第20話

あれから、少し時間は経ち人族の王の城の特設の会議場に魔族の代表何人かと人族の代表何人かが集まっていた。

この光景を見て違和感を覚える者の方が多いだろうが、皆が想像しているようなことをしている場合ではなかった。

デモルスピヤ達悪魔がダークロードの動きを封じ込めている最中、魔族から代表として一名人族の王の元に顔を表した。魔族の代表は吸血鬼族の天才ヴァルクリードだ。ヴァルクリードが魔族を総括し、すぐさま動き出したのだ。ヴァルクリードはデモルスピヤからメッセージを受け取っていた。『魔族と人族、二つの種族が力を合わせなければ奴に勝つことなど到底不可能だろう』と。その意思をしっかりと受け取ったヴァルクリードは早速行動に移した。

ヴァルクリードが王に協力しようと話しかけると、周りの人族と王の部下たちに止められる。それもそうだ。魔族は今は人族を憎んだりはしていない。協力してもいいと考えるぐらいに心の余裕がある。しかし、人族はそうはいかなかった。人族が魔族を受け入れるという発想はなかった。しかも、追い討ちをかけるようなことが先程起きたのだ、なお一層溝は深まるばかりだと思っていた。しかし、王の提案は違った。神妙な顔しながら魔族と手を結ぶことを了承した。「この事態はもうどうにもならん。なら組む腕はないか」と王は小さな声で呟くように言った。

こうして、魔族と人族は手を結びダークロードを倒す為に王の城に作戦を立てる為に集まっていた。


会議の様子に戻る。

何人かの人族と魔族が卓上を囲むように座っている。そこに座っている顔ぶれは中々の物である。まず、皆が知っている人物と言うと人族側では戦士と僧侶、その後ろに魔女っ子3人組、魔族側はヴァルクリード、ゴルドレイイドなどの族長が何人か座っていた。

「…意見ある者はいるか?」

「はっ、王様!失礼ながら私意見があります」

勢いよく声を上げたのは兵士長という役を受けている男だった。

「なんじゃ?まさか、魔族と手を組むことに異論か?」

「いえ、それは…ないこともありませんが今はそんなことにこだわる気はありません」

「じゃあ、なんじゃ?」

「そこにいる者達です。元は勇者のお供をしていただけの者達のことです。何故、彼らがここにいるのですか?確かに戦力としては十分だと思われますが、知略を組み立てることができるとは思いません。…魔族達も同様にそう思います」

兵士長は戦士達5人に視線を寄せたあと、魔族を睨むように視線を移し、その後、王の方へ視線を戻した。

「何故、そう思う?」

「陛下はこの状況をお許しになるつもりですか!」

「おいおい、こっちが黙ってれば酷い言いようだな」

戦士が会話に口を挟む。

ドンッ

戦士の言葉に反応して兵士長は机を拳で思いっきり叩いた。

「勇者の言うことだけ聞いて甘い汁を吸ってた怠け者達が!」

兵士長は戦士達5人を睨みつけながら罵倒する。

「…好きなように言えよ。俺たちは王にここにいることを認められて席に座っている」

「…様をつけろ」

「あんたはなにも分かっていないわね!私達が勇者のもとに行った時勇者は最後に言葉を残してくれたわ!『お前たちがいてくれたおかげでここまで来ることができた。ありがとう。お前らの強さは本物だ。気落ちするな。胸を張れ』って」

魔法使いが席から立ち上がって堂々と言い放つ。

「ほー、あのチャランポラン勇者がか」

「お前はあの人の本質を理解していない。そんな奴に魔王な強さも奴の強さも分からない」

僧侶は冷静で勝つ冷たい視線を向けながら兵士長にいった。

「奴の強さがわからない?」

兵士長は首を傾げる。

「お前、もしかして人族と魔族が総動員すればあいつに勝てるとか思ってる?」

「??」

兵士長が不思議そうな顔をする。

「その様子だとガチで思ってたようだな。お前はそういうところが俺たちの実力にも届かない理由だし、二流な理由だよ」

戦士は煽るように兵士長に言う。

「な、なんだと…」

兵士長は言葉の出方から分かる通り、かなり逆上していた。

「俺らが束になって向かったところであいつの足元にも及ばねぇよ。俺たちは魔王にだって勝てない」

「あの勇者が一度は倒せたような敵だろう?」

「あの勇者は入念な作戦によって魔王を倒したんだよ。不意打ちに特大の光斬撃を喰らわしてな。そんな卑怯な手でも使わない限り魔王は倒せなかった」

「…なら、剣があれば問題はないだろう!」

「いや、剣は勇者がやられると同時にスキル“ウエポンエラー”で無力化された命聖光剣は破壊された。もうこの世に存在していない」

「そんな…王様、我々の力を総動員すれば勝てますよね??」

振り向いて王に兵士長は問いかけた。

「…ただそれだけで勝てるのなら魔族も手など結ばない」

魔族は皆小さく頷いた。

「貴様はもうここから出よ。話が進まぬ」

「あぁ、はっ」

兵士長は王の命令によってその場から去っていった。その時の兵士長の背中はすごく小さく見えた。

兵士長がトボトボと通路を歩いているとその場に相応しくない様相の者がすれ違った。

兵士長はふと振り返る。振り返った時にはもう既に遅かったのかそこには誰もいなかった。

会議室では魔族の意見も交わしながら話し合いが続いている。

どう言った作戦にするかについて話し合いが行われている。お互いの戦力、能力を照らし合わせていく。しかし、中々いい作戦は出てこない。

作戦を立て始めて2時間以上が経過した時だった。賢者か初めてその者の存在に気付いた。

「あ、あそこ!扉に寄りかかってる人がいつのまにかいる!」

賢者のその声に全員が反応した。

その場にいる全員が賢者が指差す方を見る。

「おっ、やっと俺の存在に気付いたか。中々気づかないから正直眠くなってきて辛かったぜ」

「お前は何者だ?いつからここにいる?」

戦士が真剣な表情でその男に問う。

その男、180センチほどある身長で皆を覗き込むように見る。金髪の長髪で顔のかなり整っている男だ。金色の瞳を持った青年は口を少しずつ開く。

「今の話し合い、つまり、本格的に作戦を考える会議なったところぐらい頃から俺はここにいる」

「なに、お前の存在にここにいる誰も気づかなかっただって?それはおかしいぞ。いくら話し合いに夢中になっていたからと言ってここにいる者たちの探知能力は並外れた力がある筈だ。それを誤魔化して2時間も前もそこにいたなんてあり得ないぞ」

戦士がそういうと皆がどういうする様子が見られた。特に魔族側からその意思が強く伝わってきた。

「お前ら如きが俺の気配を完全に消した状態を視覚による認識以外で気づけるわけないだろ。なんたって俺は勇者に選ばれる筈だった男なんだからな」

「「「はぁぁ??」」」

そこにいた者は全員驚いていた。

「お前は何言ってんだ。選ばれる筈だったっていうのもおかしいぞ?緊急事態ってことでつい先程選別されて勇者になりましたっていうなら分かるが」

戦士は疑うような眼差しで勇者を名乗る男に迫る。

「俺の親は機密組織出身の者でな。勇者の最終的な結末をしていったんだよ。それで、自分の息子が選ばれてしまった。息子に不幸な道を歩ませてはいけないと考えて他の子供を代わりに差し出して影武者を作ったのさ」

「あ、あいつが??」

戦士が絶望するような顔をする。

「そ、そんなことは冗談よ。どこにそんな証拠があるの?まず、あの指し示す光をどうやって誤魔化したって言うの!?」

魔法使いが言葉で喰らいかかる。

「それは機密組織に所属するぐらいの実力を持っていたんだ。隠蔽することは容易にできた。機密組織のことを知っている者はもう気付いたんじゃないのか?」

その場でその組織のことを知っていたのは、王、戦士、僧侶、護衛、今回特別に作られた緊急の特別組織の代表の5人である。この5人の脳裏にいくつかあの殺された勇者が勇者ではなかったかもしれないという心当たりが出てきていた。

「あやつはまず、髪の色が赤かった」

「瞳の色は蒼色」

「属性に光が入っていない」

「性格が今までの勇者と違う」

ボソボソも言葉が出てくる。

「ほらお前らも心当たりがあるじゃねぇか」

「じゃあ、なんであいつは剣を使えたんだ?」

戦士が剣について言及する。

「…多分、あの剣に勇者のみが使用できるという制約はなかったのかもしれませんね」

僧侶が答える。

「な、そんな。伝説の剣とか言われていたのに?」

「言い伝えを思い出してみれば勇者のために造った剣であって他の者が扱えないとは言っていません」

「確かにそうだな」

「それは穴をつかれたわい」

「分かったかよ。俺が本当は勇者に成るべき筈だった存在だよ」

「認めるしかない?」

戦士を含めた、秘密組織の実態を知っている5人が信じるように頭を悩ませる。

「さっきあんたが言っている意味がわからない。じゃあ、どうやったらあんなとんでもない奴が生まれるのよ!」

(((確かに!!)))

「ふっ、可愛い嬢ちゃん言ってくれるね〜。でもな、あれは予想外の出来事だったんだよ。まさか、勇者でもないただの替え玉が魔王を倒すなんて誰も思わないだろ?それはこっちも一緒の思いなんだよ。まるっきり予想だに出来なかったことが起きてこっちは逆に驚いたぐらいだよ。いや、もしかしたら、純粋な勇者ではないから魔王を一度は倒せたのかもしれないな」

「調子のいいことを言って!!あなたたちもこんな奴がポッと出てきて何か言いたいことはないの??」

全員黙っている。すると魔族の一人の悪魔代表の者が口を開いた。

「…もうそこの顔を下に向いている5人は分かっていると思うけど彼の言っていることは真実だよ。僕のスキルで嘘を見抜くスキルがあるが彼の言葉に嘘偽りはないよ。彼の言ったことは全て事実だ」

「え、そんな…あんたたちもさっきから黙ってるのは…」

「俺らが勇者と言っていたあいつが本当の選ばれし勇者でないと確信したからだよ」

戦士が唇を噛みしめながら言った。

ニッ

「その通りだぜ。俺こそが選ばれし天才の勇者だよ。俺が今出てきたのはすり替えられた影武者がいなくなったから俺が勇者としての役目を今更になってだが果たそうかと思って出て来たんだよ!!」

金髪の勇者は高らかに声を上げた。

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