第16話

玉座から立ち上がった魔王は今回の作戦のためだけに作ったデーモンの広場を見渡した。

魔王を含めた全ての魔族はかなり広い闘技場のような場所にいた。魔王のみ玉座が用意されている。各々の準備をしているような様子だ。だが、魔王が大きな声を放つ。

「皆の者!!よく聞け!!」

魔王は高らかに声を上げる。その姿は邪悪の権化、魔王としか言いようがない。

魔王が声を上げる前は少しざわついていた広場だったがさっきの一声で静まり返った。

「ついに作戦を実行する時が来た!!最後の情報が入ったのだ!内容は作戦に支障なしというものだ!」

「「「うおーーー」」」

広場から賛同の怒号が嵐のように飛び交う。

「今正午より作戦を実行に移す!!!」

魔王は高らかに宣言した。

「「「おーーーー」」」

歓喜と闘争的な返事が返ってくる。

「行く!!」

この一言を宣言に魔族は勇者討伐作戦を開始した。


その頃の勇者は言うといつも通りであった。

ハーレム生活を堪能していた。

勇者は一応は楽しそうにしているが、何か優れないような表情をしていた。

「なんか勇者の様子が変な気がするのは気の所為か?」

戦士が隣にいた僧侶に問いかける。

「確かにそうだね。何かおかしい」

僧侶も戦士の言葉に同調するように答えた。

「え、あれが?何が違うの?え、何、男達の友情的な何か?」

魔法使いが2人の会話を聞いて首を突っ込む。

「まあ、そんなところだろ。なあ?」

「ええ、そんなところです。我々は幼き頃からずっと一緒でしたから」

「ふーん。小さい頃の勇者はどんなだったの?」

「今とあまり変わりません」

「はぁ?小さい頃の話よ?」

「ああ、本当に変わんないだよ。可愛い女の子がいるとナンパしてた。ちっちぇ頃からな」

「え?勇者ってそう言うことに疎いじゃなかったっけ?」

「あいつだけは例外なんだよ」

「うわー。マジかー」

「でも、彼の信念は昔から変わらない」

「何それ?」

「自分の思う正義と自由を貫くことです」

「はぁ?何言ってるの?あいつにそう言うのあるようには見えないけど。頭がちょっと切れるぐらいしかいいところが見つからないんだけど」

「おいおい、お前さすがにそれは言い過ぎだぞ。んー勇者に止められてたけど、そろそろあのこと話すべきかもな」

「確かにそろそろいいかもしれません」

「はぁ?あんた達なんの話してるのよ」

「お前ら美少女魔女軍団3人の話だよ。実は…」

「キャーーーー」

「うわ〜〜〜」

外から悲鳴がする。

「ん?どうしたんだ」

勇者はその声に反応して立ち上がりハーレム軍団から抜け出す。そして、戦士と僧侶の2人のもとに駆け寄る。

「お前らなんだ今の悲鳴は?」

「俺らにもわからねぇ」

「取り敢えず外を見てみましょう」

「あんたらのんきにし過ぎよ!早く来なさい!とんでもないことになってるわよ!」

先に窓の方に言って様子見ていた魔法使いが声を上げた。魔法使いの横にいた一緒に外の状況を見ていた2人が驚愕したような顔をしていた。

(この国で何が起きている?)

そう、勇者はこの思考した時点で完全にハマっていた。

勇者達は急いで窓に駆ける。

そして、身を乗り出して窓の外の様子を見る。

「な、何故街の至る所に魔族が徘徊している?!どう言う状況だ?!」

勇者が目を見開いて驚いている。

「はっ」

勇者は何かに気付いたかのように窓辺にかけてある鎧を着る。

「いざと言う時のために備えておこう」

勇者が鎧を装備すると、

「お前ら街の様子を見に行くぞ」

「ああ」

「うん」

戦士と僧侶は勇者の言葉に反応して頷く。

「ちょっと待ってよ私達も…」

「お前らは残っていろ。この城を守るために」

そう言って勇者は城から出ようと準備する。

ふと勇者は街の様子が気になりもう一度窓の方に向かう。そして、窓の外を見たその時だった。

シュッ

「なっっ??!!」

勇者が驚きの声を上げた。

勇者が驚いたことに反応して他の者達も窓の方を見る。するとそこにはある人物が窓の外で宙に浮いていたのだ。しかも、その者にそこにいた魔王討伐メンバーは見覚えがあった。

禍々しいオーラを放ちながら腕を組んでいる強面の巨大な人間ならざる者がそこにはいた。

「なんで、お前がここにいる?」

勇者が宙に浮いている人物に声を震わせながら問いかける。

「ふっ」

その者は鼻で笑い返した。

「俺は魔王貴様がなんでまだ生きているか聞いてるんだよーー!!」

勇者は声を張り上げて宙に浮く魔王に言葉を投げかける。

「貴様如きでは我は完全に仕留めることなどはできないのだよ。フフフ」

魔王が不敵に笑った瞬間そこにいた筈の魔王と勇者が突然姿を消す。

2人が突然消えたことにその場にいた全員が驚いた。

「な、どこに行った?」

「勇者まで消えた?」

「どこかに運ばれたと見るべきかもしれない」

「なっ…それは困ったことになったぞ。奴がいくら命聖光剣を持っているからと言って真正面からやりやって勝てるような相手じゃない」

国中が混乱となる中で皆の希望である勇者が行方不明となる事態が発生する。

更なる混乱が発生。国は完全にパニック状態となり、全てが機能しないところまで来ていた。

そんな、全国民が不安の最中国民一人一人の目の前にある映像が映し出される。

「なにこれ?」

「誰の仕業?」

「映ってるの誰?」

不安、混乱の中で突如目の前に映像が映し出され、皆対応できずにいた。

その映像にはある2人の人物が映っていた。

その2人とは魔王と勇者である。

皆は勇者が映っていることに気づく。

「勇者様?」

「何故勇者様が映っているの?」

人々には疑問しかなかった。

「勇者様と一緒に映ってるのは誰だ?」

「魔族?が何故勇者様と?」

皆が見たこともない生物を見て頭を悩めせている。

ジジジ

「人族の者たちよ。我が声が聞こえているか?」

魔王が映像越しから話し始める。

「なんだこいつ?」

当たり前の疑問である。魔王は言葉を続ける。

「我のことを知る者は人族の中では数名と言っところか」

魔王が話ているのを見て指を口に突っ込みながらガタガタと体を震わせて怯えていたものが1人いた。

それは人族の王である。

(な、何故奴が??勇者に殺されたんじゃ…やつの言葉が偽りだったと申すのか??)

「話をよく聞け。我は魔族の頂点であり、王、魔王である」

魔王は低いトーンで堂々と宣言する。

「ま、魔王??」

「こいつが??」

「待てよどう言うことだよ??」

「魔王って勇者様にやられたはずじゃ…」

「やられていなかった?」

「ペテンの勇者?」

国民は口々に意見を述べている。

「貴様らが混乱するのも無理はない。確かに我は一度勇者の手によって命を奪われた。しかし、我の最強のパッシブスキルによって再びこの世に生を受けたのだ」

魔王が高らかに口を開いた。

その話を近くで聞いていた勇者は驚愕で顔が引きつっていた。

「はぁぁ?生き返っただと?生物の倫理に反した力を使うことができるのか?」

勇者は少し掠れたような声でそう言った。

そして、また魔王は話し始める。

「我は勇者に復讐するためにここに来た。これから、一方的な殺戮のショーをお見せしよう!貴様らの頭の中に我が力でどこでその殺戮のショーが行われるのか送っておく。皆見にくるが良い。勇者の最後を。一応この映像は引き続き流しておく。しっかりと国民全てが勇者という希望の最期を見届けるのだな。はっはっはっ、はっはっはっ」

その映像が終わると皆の頭の中に勇者と魔王がいる位置の情報が送られた。

皆に少しの頭痛が走る。

そして、皆、2人がいる場所が案外近くだと気づきそちらの方に移動する。

魔族は街を徘徊しているが危害を加えようとする様子は一切なく、人間たちも一応は今のところ安心?なのではないのかと行動をした。

そうやって、国民が行動開始している中、誰よりも早く行動し現地にもう少しで着きそうな者たちがいた。勇者一行と王とその護衛と兵士何人かだ。

(待ってろよ)

そんなことを思いながら戦士を筆頭に戦いの地に向かう。


その一方で勇者の様子はというと、状況がいまいち飲み込めない、いや、かなり動揺しているような様子だった。

(ここはどこだ?これから殺戮のショーが始まるだと??そんなものに付き合ってられるか)

勇者は魔王が映像の方に気が入ってることをいいことに隙を狙って駆け出した。

だが、少ししたら頭をぶつけた。

「痛てぇ。な、なに?」

頭を抱え込む勇者。

「無駄だ。逃げることはできん。我と貴様の2人を閉じ込める形でドーム型の障壁を造った。貴様は逃れる術はない」

「く、くそが。なんでこんなことに」

「そうだな、やり合う前に少し話でもするか」

「どうやってこんなところに…そして、目的はなんだ??」

「貴様は我と一緒に我ら魔族がマーキングしたこの場所にテレポートさせられたのだ。テレポート直後に障壁は張らせてもらった。貴様の退路を断つためにな」

「…かなり用心深いな。どういう気の回し方だ?」

「それもこれも全ては確実に貴様を葬るためだ」

「俺を葬るため?へっ、こんなに人員を割いてまですることかよ」

勇者は少し笑う。

その後、周りを見渡す。

障壁の周りには大量の魔族がいる。

「ここで国民までわざわざ集めて俺を公開処刑しよってか」

「その通りだ。我の受けた屈辱は今まここで我が納得する形で返させてもらう」

(こんな化け物に敵うはずがないだろ。だから、あんな手を使ったんだ)

「貴様は気にならないか、何故我が生きているのか?」

「とても気になるよ。俺が完全に木っ端微塵にしたはずなのにまたここにいるんだからな。お前本物かよ?」

「それはお主が1番わかっておるのではないか?」

「ぐっっ」

「我は先程行った通り一度だけだが生き返ることができるのだ。2度の生を与えられるし生物を超越した存在、それが我魔王なのだ。貴様はその尊厳を地に陥れるような所業をしてくれた」

「へっ、したことかよ。テメェの事情は俺には関係ねぇ」

「果たしてそうかな?貴様は今この状況を見てそんなことが言えるのか?」

(くそったれが!)

勇者は魔王を睨みつける。

「今日ここで我が貴様に劣っていることなど一つもないと証明して見せよう」

「・・・」

「おっと客人が大分到着しようとしている。そろそろ始めるか」

「客人??」

魔王なら言葉に反応して魔王が遠くを眺めている方向を勇者も向く。

そこには戦士たちを先頭に大勢の国民がこちらに向かってきている。

(待っててくれ。今すぐ助け出すからな)

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