第19話

(魔王様は私に最後の言葉を残してくださった。死の間際、魔王様は自らのテレパシー能力を必死に使い私にあることを伝えてきた。あることとは「あとは頼んだ。魔族を…人族を…守ってくれ」と。私はこの魔王様の最後の言葉の使命を必ず果たしてみせる!この命に変えても!必ずや、未来に繋げてみせる!可能性を生む為に!)

そういう思いを寄せながらデモルスピヤはダークロードの方へ駆け出した。

「ん?」

デモルスピヤが近づいてきていることにダークロードは気づく。

(なにをしに?魔王がやられたのだ?貴様では俺に勝てないことぐらいお前なら分かってるはずだが…)

ダークロードが自分の存在に気付いたとデモルスピヤは感づくやいなや足を止めた。

そして、両手を前に出した。

そうすると、両手の間に紫色のナイフと剣の間のセミロングブレードのようなものが出てきた。

「貴様を封じ込まさせてもらう」

(何をするつもりだ?)

デモルスピヤは自らが召喚した剣を自分の心臓部に刺した。

「な、なに?!」

「…スキル“ブラットチェイン”」

デモルスピヤがそういうとダークロードの周りを囲むようにいきなり障壁が現れた。

しかも、一枚だけでなく何枚もの壁が立ち塞がっている。

「こんなもの我の前では無駄だ」

そう言ってダークロードは腕を前に構える。

そして、障壁を破壊する。

しかし!!すぐに障壁が現れる。

ダークロードは全ての障壁を一気に破った。

しかし、またも障壁が破られた瞬間に張られていた。

「無限に障壁を貼り続けて我をここに縛り付ける気か。だが、そんなことは無駄だ。貴様のSPが尽きる方が早いだろう」

「ふふふ、私は命をかけこのスキルを発動している」

「それがどうした?」

「つまり、この障壁は無限に張ることができる。私のSP量を無視して永遠に障壁を張り続けられるのだ」

「なに?なら貴様を処分すればいいだけの話」

「ふっ、無駄だ。今更私をどうしようとどうもできない」

「その言い方だと永遠にこの障壁が貼り続けられているわけではないようだな」

「…気づいたか。そうだよ。永遠というのはこの障壁を張る際のSPが消費する必要がない事を示している」

「だが、おかしくないか?お前はまだ死んでいないぞ?」

「寿命を前借りしたのさ。これから訪れるはずだった人生を捨てたおかげさまで一定の時間だけだがSPを消費しなくてもいい力を得た」

「なに?寿命の前借りだと?そんな都合のいい話があるか?自分の寿命を前借りする能力は実質的にノーリスクで力を使っているのと同義だ。例えば、お前の死がこの力を使った後だとしたら実際寿命を減らさしていないということになる。減らしたからその結果になったのではなく最初からその事実は変わらず存在し、いつかは訪れる。なら、答えははっきりしている。寿命を削る力は実質ノーリスクで力を得ているということになる」

「ふふふ、よくそこまでに考えが行きついたな。流石だ。そう、寿命を削る力を考えた時お前のいう通りの結論に至る。実質ノーリスクで使えると。だが、私のはそんな甘っちょろいものではない。エゴによって手にした力などではなく自分の本当はあったはずの未来を奪い力を使っている」

「どういうことだ?」

「私がこのスキルを手に入れた時、魔王様のスキルで私の先の人生を見せてもらった」

「?なにが言いたい?」

「私はこの後待っていたはずの未来を確実に捨てたということだ。他のリスクなしの寿命を使った力ではない」

「ほほう、魔王に人生を見極めるなんて能力が備わっていたとは。しかし、ならなぜ自身の死を察知できなかった。貴様の本当に起こるはずだった死と違うから現在の未来ご見えなかった為にこの場面を対策できなかったというのはわかるが、魔王は何故自分自身の人生を見ていない?見ることができないのか?」

「魔王様がもう現存しない今なら話してもいいか。魔王様は自身の寿命を使うことで力を得る能力を持ってる者の人生を見ることができたのだ」

「なるほど、魔王はそう言った能力を持っていなかったわけか。まあ、そんなもの持ってようが持ってまいがチートな強さを持っていたがな。神々が自身達に近づいた生物だと実力を認めたほどだからな」

「何故、貴様が神々と魔王様の戦いのことを??」

「俺は相当前からここにいたってことだよ。かなりの刻を待ちこの時を窺っていた」

(そんな…)

「だが、この時という都合のいいタイミングなんてものはなかなか来なかった。正直もっと時間がかかるぐらいに思っていた。だが、思ったよりも早く計画が実行できた。俺としては喜ばしいことこの上ない」

「…はぁはぁ。お前の目的など私にはどうでもいいがここで絶対食い止める」

「…障壁の外でずっと障壁を貼り続けることによって我によって術者本人を狙った攻撃もカバーしているのか。なかなか面倒だな。だが、貴様が障壁を張れなくなるのを待つだけで我の勝ちは訪れる。無駄な足掻きだ。貴様の早急な判断は間違っていないが相手が悪かった。我に勝てる者などもうこの世にいない」

(確かにいない。見当たらない。個人的な力ではな。だが、きっと残った同氏達が何か策を考え貴様を討つはずだ。私がこうやって時間を稼いでいる時に策を立てる筈だ。問題は…)

デモルスピヤの顔は曇る。

(俺にとっての障害はまずはやつのが張ってるこの障壁だな。俺の力を持ったとしても全て破りやつのところまで攻撃を届かせることができない。一応、障壁は常に新しいものが張られるから張られるたびに障壁を壊していってるがキリがない。これでは籠の中の鳥。どうにかこの状況を脱出したいが…正直、この状態が続くのは俺にとっては非常に良くない。どうこの状況を打破するか)

そんなことをダークロードが考えている時、ふとデモルスピヤが苦しそうにしている様子が視界に映った。

「ふふふ、お前の限界の方が早そうだな。当たり前だよな。命を燃やして使う力だ。相当体にも負担がかかっている筈だ」

「その通りだ。だが、なんとかなるべく長く時間を稼いで見せる」

「せいぜい、頑張るんだな」

ここから2人は余計なお喋りはやめて、障壁を張る、それを瞬間で破る、破られた瞬間に張るを繰り返し続けた。

この時のデモルスピヤの状況から今の現状を維持できて1日というところだった。それはデモルスピヤ自身も分かっていた。だからこそ、悩んでいた。

この障壁を張るということの実態はデモルスピヤのスキルであるマジックバリアだ。このスキルは先程の障壁と全く同じ性質を持っている非常に優れている。しかし、デモルスピヤの本来の実力ではこの障壁を一瞬で張ることもできない上にここまで連続して貼り続けることなどできないのだ。だが、デモルスピヤの最終奥義ともいえるスキル“ブラットチェイン”はデモルスピヤの持つ潜在能力をかなり底上げし、SP消費を0にするスキルなのだ。“ブラットチェイン”は無限に障壁を張るスキルではなく自身を大幅に強化するスキルなのだ。

だからこそ、ダークロードは困っていた。

別々のスキルだからこそ困っていた。

(この障壁内だと、あのスキルを使ってもやりたいことができない。あのスキルのおかげであの障壁に潜り込めていたともいえるが逆にこの障壁のおかげで少しリスクを伴わなくてはならなかったことも事実だ。障壁は魔法の無効以外にも遮断の力もある。術者本人以外は外部と内部を繋げることができない。これさえ無ければ余裕でこんなところから抜け出してやるのだがな。まさか、こいつはそこまで読んで…)

デモルスピヤは死に物狂いで障壁を貼り続けている。

(そんなわけはないか。あの表情だからな)

涼しそうな顔をしながらダークロードは障壁を破り続ける。

その様子を見かねた悪魔族の精鋭は動いた。

「デモルスピヤ!お前だけに負担はかけさせない」

「未来を繋ぐ手伝いを俺たちにもさせろ」

「私達も微力ながら力を貸すよ!」

(みんな…)

デモルスピヤの顔に驚きと喜びの感情が少し写った。

デモルスピヤの発動しているスキル“ブラットチェイン”は悪魔の中でも才と強さが認められた者だけに与えられるものなのだ。ある日、いきなりスキルは獲得される。皆はこのスキルがあまりにも危険で強大な力を秘めている為こう呼んでいる。『禁呪スキル』と。このスキルは現在デモルスピヤしか持っておらず、彼のみが発動できる。しかし、体への負荷が大きい。そのため、皆が集まったのだ。一族に受け継がれている、もう一つの『禁呪スキル』を発動してデモルスピヤを支える為に。

10人ほどの悪魔が障壁を囲うように集まり、両手を重ねて胸の中心におく。そして、呪文を唱える。

「「「今ここに我が命を捧げる。かの者を助けたまえ“デーモンチェイン”」」」

そう唱えた10人の悪魔は楔となりその場に突き刺さった。

そして、一つ一つの楔からオーラが上がり、それが電気のように弾ける。その弾けたオーラ同士でくっつき合い、一つの円を楔で形成した。その円の中にはデモルスピヤ、そして、ダークロードとそれを囲む障壁があった。一つの円となった楔のオーラがデモルスピヤに集まる。

デモルスピヤから流れるオーラの量が段違いに多くなる。

「ありがとうみんな。あとは任せろ」

デモルスピヤは覚悟を決めたような真剣な眼差しでダークロードを睨む。

(奴らはなにをした?)

ダークロードに彼らがなにをしたかなど分かりもしないが受け取ったデモルスピヤはしっかりと皆の思いを噛み締めていた。

このスキルは自分の命を犠牲にする事で楔を作る。その楔はその犠牲にされた者の意思を読み取って力が発動する。今回、10人が楔にかけた思いは一つだった。『デモルスピヤの負担を軽減してくれ』というものだった。この意思を楔は読み取りデモルスピヤの体の負荷を軽減している。この楔は代償に払った命の寿命に比例して存在し続ける時間が長くなる。だが、今回の場合楔の寿命より先にデモルスピヤの寿命が先にくるだろう。

それを理解した上でデモルスピヤはある計算を導き出した。

(もって3日だな…皆のおかげでそこまではきっと持つだろう。しかし、それ以上は、持たない筈だ、今生きて残る全ての者たちよ。散っていった者たちの為にも頼んだぞ!)

デモルスピヤは力を振り絞ってそう心の中で強く思った。


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