第21話

「俺を中心に作戦を考えよう。俺にはあのヘボ勇者と違って勇者の血が濃く流れている。俺には最強のスキルが備わっている。このスキルを使えばあんな奴もきっと倒せる筈だ」

「…今貼られている障壁は持って3日というところです。分かっていますか?」

魔族の一人が聞く。

「俺のスキルはあの剣のようなチャチなもんじゃねぇ。あんなに長いためなんていらねぇんだよ」

金髪勇者は自身満々に答える。

「…で、そのスキルとやらを教えてくれ」

戦士が呆れたような顔で金髪勇者に尋ねる。

「俺には規格外のスキルが二つ宿っている。まず一つ目は“完全鑑定”。どんなものも俺がスキルを発動してみればそのものの全ての情報を見ることができる。どんなことであろうとな。そして、もう一つが“ゴットホーリーブレイク”」

「ゴットホーリーブレイク?」

その場にいた全員たが首を傾げている中、戦士が代表して聞き返したのだ。

「“ゴットホーリーブレイク”は神の力を受けた光の破壊攻撃だ。どんなものにも干渉することができる最強の攻撃スキルだ」

「何故、お前が神の力を行使する最高位スキルを使える?」

戦士が冷静に問う。

「生まれ持った才能だよ。俺は勇者史上最高の才能を持っているからな。はっはっはっ」

「…なんでこんな奴にそんなすげースキルが備わってんだ?」

戦士が目を金髪勇者から目を背けながらダルそうな表情と声で言った。

皆がそれに同感するように首を縦に振る。

「俺は今までの勇者の誰も持ってなかった最高位スキルを持ってるんだ。俺が勇者史上最強に決まってる!」

自身満々に金髪勇者はそう宣言する。

(ステータスを見た限りじゃ大したことないけどな。間違いなく、あいつならこいつ如き軽くあしらうだろうな。あと、こいつ魔王見たことないだろ?こいつの顔、俺なら魔王に勝てたみたいな顔してるが絶対無理だろ)

戦士は心の中でそんなことを思っていた。

「俺があのダークなんたらとかいう奴に止めを指す!それが作戦だ!俺のスキルにかかれば一発で仕留められるからな、それだけ、ゴットホーリーブレイクは強い」

「すごい自信だけど君如きであいつを倒せるのかい?」

僧侶が作り笑いだとあからさまに分かる笑顔で金髪勇者に聞く。

「ふん、余裕だよ。魔王よりは弱いんだろ?そして、あんなちゃんぽらんの…いや勇者でも何でもない奴で勝てるようなのが魔王だぞ?その魔王より弱いなら楽勝だろ!」

金髪勇者は笑いながら高らかに宣言する。

この場にいた者は満場一致で次のことを思っていた。

(((こいつ、相当のアホだ!なにか言葉をかける気にもならない!)))

その場にいた全員から残念な奴認定をされた金髪勇者。

「…今のところ彼以外に対抗できる戦力もありませんし彼を中心に作戦を立ててみましょう」

「そうだな。ここでウジウジしていても進まない」

ヴァルクリードとゴルドレイイドが順に述べる。

「確かにそうだな」

「そうですね」

「では此奴を中心の作戦を考えようではないか」

戦士と僧侶、王も反応する。

「はっはっはっ、そーでなくちゃ」

少し不安の残る中ダークロード討伐に向けて準備が進んでいく。



場面は移り変わって神界。

「んん?ここはどこだ?」

一人の男がなんとも言葉に表せないような神秘てきな空間で唸りを上げた。

「なんだここ?あたりが真っ白なのに神々しい光を何故か放ってやがる」

その男はキョロキョロと周りを見渡す。

そして、何かを思い出したかのように手を叩いた。

「あ、そういえばそうだった。俺、魔王に殺されたんだったな」

うんうんと頷いている。皆も察しの通り魔王に殺されたあの勇者である。

「俺は殺されたんだよな?意識がある?死んだら天に行くっていう話は本当だったのか?」

勇者は疑問が解けないので、取り敢えず立ち上がり周りを捜索することを決めた。

「死ぬとこんな場所に魂は送られるのか〜。死んだら魂は天に行くとかいうのって誰かのホラかなんかだと思ってたぜ。なんたって魂ってなんだよ?感じだったからな。まさか、本当に死者の魂が行き着く場所があるとな〜」

そんなことを言いながら勇者は歩き始めた。周りの景色を眺めながらただ真っ直ぐ歩く。勇者は何かを感じ取ってそちらの方に歩いて行っているのではなく足が自然に動いている状況だった。

少し歩いたところでだった。

ゴツン

何かが足に当たった。勇者は不思議そうに足元を見下ろす。そこにはなんと衝撃的なものがあった。

「…なんでお前がいるんだ??俺を殺した張本人がここにいるっておかしくねぇか?」

そう、勇者の足元に魔王が転がっていたのだ。

魔王に目覚めているような様子はなく、意識がまだないような状況だった。

「どういうことだ??なんで、やった側がここにいる?」

勇者は魔王がここにいることが不思議で仕方なかった。

一瞬自分は死んでいないのでは?と考えたがそれは論理的にありえないとすぐに自分でその意見を却下した。

「どーしたものか。確かに酒を酌み交わそうって約束はしたけど、それはもっと後のことだと思っていたぜ。まさか、こんか早く叶っちまうとはな」

そんなことを言いながら勇者は魔王が起きるように揺すぶる。

中々起きない。

勇者は思いっきり体を揺さぶる。

「おい!起きろ!魔王いつまでも目をつぶってるんじゃない!」

勇者は必死に呼びかけ起こそうとする。

すると、魔王は目を凋ませる。

「お、やっと起きるか」

「んんんっ」

魔王が寝起きのような曖昧な声を上げながら目を開けた。

「!!!何故、勇者よ、ここにいる!!」

魔王は目覚めると目の前に勇者がいることに驚いた。

「いや、それはこっちのセリフだ。死んだと思ったら変な場所で目覚めてそこら辺探索がてら歩いてたら俺を殺したお前が死んでないはずなのに地下手に転がってんだからよ」

「…ここは天界か??」

「天界??」

「死者の魂の行く末の場所だ」

「なんでお前まともに死んでもねぇのに魂やら死んだら行く場所“天界”やらが分かるんだ?」

「一度、神界に神との戦いで接触したことがあるからな」

「ふーん。お前神と喧嘩したことあるのかよ」

「ああ、我の強さが神々の領域に差し掛かったらしく消されかけた。なんとか神々を宥め生きながらえることに成功した。奴らは確かに強かった。我の全盛期でやっと戦えるレベルだったからな」

「お前、そんなことあったのか」

「伊達に何千年と生きていないわ!」

「で、お前の言うここが天界だとして、そこは死者が行き着く場所なんだろ?なんでお前がいんだよ。俺を殺して全て終わったんじゃないのかよ」

「それが・・・と言うことがあったのだ」

「おい、それ本当かよ?!現世だとそんなことが起きてるのか?」

「うぬ、とんでもない奴が現れた。やつはあの世界を完全に支配する気だ。奴の持つあの負の感情は危険だ」

「…だが、俺たちはもう死んじまった。なす術はない。まず、正確な現世の状況もわからないしな」

「貴様も中々現世という言葉をしっかりと使いこなしているな」

「…そうか?お前は逆に淡々とこわいこと語ってたから俺は怖かったけどな」

「えぇ!!そんな!酷いぞ!」

「へへっ悪い悪い。意外と魔王様がチャーミングな方でつい揶揄いたくなっちまった」

「やはり、お前は予想通りのやつだ」

少し、額にムカとした表情を浮かべながら魔王は勇者に向かって言った。

「まあ、取り敢えずここで座り込んでペッチャックったって仕方ねぇちょっと動くか」

「そうだな。だが、ここは本当に天界か?」

「あぁん?お前が天界だって言ったんだろ?」

「そうだが…何か妙だ」

『あなた達の思う通りですよ。そこは天界ではありません。神界の一部です』

「なんだどこから声が?!」

「この声はあの時の…」

勇者が周りをキョロキョロと見渡している中、魔王は衝撃を受けたような顔で天を見上げている。

『こちらに来なさい』

2人は声に導かれるままに足を進める。2人はどこに向かっているかもわからないまま歩いていると今までいた場所と景色と違うものとなっていった。進んでいくうちに周りの景色が変わり続ける。

勇者が魔王に疑問をぶつける。

「どういう理屈だ?」

「ここが神界ならなにが起きても不思議ではない。我々がこうやって歩いている事すら意味があるかもわからない」

「神界ってどんな場所なんだ?」

「神々と天使が在中する場所だ。神々と天使以外はここに立ち入る事すら許されない」

「…?それはおかしくないか?俺ら神じゃねぇじゃん」

「そうなのだ。何故、我々がここにいることができるのか謎なのだ。確かに、我は一度神界に招かれたことがあるがあれは例外だと思っている」

「つまり、神々が許可したら誰でもここに来れるんじゃないか?」

「!!確かにお主のいう通りだな。だが、ここに来れるという言い方は間違いかも知れん」

「なに?どういうことだ?」

「我々は死したことで神界に召喚されたのかもしれない」

「召喚された?」

そんなふうに2人が話をしていたら強い光が2人の目の前に現れる。

2人が光を避けるために腕を使って目元を隠して、眩しさを堪えようとする。あまりの眩しさに2人は耐えきれず目を瞑った。

光が弱まったかと2人が目を開けるとそこには神殿がならなんでいた。

だが、2人の目には神殿は目に入っていなかった。2人の目に写っていたのは自分たちの目の前に立っている1人の人物だけだった。

『よく来ましたね、お二人をお待ちしておりました』

2人の目の前に立ち淡々と喋る人物は魔王よりも一回りぐらいでかい大きさで白いローブを着ており、背中に四つの白鳥のように白い羽が生えている。それだけでなく、顔立ちは非常に良い上に全身の肌が真っ白なのに体全体から神々しい光が放たれている。

その姿を見た勇者はあまりにも壮大な印象を受け、動きが止まった。

魔王は逆に唖然とした表情だった。

「神よ…何故…」

魔王が小さく口を開いた。

「な、こいつが神??」

勇者は魔王の方へ振り向いて驚く。

「ああ、我が神界で前戦ったあの時と同じ容姿を持っている」

魔王は真っ直ぐ神を眺める。

勇者もそれに倣って神を眺める。

『私は神です。全ての観察者であり監視者でもあります。あなた達がここにいるのには理由があります。今、あなた達が1番知りたがっている状況を私が教えてあげましょう』

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