第14話

「ほぼ全方位から奇襲をかける。敢えて、街に対して。勇者がターゲットであるが、散らして奴らの注意を散漫にさせる。皆にはよく注意しておかなくてはな。勇者以外には一切危害を加えるなと」

「しかし、そうなると我々はただ人族の街をただ徘徊するだけになりますが」

「それでいいのだ。我らの目的は人間に危害を加えたり、人族を支配することではない。あくまで勇者ただ1人を標的にしている。だからこそいいのだ」

「だからこそ?」

「そうだ。まず、ここ最近の人間共は魔族という存在すら見たことがない者が多い。基本的には勇者とその一味と王国の兵士達ぐらいだろう。だからこそ、まずは我々の存在を認知してもらわねばならない」

「何故そんなことを?」

「我々はもう既に人族から忘れ去られている存在だろう。兵士になってやっと魔物と会う機会があるのだから。昔のようにこっちから盛んに攻撃を仕掛けることはなくなった。そうなれば、必然的に攻撃を受けていた側に安堵と不安の2つが過ぎる。最初はそうだったかもしれない。しかし、時が経つにつれ脅威という存在が薄くなっていく。魔族と人族との隔裏での争いが行われなくなってからお互いに脅威を感じなくなった。人々の中にあった不安は無くなっていき心に余裕ができる。心の余裕からは争いではなく、平和と生活が生まれる。争いの中に平和と生活はない。戦うことと勝つことのみが争いの中には詰まっている。それ以外の意思はなく、非人道的に動いているだけの骸に生物はなってしまう。生活ができるようになるとそれを維持しようとする。維持することに成功するとさらに自分たちの生活を良くしようという欲が出る。心に余裕がある時、又は一切余裕がない生物は皆欲が生まれる。欲によって自らを壊してしまうこともあるが、逆にそれが原動力となり、生活を良くする動きをする。人々は一度欲を手にしまうと止まらない。それは生活があり、平和という証拠でもある。生物全てはその時に無いものを求める。過去手に入れられなかったものを手にしているのにもかかわらず。人は欲に忠実で塗れている。それは魔族もそうである。だが、我はこのままの状況ではまずいと思い魔族に対して改革を行った。まずは魔族を全てまとめ上げた。魔族に教養を与え、意識を変えた。魔族は良くも悪くも素直だ。それが功をそうしたのか邪な事を考える者も行動する者もいなくなった。欲に溺れる事なく、我が理想の国を作った。魔族は真なる平和を手に入れた」

「それがどう繋がる…」

家臣の言葉途中で魔王が喋りだす。

「手本を見せなくてはならない。本当ではあまりにもお御がましい行為だ。だが、誰かが行動しなければならない。世界を統一し、皆が平等で幸せな世界を作るのが我が最終目標。まあ、今の状態だと叶う事なく終わると見込んでおるがな。まあ、最終的にまとめると理由は見せるつけるためだ」

(ここまでかなり長かったな)

と家臣は心の中で密かに思っていた。

「敢えて、街を歩かせて…」

「ですが、魔王様確実に人族側は魔族に対して武力を行使して自分達の街を守ろうとすると思いますが」

「お主も分かっておろう。勇者とその取り巻きの戦士達以外は大したことはない。悪魔族のスキルや魔法で強化すればダメージを負うことはない。まず、予め人族からの攻撃から身を守る術を身につけさせているのだから問題はなかろう」

「魔王様…非常に申し上げにくいのですが、それはひょっとして油断という奴なのでは…」

「ふっ、我がその程度のことを考えていないとでも思ったか?その質問は想定の範囲以内だ。あの勇者が兵達や街に何か仕掛けているかもしれないという可能性は捨てきれない。しかし、良く考えてみれば人間たちの力は現在、魔族には遠く及ばない。勇者と勇者の武器“命聖光剣”ぐらいだろう、実力的に見て厄介なのは。後の者は魔族と張り合える程の力を持ち合わせてはいない。しかし、それは魔族の中でもより戦闘に特化している者の話だ。だからこそ、この作戦に意味がある。敢えて、街を歩くことでそちらに意識を向けさせるということは他のところに目がいかないということでもある。もし、勇者が事前に魔族に攻め入れられるという可能性に到達していなかった場合間違いなく、奇襲直後は街にいる魔族の方に目がいくだろう。正直言ってそれだけで十分なほどに時間を稼いでいる。やつはおそらく考えるだろう。様々な可能性を奴も人の子だ。人知を超えはしない。勇者とてただの人間だ。ただ剣が使えるだけのな。少しのラグが有れば付け入る隙がでる。そこを我はつかせてもらう。やつは間違いなく外の様子を見るために外に出てくるか、窓から身を乗り出して街をみるはずだ」

「魔王様の言う通り、抜かりはないと思います」

不安そうな顔を家臣が浮かべる。

「貴様の気持ちはわかる。しかし、全ての可能性を気にしていたらキリが無い。ある程度は打算で動かなくてならない。計画上と人族の力を加味してもほぼ問題ない。こちらは無傷で作戦を終わらせることができるだろう。注意すべきなのは勇者だけなのだ。勇者を早めにマークして街から連れされればその時点で計画はほとんど成功したに等しい」

「・・・」

「街に我々が進行した際に勇者を捕獲し、ある地点に連れて行く役目を担っている者たちはステルスのスキルを使い奴らの国侵攻する。その後は我を含めたその役目の者たちで勇者の元にいき国から誘拐する。そして、予定の地点に勇者と我を誘い込む。そこには既に待機している何種類物の種族がいる。その者たちによって創られた障壁ないに我と勇者の2人だけにして隔離する。これが大まかな流れだな?」

「はい、ですが勇者が口で言うように素直に連れ去られますかね」

「奴はきっとついて来る。国民達のことをちらつかせればこっちの言葉がハッタリだと分かっていても我々の言うことに従うしかないだろう。奴は先刻に世界の真実を知ってしまったのだからな」

「少し弱い部分ではありませんか?あの勇者の評価は変わりません。今までのような律儀で優しく、勇敢な正義感の強い勇者とは思えません」

「ふっ、貴様もまだまだだな。我のそばにもう何年もいると言うのに鈍い奴だな。何故我だけを討伐したか分かるか?」

「??それが勇者にとって1番効率が良かったからではないのですか?魔王様だけを倒すことを焦点に当てれば他の者の相手をする必要もないですから幾らかは楽だと思います。正義感からやった行動ではないようにも私には映ります。たしかに、可能性はありますが魔王様のように断定はできません。あの勇者が逃げる可能性を考えてしまいます」

「奴が逃げる可能性はほぼゼロだ。確かに、評価通りのタダのくそ野郎という可能性も捨て切れないがそんな奴は殺す価値もない。敢えて見つけてまで殺す気もない。だが、奴は絶対そんな白状な奴ではない。確かに今までの行動を見てみるととてもまともな人間だと思うが、実はそうではない。奴はただ自分がやり抜くと決めたことはどんな手段を使ったとしてもやり遂げる覚悟があるのだ。意外と周りの評価を気にするような部分があるがそう言ったこととは別に自分の意思を曲げない心の強さがある。それがなければ我がやられるわけがない。奴は魔族から圧倒的な反感を買うのを覚悟して我を討伐する算段をつけたはずだ」

「さっきから魔王様は何をおっしゃっておられるのですか?!我々はこれから勇者を討伐しに行くのですよ!復讐に行くのですよ!まるで勇者が自分と分かり合える人間で戦う必要などないと言っておられるような!」

「お主のいう通りだ。我は今あの勇者を討伐する必要はないと考えている。だが、そういうわけにはいかない。我が頭の中で矛盾が過ぎっている。だが、行動にもう既に移しているのだ。さっきも言っただろう。もう後戻り出来ないところまで来ていると。我は必ず勇者を討つ。せめてもの我が良心で奴を葬らせてもらう」

魔王は視線を落とす。

(今言っていることが無茶苦茶なのは分かる。だが、勇者よ許せ。これは我の過ちだ。我が天に言っとき貴様には何回だろうと頭を下げよう。いや、勇者全てに頭を下げよう。もう止まれないのだ。今ある汚職を晴らすためだ。現代の勇者よ、犠牲となってくれ)

(・・・揺れている。この状況でいいのか?)

「まあ、話を進めるとするか」

「はい、そうですね」

「みな役割ごとの行動をして、街に入った者は我と我のサポート意外は敢えて街を徘徊する。その徘徊で、できる一瞬の隙をついて勇者のいる元に向かう。勇者をずっと監視しているあやつからどこにいるか事前に連絡をもらっておけば特に問題はないだろう。そこに直で向かい。勇者の目の前でステルス化を解き、我らは姿を表す。そこで間違いなく勇者は驚くだろう。どんなに冷静な奴でも死者が蘇る可能性は考えてはいまい。考えていたとしてもコンマ1秒ぐらいは奴も同様するだろう。そこで我らは魔法とスキルを使い勇者をその場から連れ去り空間移動の魔法を使い奴を例の場所に運ぶ。まあ、運ぶというほどの距離でもないか。人族の王国から距離僅か1キロしか離れていない場所に我らが障壁を張っておるとは思ってもいないだろう。ショーには観客が必要だからな。敢えて、危険だが近場を選ばせてもらった。壁役の者達にはかなりの負担をかけているのは分かっているが奴らが我らの戦いを見れることに意味がある」

「魔王様がいきなり『障壁は事前に発動できる状態にしておいて、現地で即席で障壁を張ってもらう』という無茶をおっしゃった時にはこちらも驚きました。障壁を運ぶなんて発想もまず誰もしない上に、わざわざ人族の国の近くに障壁を張ろうとしていたなんて予想外にも程があります。私達はてっきりこちらに勇者をおびき寄せるだけだと思っていましたから。まさか、ここまで高度な要求されるとは誰も思っていませんでしたよ」

「今でも皆に謝りたいし、やめさせたい。しかし、これそれも勇者の為、魔族の為仕方のなき事だ」

「それでは、次に写りましょうか」

「そうだな。勇者をさらってワープさせるところまでやっていたな。この続きだな」

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