第18話

倒れ込んでいる勇者。

それを見下ろす魔王。

勇者は心臓部から血を大量に流している。目も虚状態だ。生きているとは非常に言いがたい。だが、表情は清々しい顔をしていた。

彼はもしかしたら魔王に殺されたことに…

勇者が殺されたことで人族側は呆然としていた。誰もが勇者が殺された事実を受け入れ難かった。


ほとんどの者が冗談だと半信半疑の様子だった。しかし、戦士と僧侶の2人だけは違った。

「うぅぅぅ」

「くぅぅ…」

2人は手で目元を隠し膝をつきながら悲しみに明け暮れていた。

「勇者…」

「・・・」

2人の姿を見た人々は悟った。勇者は魔王によって殺されたと。

「なんであんたらそんなに悲しんでるのよ!あいつ、魔王倒し終わった後の私たちの扱いを覚えてないの?あんたたちがいくら小さい頃からの幼馴染だからってここまで同情する必要なんてないでしょ!」

「そうよね?」

「確かに…」

魔女っ子3人組は首を縦に振る。

「…お前らは知らないあいつの顔がある。なんであいつがお前らを選んだか知ってるか?」

「え、それってパーティーに華を持たせる為なんじゃ…」

「いや、違う。お前らを助ける為だ。こっちは選抜する際にお前らの生活状況を知った」

戦士は頭をぶら下げるように顔を下に向けながら話し続ける。

「はぁ?」

「お前らの家族が生活するのが厳しいような状態だとあいつは知ったのさ。こっちが欲しい人材を集めている最中にな。お前らだってわかってるだろ?お前らは親に自分達が生活する為に売られてたことを」

「「「!!!」」」

「なんでそのことを…なんで私が貧乏だから売られたことを知っているの??!!」

「若い特に特徴もない娘が3人金をかけられた状態でリストにあったんだ。勇者はそれを見てすぐに事実を調べた。この3人はこのままではろくでもない奴のところに渡ったらなにをされるかわからないと思った。そこで可哀想な3人を勇者は引き取った」

「そ、そんなこと…」

「お前らだって薄々気付いているだろ。あいつはお前らに報酬としてお前らの家族が一生を過ごすのに困らない富を与えた。それでお前らのとお前らの家族は大分まともな生活ができるようになっただろ。やつはお前らのことをお前らの家族を第一に考えて行動をしていた。お前らを救いたいという思いだけで」

「そんなことってある?あんな態度だったじゃない??!!」

「あれは照れ隠しだ。あう言うことは不器用なんだよ。そして、このことはあいつに口止めされていた。変な気を使われるのは嫌だという理由で」

「そんな…私はなんでことを…」

魔法使いが腰抜けたようにへたり込む。

他の2人も驚愕の顔をしながらへたり込む。

そして、全員泣き出した。

「そ、そんな私お礼まだ言ってない。今まで散々悪道的な態度ばかり取ってきてしまった」

「私も勇者のことを邪険に扱ってた」

「感謝の気持ちなんて一切見せれてない」

「あいつは表には一切出さないが正義の心は誰よりも強く持ってたんだよ。あのハーレムにも実は意味があったんだよ…俺は理由を知らないけど」

「彼のところにいきましょう。私たちにできるのはそのくらいです」

戦士と僧侶さ強がったように言葉を発しているが心の傷は深いようだ。2人の目元には赤い涙の跡が残っていた。

5人は意思を一つにして勇者の方を見る。


「…我も心ある生物なり、情を持って貴様を送り出そう。貴様も人だ、生物だ。最後は人と時を終えるがいい」

魔王がそう言って障壁を解除する為に右腕を上に上げる。

「障壁を解除する。“マ…」

グサっ

何かが何かに突かれた音がした。

場に静寂が生まれる。

魔王は自らの心臓部に視線を落とす。

「ぐはっ。な、何…?」

なんと魔王の心臓部が黒きオーラの剣に貫かれていた。

魔王は血を吐き出す。刺された箇所からは大量の血が噴き出す。

魔王の表情は痛々しい様だった。

「誰だ?我にダメージを与えられる者だと?ぐっ」

魔王は振り向くとそこにいたのは魔王の家臣だった。あの魔王復活に一役を買い、常に魔王のそばに付き添いこの数年を支えてきた存在がいた。

家臣からは禍々しいオーラが立ち上っていた。

それを見た人族、そして特に魔族は驚いていた。

「え、魔王が刺された?」

「え、勇者やられたよな、さっき」

「どういう状況だよ」

「な、何故あそこにいる!!魔王様と勇者以外あの場にいるはずがないはず!!」

「あの中にどうやって入ったんだ?!」

「どういうことなんだ!魔王様が刺された!!」

「しかも、あの魔王様が大きなダメージを食らっている」

「早く障壁を解除しろ!」

魔族は人族以上の慌てようだった。

魔族は今回完璧なプランを立ててきた。それがここまでしっかりと的中しうまくいっていた。そのため、自分たちの計画が完璧だった為に予想外のことがいきなり起きたことによって混乱と焦り、状況判断能力の低下が起きていた。

だが、そんな荒れていた中でも1人は落ち着いていた。

「待て!!様子を見よう。障壁は絶対に解除するな!!何か嫌な予感がする」

そう言い放ったのがデモルスピヤだった。

彼は一人で魔王の代わりを務めれるように平静を偽っていた。内心はとんでもないことになっていた。

場面は魔王達の方へ戻る。

「何故、お主が…」

「それは魔王、俺がこの時を待っていたからだ。この瞬間を待っていた。お前が一瞬だけ見せるだろうという隙をなぁ!」

「声がいつもと違う?」

「俺の本当の姿を見せてやる」

グニャグニャ

そういうと家臣の体の形が変化していく。

そして、異形なる姿に変わったと思った瞬間にシュッと体は細まりスレンダーな悪魔のような姿の生物が現れた。

「そ、れが、貴様の本当の、姿か?」

「その通り。俺はお前を完全に倒せるこの瞬間を待っていた。俺の計画通りにお前たちは動いてくれた」

「な、なに?お前たち、だと?まさか、勇者への復讐も…?!」

「その通り、俺が仕向けた。テメェを勇者があの手段で殺させすのも俺が仕組んだ」

「な、なんだと…?それ、じゃぁ、我々は今まで貴様の掌で踊らされていたということか?」

「その通り。俺の真なる計画には魔王お前がどうしても邪魔だった。その為にはまず、貴様のパッシブスキルを1度発動させる為にお前の生を1度奪う必要があった。正直今回のようなやり方ではお前を殺めることは一度しかできない。だから、勇者を利用させてもらってとりあえずはパッシブスキルをからさせてもらったわけだ」

「貴様は全てがわかっていたというのか?ぐっ、貴様が我を第一に発見できたのも…」

「そう、知っていたから。お前らは俺の計画の上で予想通りに動いてくれた。おかげで1番の邪魔者である魔王を葬ることができた。お前は強すぎたんだよ。俺の目的において1番の邪魔ものだった」

「だが、我にここまでのダメージをどうやって…」

「それは俺のスキルの力だ。相手の防御力を0として扱い防御を無視して攻撃するスキル“ゼロディフェンス”、相手の防御力の高さに比例してダメージ威力が増す“ディフェンシングアップアタック”、この二つを使った。貴様にダメージが入るのは当然なことだ。貴様の常識を遥かに超えたそのステータスなら俺のスキルの威力は絶大だろう」

「…それほどの力を持ちながら何故このタイミングを??」

「いくつか理由がある。まず一つはそもそもの問題、お前のステータスの数値が俺より遥かに上だからだ。つまり、まともに正面からやったらいくら優秀なスキルがあろうと倒すことができない。もう一つは魔王の次に厄介な存在である勇者をより安全でより確実に始末するためだ」

「な、なに?!」

「勇者も邪魔だったのさ。この俺を倒す可能性が魔王以外だと唯一あったからな」

「勇者までも…きぅぅぅ、この事実が分かっていれば勇者をぉぉぉ」

「今頃遅い。まず、俺は勇者が殺されたのを見てから行動している。おれの存在に気付いていない時点でこの結果が訪れることに変わりはない。油断したな、魔王よ。2度も」

「あぁぁぁ、くぅぅぅ、なんで…」

「ありがとよ。勇者を葬ってくれて。おかげで楽できた。さらばだ、魔王」

そういうとその者は魔王に刺さっているオーラの剣を最大出力にして魔王に大きな風穴を開けた。まるで体内から爆破したような様子だった。

「ぐはっ」

魔王からオーラの剣を抜き、血を払う。

魔王は前のめりに倒れる。

魔王の心臓から大量の血が流れ出している。

皮肉にも勇者と似たような状態となった。

「皮肉だな。魔王よ。結局お前もこうなってしまったな。この時代に行ける最強よ。愚かだった」

その者はそう言い放つと大きな声で笑い始めた。

「はっはっはっはっはっはっ。愉快だ。この俺が今この世界の頂点となり、支配者となった。永き渡った我ら一族の思いも今果たされる時が来た!」

その時の勇者と魔王の様子は無残なものだった。二人に息をしている様子はなく、目も虚で生気を宿してなかった。

この世で唯一、この生物に対抗できる二人が死んだ。

やつは真なる最強の地位を手に入れた。

いつまでも高笑いをしている。

魔族達は

「そ、そんな魔王様が!!」

「有り得ない。またも卑怯な手で」

「今度も復活されるのですよね?」

皆の口からは魔王の死を直視できないような言葉ばかりだった。

だがそんな時一人の魔族が動いた。

「慌てるな!!魔王様はかし…いや、あの…あいつにやられた。これは紛れもない事実だ。やつはこれからこの世界を支配しようとする。絶対に阻止しなければならない!皆よ、人族、魔族関係なくやつを対象しなければならない!皆心を一つにしろ!魔王様を倒すほどの手練れだ」

デモルスピヤが大きな声で魔族側そして人族側に叫ぶ。

「あ、あいつ…」

「私達のやることは一つですよ、戦士」

「分かってるよ僧侶」

その様子を見ていた元家臣は不気味えみを浮かべながら口を開く。

「わ・れ・のことはダークロードと呼ぶがよい。今からこの世界は我の支配下になる」

ダークロードは天に手を掲げた。

ダークロードの体から黒いオーラが立ち上がる。

そうすると、障壁がいとも簡単にガラスが割れるようにばらけていく。

障壁がなくなっていく様子を見てダークロードは薄く微笑む。

「復讐の一部は終わった。真の始まりはここからだ」





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