第17話

「かなり人が集まったな」

ガサガサ

ワサワサ

ガヤガヤ

障壁の周りには人族と魔族の大群。

「ねぇねぇ勇者様が勝つよね?」

「当たり前でしょ。一度勝ってる敵に遅れをとるわけないじゃないの」

ある親子の会話だ。この会話は魔王と勇者の耳にも入ってくる。

「大分期待されているようだが大丈夫か?今の状態じゃ無理そうだが」

勇者は膝をつき顔を下に向けまるで放心状態のような佇まいをしていた。

一方その頃戦士達主に戦士と僧侶は障壁を破ろうと試みるものの全く成果が出ていなような様子だった。

「なんて頑丈な障壁…」

「とてつもない使い手が貼ってるね」

2人は魔族が固まっている場所に視線を移す。

「奴らはこれから始まる戦いに手出しさせないようにする為の構えをしている。隙なんかない」

「この障壁を崩すことは不可能性に近いねぇ」

戦士と僧侶が悔しそうな顔をする。2人とも力強く拳を握る。

このまま戦えばどのような結果が訪れるか分かっているのだから尚更辛い。

「あんたらほんと粘るわね。あんなやつどうだっていいでしょ。戦士あんたも勇者に対して不満溢してたじゃん」

「あれは思いあるからこその言葉だ」

「?何言ってるかわからない。調子乗ってた勇者にはちょうどいいお灸になるんじゃない?いつも通りなら勇者は魔王に殺されないんでしょ、ね?」

「うん、勇者そう言ってたよ。私たちに稽古つけてくれてた時」

「私もその話は聞いた」

「だから、大丈夫でしょ?」

「いや、今回はそうはいかない。魔王は自身と魔族の力と尊厳を守るために勇者を殺す!」

「「「えぇ???」」」

戦士は障壁の中を覗き込むように勇者の姿を食い入るように見た。


そして、本題の2人。

「そろそろいいか」

「これから何をするんだ?」

勇者が真剣な眼差しで魔王に問う。

「サシで戦ってもらう。決闘だ」

「決闘?」

「うむ…と、その前に我にはまだやるべきことが残っていたな」

魔王は人族の王の方を向く。

王は兵士に何か耳打ちをしていた。

「王よ。やめておけ、意味がない」

魔王がこちらを向いて話してきたことに気づいて王はビクつく。

(バレている?そんなはずはない。この距離で聞こえているなんてことは流石に…)

「貴様が兵に指示した大まかな内容ぐらいは想像できる」

(なに?)

チラッ

魔族が視線を移す。その先には先に耳打ちを受けた兵士がいた。いや、耳打ちをされた兵士だけでなく多くの兵士がそこに集まっていた。

「行くぞー。この障壁を破るぞー」

先程耳打ちを受けた兵士が拳を挙げて叫ぶ。

「「「おーー」」」

他の兵士たちも奮起され、拳を上げながらおーーと勢いよく返事をする。

兵士たちが障壁に攻撃しようと構えた時だった。

王が口を開く。

「貴様らそんことをしても無駄だぞ。この障壁はアンチマジックフィールドも組み合わされている上にかなり防御力高い。まずいって貴様ら如きじゃどれだけ時間をかけようと破ることはできん」

「なっ…」

兵士達の手が止まる。

そして、追い討ちをかけるようなことをこの後魔王はやってのける。

「確かに、破ることはできないかも知れんが貴様らはそれでも動くだろう。その動きは目障りだ。今のうちにその手は封じさせてもらう」

そのように言うと掌を前に出してこう言った。

「“ウエポンエラー”」

魔王がそう言うと人族の兵士たちの持っている武器が紫色の怪しげな光を放ち始めた。

そして、

バキン

パキン

ガラン

武器が崩れ去る音が荒野に響く。

兵士の持っていた武器が全て崩れ去ったのだ。

もちろんあの2人の武器も例外ではない。

「な、俺の剣が??」

「私の杖も??」

戦士と僧侶も自分達の武器がいきなり崩れ去るように壊れたことに困惑していた。

他の武器が壊れた兵士たちも魔王が言葉を発して突然に武器を失ったことに困惑を隠せない様子だった。

城からそれほど離れていない緑が生え覆う大地で人々が屯している中武器を持つ者はいなくなった。勇者を除いて。勇者の剣は無事なようだった。

「我のスキル“ウエポンエラー”によって人族側の武器を全て破壊させてもらった。その武器で抵抗されるのも厄介なものでな。予め対処させてもらった」

(なんてやつだ!!)

勇者は驚きを隠せない。

「我がスキルで半径5キロを指定し、その中にある武器全てを破壊した。これで貴様らはこの障壁になす術はなくなった。魔法も聞かなければ武器による好火力攻撃もできなくなった。この障壁を破ることが絶望的になったな」

魔王は淡々と話す。

勇者はというと改めて状況のヤバさと相手の実力を認識していた。

(どれだけのスキルを持っているというんだ?!どんな強力なスキルを持っているというんだよ…)

勇者はより一層険しい表情を浮かべる。

「貴様のその剣は流石だな。命をかけて作られているだけある。我がウエポンエラーが効かないとはな」

「ああ、おかげさまでな」

苦笑いを浮かべながら勇者は皮肉に答える。

「さあ、邪魔も入らない。一対一の決闘をしようではないか」

「何故こんなことをする?意味はあるのか?」

「あるように見えるか?」

小声でそう言った。

ギリギリ勇者はその声を聞き取った。

「…そういうことなのか?魔王」

「お主の思う通りだ。貴様も不本意ではなかったか?夜夜中に我を倒して魔王討伐に成功したと堂々と誇るのは」

「俺はそんなこと微塵も思ってないね。お前を倒す方法はお前たちの油断をつくしかなかった」

「心に正直な勇者だ。性格とは間反対だな」

「そんなんじゃねぇよ。嘘なんかで取り尽くしたってこの状況じゃ無駄だろ?」

「ふっ、やはり、我の見込み通りの人物のようだ」

「そんな魔王様に褒められるほど俺はできてねぇよ」

「勇者よ。死ぬ前に聞きたいことがある」

「なんだよ。早く言えよ。勿体ぶるなよ」

「貴様は魔族のことをどう思っている」

「…人間や他の生物同様の命だと思ってるよ。最低でも、人族と魔族の間で命の価値に差なんてない。同じ命に変わりはないと俺は思っている」

「そうか…魔族に言いたいことは?人族に言いたいことは?どうせ今日が貴様の最期だ。最期の言葉ぐらいは聞いてやろう。我も寛大なのでな」

「見せつけてくれるじゃねぇか。俺はそんな時間すら与えなかったっていうのに」

「さあ、答えはどうだ?」

「俺の常のうちにある本音を話させてもらう。何故花好きになったかというとやっぱりテメェが俺の想像通りのやつだったからだ」

勇者は一度目を閉じて軽く深呼吸する。

「人族と魔族が互いを理解し…手を取り合って…平和な時代を気づき…二つの種族がいがみ合うことなく…二つのの種族で生活を送れるような…時が来たらいいなと思っていた。だが、その時は来ることはない」

「貴様のその重き言葉我が胸の中に大切にしまっておく。今後絶対に忘れることはないだろう」

「ふふふ、当たり前だろ。俺はなんたって魔王を倒した勇者だからな」

勇者は苦笑しながら言った。

「それじゃあ始めるとしよう。あの時果たせなかった正々堂々の一対一の決闘を」

魔王は戦闘の態勢に入る。

「ああ…流石に俺も抵抗させてもらうぜ。俺は勇者だ。皆の希望だ。そして、1人の人間だ。最終的に訪れる未来がわかっていても足掻かせてもらう。俺も人間なんでな」

勇者は命聖光剣に手をかける。

剣を抜く。そして、構える。

「行くぜーー!!」

勇者が声を上げた瞬間だった。

「貴様のその刃が我に届くことはない」

勇者はその言葉を聞いて動きを止めた。

そして、困惑と同時に探るような目をして魔王を睨む。

魔王は両腕を前に出し、指を合わせて三角を作る。そして、こう唱える。

「これから封印の呪なるものを始める」

「なんだ、この感じは??」

「あーーらーーーうーーくぅーーアラト・・・“サタンシールド”」

ジジジ

バチン!!

なんと魔王が言葉をかけた直後に勇者の手から剣が弾かれた。

その時、勇者は呆気に取られていた。正真正銘今なにをされたのかわからなかった。

(なにをした??)

「不思議そうな顔をしているな。我が説明してやろう。その剣の力を全てを我がスキルで封印した」

「な、なに?さっきのスキルが効かなかったのにどうして?!」

「さっきのスキルとは格が違う。その剣をもう一度持ってみろ。

「くっ…」

勇者は魔王に言われるがままに剣に手を伸ばす。剣に手が触れようとするとなんと弾かれてしまう。弾かれる際剣から電撃のようなものが迸る。

「勇者の剣の無力化…」

「その通りだ。勇者など所詮はその剣がなければ雑魚に過ぎない。貴様も例外ではない。貴様もわかっていたのではないか?だからこそ、常時その剣を身につけ力を蓄え、いつでも使えるようにしていた。もしかしたら起こるかも知れない大きな事態に備えて。我を葬った時のように」

勇者は大量の汗を流していた。それほど、緊迫した状態ということだ。勇者はこの瞬間に全てを悟ってしまった。

「貴様がこの何年か貯めてきたエネルギーも全て無駄になってしまったな。一度、エネルギーの排出者から離れると3分以内にもう一度身につけエネルギーを充填しないとエネルギーは放力してしまうのだったな」

その言葉を聞いた勇者は無限で魔王の方に振り向き、腕を思い切り広げた。大の字の形なるような状態で勇者は佇む。

その姿を見た。国民たちからは疑問の声が飛び交う。

「なにをやっている」

「勇者はなにを考えてる」

「魔王に勝ったんじゃないのか?」

勇者は誰の言葉も耳には入っていない。ただまっすぐ魔王わ見つめていた。

「やるならやれ。一思いになる」

魔王は少しの沈黙の後答える。

「…わかった」

魔王は攻撃の態勢に入る。

「最後に残す言葉はあるか?」

「お前にだったらやられていもいいと思った。お前や魔族たちには大分迷惑をかけたからな」

「…やはり貴様が我だけを葬ったのはそういうことなのか?」

「ああ、お前だけを殺して全て済むならそれに越したことないと思ってな。それなら、お前以外の魔族に被害は行かないと思ってな。だが、やはり俺のやり方は間違っていたようだ」

「・・・」

魔王は黙って勇者の話を聞く。

「じゃなきゃ、こんな状況にはなっていない。俺は…いや…俺たちなのか?もっと様々な可能性と方法を考えるべきだった。俺は愚かだ」

「最後に?」

「もうねぇよ、言葉は。十分すぎる時間をもらった。魔王済まなかったな。本当であれば俺とお前は分かり合えたのかも知れねぇ。こんな形で終わっちまうのは残念だが、お前の残っている道はこれしかねぇもんな。あとは一思いにやってくれ」

魔王は視線を落とす。

「我も貴様同様ここまで分かり合えるかも知れぬ者と出会ったのにここで失うのは惜しいが魔族の未来の為にもここで勇者よ。お主を消させてもらう」

「ああ、やってくれ。俺はそれだけの報いを受ける行いをしてきた。当たり前の結果だ」

「あの世で待っておれ。我もそちらに行った暁には杯でも交わそうではないか」

「おう、楽しみに待ってるぜ。いつになるかわからんがな」

「ふ、楽しみにしておれ」

そういうと魔王は右手を体の前にかざす。

そして、その手の平から黒き光線が放たれる。

ビシュシュシュシュシュ。

その光線は見事に勇者の心臓部に命中し、勇者は後ろに体が少し吹っ飛び仰向けの状態で倒れ込んだ。

ここでようやく魔王の復讐は終わったといえる。

だが、この時の魔王は非常に苦しそうな顔をしていた。


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