だ。
スマホを開くと……
【骨折さん、早速ピンチ! 二日後、もし退院してたら支援して!】
変態Bさんからだ。
二日後か……
足が折れてる以上、営業には出られないが、緊急事態対応の指示は出来る。
それに俺がいないことで、H営業所の管理業務は雪だるま式に増えているはずだ。
俺はBさんに返信する。
【多分大丈夫。もうすぐ退院出来るはずだから現場に戻ります!】
【神っ!】
こうして俺の現場復帰の日程が決まった。
さて、今日やることは終わったな。
俺はベッドに横になろうとするが……
ムズッ
おや? この感覚は……
ムズッ ムズムズッ
か、痒い!?
足が痒い!
しかもギプスに覆われてる右足全体が痒い!!!!
「アヒャヒャヒャ! や、ヤバイ!」
俺はベッドで転げ回った!
痒くてもかけない!
じ、地獄だ!
な、何とかして痒いところをかかないと!
死んじゃうー!!!!
俺は別の意味でのピンチを迎えた。
そう、骨折した人全てが経験するであろう【ギプスの中、かいかい問題】に直面したのだ。
そ、そうだ! 昨日お母さんことママンが買ってきてくれた寿司の中に割りばしがあったはず!
俺は急ぎゴミ箱を漁る!
頼む! まだあってくれ!
ご想像いただけるだろうか?
40の足を折ったおっさんが、足をかこうと変な体勢になりながらゴミ箱を漁ってる姿を。
滑稽である。
思い出しただけでも笑ってしまう。
主に俺がw
今となってはいい思い出だが、俺は必死だった。
そして見つけたのである……
値千金、俺の命を救ってくれる【使用済み割りばし】を……
俺は割りばしをギプスと足の隙間にねじ込む!
痛い!
ささくれが刺さる!
でも止めるわけにはいかん!
ズイッ ゴシゴシッ
グリグリッ
あはん…… 気持ちいい……
俺は無我夢中で割りばしで足をかく。
だが俺の
割りばしとは所詮木なのである。
負荷に耐えられなくなった割りばしは……
バキィッ
「…………」
ギプスの中でその短い命を散らすのだった……
って、おい!
この根性無しが!
俺は怒りを感じながらも、再び迫り来る【痒み】に恐怖した。
ど、どうしよう……
そこで俺は一つ思い付いたことがある。
それは……
「ヘイ、シリッ! 足が痒いんだ! 助けてくれ」
『ではこちらを』
俺はスマホに向かって語りかける!
シリ、俺を苦しみから救ってくれ!
だが出てきたのは、皮膚科のホームページや痒み止めの薬のホームページ。
違うのシリ!
もっと直接的な解決方法を求めてるの!
この役立たずが!
所詮はAIか!
俺は自力で様々な検索をかける!
そして見つけた!
【ギプスの中、かいかい棒】を!←本当にありますw
俺はポチった!
予備として二本購入だ!
高くてもいい、お急ぎ便で購入した!
そして、その夜……
コンコンッ
今日も愛しの我が妻がお見舞いに来てくれた。
「どう? 痛くない?」
「むしろ痒い……」
俺は妻に今の気持ちを伝えるが、終始半笑いだった。
なに笑ってんだよ!
俺はちょっと怒ってしまったが、その怒りは解けることになる。
彼女は鞄から【ギプスの中かいかい棒】を取り出してくれたのだから。
「なんか変なの買ったのね?」
「は、早くそれをちょうだい!」
【ギプスの中かいかい棒】は自転車のスポークから作られてるそうな。
先端がちょっと曲がっており、皮膚を傷つけないよう、丸みを帯びている。
俺は【ギプスの中かいかい棒】を挿入する!
カリリッ
あぁん……
もう夢中でかいた。
かきまくった。
俺がノーベル賞選考委員なら、間違いなくこの素敵な棒を開発した人を推薦するだろう。
こうして俺の危機は去った。
【ギプスの中かいかい棒】は夏の間、頼もしい相棒として大活躍することになった。
棒だけに。
そして入院三日目を終える。
因みに俺の退院はM医師が許可を忘れていたらしく、二日後に先伸ばしになってしまったのだった。
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