第15話
「勇者を予定の地に連れてきたとしても着いた直後すぐに障壁を張らんとわざわざそこまで誘導した意味がないからな。その後は勇者については我に全て任せればいいだけ。元々そういう戦いだったのだからな」
家臣はコクンと頷いた。
「外のことは族長にあらかたは任せているし、基本的には大丈夫だろう。我と勇者の戦いに邪魔が入らないようにしろとも言っておるしある程度は大丈夫か。注意点も既に挙げておいてある。心配はいらんな。まず、人族で注意すべき人物はただ1人勇者のみだからの。特に問題はないか」
(何か引っかかる気もするが気の所為か?)
「魔王様、肝心な勇者を倒す際の算段の確認がされていません」
「おぉ、そうだな。奴と我を障壁に閉じ込めた後、少し会話を交わそうかと思う」
「何故そんなことを?」
「奴も人の子だ。死ぬ前に何かあるだろう。そして、少しばかし聞きたいことがある。その話をしようと思う」
「聞きたいこととは?」
「あやつが我を葬った時の心境と何故我だけを討伐しようとしたのか。何故、その後人族は魔族を殲滅するような動きをしたのか。この二つを聞きたい。勇者の行動と人族との行動に少し一貫性がないように見えたのでな」
「魔王様、何故そんなことを思うのですか?人族の行動は真っ当なことではありませんか?確かに、先程の報告の内容のことを考えるとおかしいとも取れますが当たり前のことではないでしょうか。人族は元々魔族を完全なる悪と定め、殲滅するまでが全てだと思っています。魔王が討伐された今後残すことは魔族を殲滅することだけ、国民の意思や意向はそちらにあると思います。なら、当然の動きなのではないでしょうか?」
「我もお主の意見の通りだと思っている。だが、何故勇者が動かなかったのか気になる。まあ、戦いの際に分かることとなるだろう。…と信じたい。分かることになって欲しいな」
魔王が天を見上げる。
きっと魔王に思うところがあったのだろうがそれは魔王の心のうちのみにある。誰も分からない。
「あまり考える過ぎるのもあれだな」
「その通りです。勇者を意識しすぎです。確かに勇者は要注意人物です。今回のターゲットでもありますし、しかし、そこばかりに囚われても仕方ありません。前に進めなくなってしまいます」
「確かに考えすぎなのかもしれない。勇者に対して過剰に可能性を考えているのは分かっている。だが、何か嫌な予感がするのだ。何か嫌な予感が…これが勇者に関係しているのか、それとも別な要因が関係するのか。それが気がかりでな。もしこの予感が勇者に関係することだけならいいのだが…もしこれが我、我ら魔族全域に及ぶものだとしたら…」
「魔王様最近コン詰めすぎていてお疲れなのですよ。少し休ませては。嫌な予感は魔王様のビジョンとして映ったわけではないのですから。きっと大丈夫です」
「うぬ、そういうことにするか」
(何かが引っかかる。なんなのだ?我は何に怯えている?過去か?神か?勇者か?それとも可能性?このモヤモヤの正体はなんなのだ??)
「魔王様、仕上げを」
「…うぬ、そうだな。我が勇者と一騎討ちする。その際、我は我が高位スキルで勇者の剣に封印を施す。それによって奴は無力となる。そこをタコ殴りしてやる。最後、勇者を殺した後に剣も我がスキルで消滅させよう。おっと、奴と戦う前にやらなければならないことを忘れていたな」
「あ、そうでした!」
「我がスキルで人族の武器全てを破壊しなければならないのだった。それをやって初めて作戦は完了するのだったな。奴らに邪魔されたらたまったものじゃない」
「我々も出来る限りのご協力をします」
家臣は深々と頭を下げる。
「まあ、勇者を倒し後は正直に言ってもどうでもいいから適当でいいだろう。まあ、我が王と言葉を交わす機会を設けるように接触はしなければならないか。我らが自分たちの領地に帰る時注意が必要だな。人族の恨みを買うんだ、攻撃されるだろうな。まあ、デモルスピヤ1人いれば全て対処できるか。どうせ我も余裕があるだろうからある程度はどうにかなるだろう。まあ、あの歴代最強の勇者が圧倒的な力でやられたところを見て、我々に手出しする奴がいるとも思えないが奴らは愚かでよく深い生物だからな。その上、勝利欲求が高い。何をしでかすか分からない。なるべく我1人で対処したいな。まあ、戦いが終わってすぐに我と悪魔族の者たちでバリアを組めば問題はないだろう。バリアを破ることができる者など勇者ぐらいなのだからな。何人か注意すべき戦闘力持つはいるが特に変わったスキルを持っているわけでもない。かなり高い確率で問題はないだろう」
「それではここまでで確認作業は終わりということでしょうか?」
「作戦の流れはここまでで終わりだ。しかし、この作戦に於いて1番大切なことがある」
「そ、それは??」
「この作戦の情報が人族に漏洩していないかどうかという点だ。我が今回ある程度の可能性を排除する覚悟もあるし切り捨ててもいいと考えているがこれだけは切り捨てられないことだ」
「…情報の漏洩」
「情報が漏洩していれば奴らにこの作戦の全てが筒抜けということになる。そうなれば確実に勇者が対策を立ててくるはずだ。そうなれば確実に作戦は失敗する」
「流石に同族を裏切るなど…」
「それは分からんぞ?魔族の一部の実力者達が人族に寝返ってる可能性もある。今、偵察に行かせている者達がそうかもしれぬ」
「何を、言っておるのですか??!!彼らは魔王様、魔族全てのためにわざわざ危険の災禍に身を於いている者達ですよ!」
「…可能性の話だ。誰かにその可能性があるのは確かだ。お主もそうだ。裏切り者の可能性はあると我は疑っている」
「なっ…」
「逆に1番怪しくなさそうな者ほど怪しいのではないかと睨んでるくらいだ」
(とんでもない慎重さだ)
「我も本当はこんなこと詮索したくはない。全員を信じたい。しかし、わからない。その可能性だけはどんなことがあっても捨てきれない。もし、我の仮説が当たった場合、大きな被害が出る可能性がある。それだけはまずい」
「ですが、その可能性は低いと思います。先程の報告の内容を見る限りだと奴らは我々に目線を向けてる様子は全くありませんで…あ!」
「お主も気づいたか。そうなのじゃ。もしかしたら、奴らの情報は正しくないもしくは情報が足りない可能性がある。今考えれば人族の様子の重大な報告なのに何故人族の歴史の話だけを報告してきたのだ?という素朴な疑問が浮かんでくる。もっと勇者の動向について報告があってもいいではないかと。しかし、勇者に動きが少ないのかもしれない。それを考えると裏切り者とは入れない。そして、もう一つの可能性は裏切り者がいなくとも勇者はこちらの情報を入手して、我らの監視の目を盗んで準備しているかもしれないという可能性だ。できれば、何もないといいのだがな。もし、この可能性が当たることが我の嫌な予感という奴ならいいのだが、何か違う気がするのが不確かなのだ」
(ものすごい考えている…これはやばいな)
「魔王様、考えてるだけじゃ何も始まりません。動きましょう。今のことも敢えて魔族全員に伝えておくべきでしょう」
「…お主のいう通りだな。我は最初に言った。もう後戻りはできないと。全員にテレパシーを使い明日の正午に作戦の実行をすることと内容を伝達するか」
「はい。魔王様、お勤めがんがってくださいませ」
「うむ…
〔皆の者!!話を聞け!!ついに作戦を実行する時が来た!明日の正午に作戦を仕掛ける!!作戦の内容についても確認しておこう!〕
魔王はテレパシーを使い魔族領域全体に発信した。
それぞれが反応している。
「ついにこの時が!!」
「準備を怠らないように」
「作戦の確認を」
「あの勇者に天罰を与えられる時が」
各々、様々な思いを胸に秘めて、作戦に少しずつ移っていく。
魔王はテレパシーとビジョンの力を応用して作戦内容を文章にまとめ公開した。口でも再度説明をした。
完璧な準備が進んでいく。
時は刻み、作戦実行に移される正午まで残り数分のところまで来ていた。
「魔王様体調の方は?」
「我に問題はない。復活してから力がかなり弱体化したがだいぶ力が戻ってきた。これならいけるだろう。確かにやられる前に比べればまだまだ弱い。あの時の6割ぐらいだろう。だが、それだけあれば十分。むしろ、下手にこれ以上時間を経たせると勇者が何かしてくるかもしれない。我の力も十分なところまで来たのだ。早めに作戦を実行するべきだろうな」
「ふふ、今の口が達者のようにしっかりと実力を出せれば勇者など余裕ですよ」
家臣が失笑しながら言った。
「貴様、我を少し馬鹿にしていないか?」
魔王が少し露骨に不機嫌そうな顔をしながら聞く。
「そ、そんなことはござません!」
「そうか?ならいいのだが。まあ、完全に力をコントロールできるようになった我に敵などいない。力をひれ伏せるだけでなく、圧倒的な数のスキルの多様さと強力な闇魔法だけで誰だろうと葬れる…」
魔王はフフフと小さく笑う。
(決戦前…)
「ん?どうした?」
睨むような鋭い目つきで覗き込んでいた家臣に魔王が問いかける。
「いえ、何もありません。ついにこの時が来たんだなと思いまして」
「ふ、確かにそうだの。お主が我を発見したところからこの戦いは始まってるからな。正直初めてお主を見た時誰だかわからなかったぐらいだからな。今でもこんな奴昔いたか覚えていないがな。一応は魔族全ての形と名前ぐらいは覚えているつもりだったのだが」
「私目のことなどどうでもいいこと。魔王様は無駄なことは考える必要はありません」
「ふっ、中々頼もしいことを貴様はいつも言う」
そんな会話をしてる時だった。
1人のオークが走ってきた。
「魔王様!!偵察部隊から連絡入りました!勇者はいつも通りの場所にいると!そして、王国の状態は我らの作戦に支障が出るような状況ではないそうです!」
「よし、作戦を実行する」
魔王は玉座から立ち上がる。その時の魔王の目は冷たい目をしていた。
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