第13話

「なんだと!!!今申した事は本当か??!」 

「はい!」

魔王は驚いた顔をしながら魔王の間に入ってきた者を見つめた。

そして、魔王は一旦息を吸い吐いた。

興奮が落ち着いたのか、魔王が口を開く。

「で、どのような内容だ?」

ゴクッ

報告者は一旦唾を飲み込む。

そして、喋り出した。

「まずは偵察隊の状況から話をさせてもらいます。偵察隊は人間共にバレる事なく潜入調査を実行し続けられている状況にあるとのことです。捕まった何人かの者も無事に救出することに成功したと報告も入っております」

「おーー、それは良かった。今回の作戦に至って気掛かりだった人質をしっかりと取り返すとは、我も安心した」

「はい。とても魔族側にとって喜ばしいニュースです。そして、ステルスを用いて調査を行なっている部隊“ST”が我らの計画を動かしかねないとんでもない事実を手に入れました」

「計画を動かしかねないだと?」

「はい、彼らは自分達の隠密に於いての最大の武器であるステルススキルと気配を断つスキルの二つを同時に発動することによって人間に気づかれる事なく人族の住む街に融け込み存在がバレる事なく情報を収集してきました」

「それは知っておる。その後だ」

「街の様々な場所に各隊員は配置されてました。もちろん、王のいる王の間にもです」

「それがどうしたというのだ?」

「ここからが大事な話です。つい先程、勇者が王の間に現れ、勇者と王が接触したと報告が入りました」

「な、なに?…その後、どうなったと入っている?」

「…今回の魔王様への報告はここからが本番です。勇者と王が接触した後、実は

・・・

という、かなり重要なことについて話をしておりました。話が終わると勇者はもうその場に興味がないようですぐに城を去り、自分の城に帰りました」

魔王は部下から先ほどまであった勇者と王の会話、つまり、人族の歴史を聞いて驚いていた。

目を見開いて口を少し開け、驚きのあまり声が出ない様子だった。

「今言ったことは事実なのか?」

「はい、間違いのない事実です。嘘を見抜くスキルを持つ者がその場で聞いていた情報なので間違いありません」

「そうか…」

魔王は目を落とし、下を向く。

(チッ、なんでよりにもよってこのタイミングで?!ちょうど作戦を実行する直前という間の悪い時に、魔王の心を動かすような情報がはいってくる??これで魔王の心が動いて作戦が中止したらどうするんだ)

???

誰かの心の中でも声のようだが?

「・・・」

無言の魔王。

それを見つめる家臣と報告者。

沈黙が続く。

しかし、その沈黙は魔王によって破られた。

「…作戦は予定通り決行する」

「「!!!」」

魔王は顔を上げて玉座から立ち上がり論を述べる。

「今更になって計画の実行を止めることはできん。今まで散々と魔族を総動員して勇者を討伐するために動いてきたのだ。我のわがままだけで魔族全てを動かしてはならない。一人一人事情があるのにもかかわらず我がわがままに付き合ってくれたのだ。ここまで引き下がるわけにはいかない。ここで引き下がってしまえば魔王としての威厳も下がる。魔王としての尊厳も。今回の件で様々な者に迷惑をかけてきた。その者たちに顔向けができんことになってしまう。それではダメなのだ。これからも平和な世界を保つためには。人族達への見せしめの意味も込めて今回我は計画の実行を中止しない」

「「…はっ」」

2人は下を向きながら返事をした。

「我のわがままだけで国を動かしてはならない。その責任は果たそうではないか。ちょうどいい機会だ。勇者と続く因縁とも決着をつけようではないか」

拳を強く握りながら魔王は冷静な話し方で言った。

「それでは魔王様作戦の確認を」

「ああ、そうだな」

魔王は再び玉座に座り直して話始めた。

「まあ、既に魔族全員に話あるが確認として順を追って確認しておこうか。ん、そうだな、お主は新たな情報が入ってこないか持ち場に戻っておれ」

「はっ。失礼いたします」

報告者は魔王に命を出されたということでその場から去っていた。

「…言ったか。それでは話の続きをするとしようか」

「はい」

家臣が返事をする。

「前にも話した通りだ。まずは気配を断つスキルを使い魔族全員の気配を断つ。少し気味が悪い状況ができるがそれでも気配を断つメリットはある。直前まで監視の目から逃れるからな」

「そうですね。ですが、今考えると大丈夫なんでしょうか?魔族全ての気配が無くなるというのは。完全に怪しい行動をしているとしか言いようがないように見えますが」

「それがいいのだ。そうやって奴らの集中力を少しでも削りストレスを与えるのだ。どうせ、魔族全員で責めることになれば遅かれ早かれ奴らも気付くはずだ。なら相手の集中をいざという時のために削っておいてもそうはなかろう?」

「確かにおっしゃる通りです!流石魔王様!」

「ふふ、これでも我は魔王だからな。確かにかなり弱体化しているが勇者如き簡単に葬れるぐらいの力は今でも持ち合わせておる」

「一度はやられはしましたが今の魔王様なら大丈夫ですね!」

「そういう傷に追い討ちかけるようなこと言うのはやめとこうか、作戦に支障をきたすかもしれない…これでもまだ勇者に不意を突かれたとはいえ殺されたことショックだったんだから」

この発言を聞いついた時の家臣の表情。

(…乙女か!!)

というツッコミ一択だった。

「まあ、勇者の国に攻め込むと言ってもわざわざ一箇所に魔族全てが集まって行くわけではないからの。各々の活動拠点からバラバラに向かうのだ。奴らへ精神的なダメージは少なからず与えることができるかもしれんな」

「かもしれない?」

「万が一、人族が我々の行動に気づかなければ奴らにストレス攻撃を与えられていないことになる。気づいていないのなら気づいていなでいいのだが、もしかしたらを考えると少し怖い」

「どうしてですか?奇襲をしっかり決めれるのですから計画としては一切問題が見えないように見えますが。バレたら相手にプレッシャーをかけれる、バレなければきっちり奇襲を仕掛けることができる。どちらにしてもおいしい選択だと私は思いますが」

「我も基本はそう考えている。生物というのは身構えていなければほとんどのことは対処できない。いくら経験や知恵があろうと行動に移せるとは限らない。生物というものは準備をして初めて自身の力を発揮する」

「なら、いいのでは?」

「…問題は勇者だ。単純に奇襲が成功した場合、間違いなく人族は対応できないだろう。そこまではうまく行くかもしれん。だが、あの勇者はどうだろうか?元々、目的は勇者の討伐。後々の為に勇者の集中を少しでも削っておくことが計画を成功させることにつながるとも考えている」

「今更になった計画を練り直すおつもりですか?!」

「いや、その気はない。一応完璧な計画だと思っている。まず、敢えてステルスのスキルを使わないぐらいなのだから完璧に近い計画であることに違いはないが…」

「勇者の可能性を排除しきれないと?」

「ああ、何をしでかすかわからん。どうにか奴の行動を抑えたい。もしくは誘導したい」

「魔王様は勇者のことを買いかぶりすぎていますよ。不意をつけるように準備したおかげで魔王様を討伐できただけなのですから。魔王様も常々おっしゃっているではないですか。『奴など敵ではない』と。それに加えて、魔王様がやられてから勇者を徹底的に観察し、ある程度勇者がどのような人物なのかということも分かっているではないですか。観察した結果魔族が出した結論は勇者は我々が思うような人物ではなく、それ程大したことはないという評価ではありませんか」

「確かに、魔族の相違としての評価は今までの他の勇者に比べると頭が切れるぐらいの評価だった。しかし、我はそうは思わん。その程度の者が我を討伐することができるか?」

「??!!」

「その程度なら今までの勇者の手によって我が既に一度この世からいなくなっていてもおかしくなかったとは思わないか?」

「あぁ…」

「奴には不思議な何かがある気がする。不意を突いたとはいえ我を倒したことには何かあるのかもしれん。じゃなければ、我がここまで用心することない上に、我はこの場にいなかっただろう」

家臣は驚いたような顔をしながらこんなことを思っていた。

(いなかっただろう…それはつまり、奴は他の勇者とは違うということを明確に言っているということ??奴が今までのものと変わりのないものであれば既に王は今の勇者以前の勇者に葬られていたということが言いたいのであろう)

「もしかしたら深読みなのかもしれん。だが、奴はそれ程の深読みをして我に挑んできた、そんな気がする。深読みという言い方は間違いっているかもしれんが予測し、注意することに越したことはない。奴らは完璧な作戦で我が城を落とした。いや、正確には我が城を自分のテリトリーとしてしまい、その上で我を討伐したと捉えるべきか」

(そんなことまでまで)

「用心深い奴はきっと気づくはずだと信じたい。今更新たな策を考えても指揮に支障が出る。だが、勇者がいるということは意識しておくべきだろう。我らの行動に気づいたと思ったらすぐに奴がなんらかの策に移してくるかもしれぬからな。まあ、それを捻り潰してやるつもりなのだがな。フフフ」

(少し喜んでいる?)

魔王が不敵な笑みをしている。

(確かに今までこうやってわざわざ頭を使って勇者を倒すなんてことはなかった。ある意味初めて手応えのある相手?勇者と魔王)

「ん、どうしたのだ?変な笑いを浮かべて。その顔は極悪非道な魔王がしなければならない表情だぞ?」

「…そんな顔してました。それは失礼しまた。計画の確認の続きをしましょう」

話している間も家臣の不敵なな笑みは消えなかった。口を閉ざす頃にはいつも通りの家臣の胡散臭いような感じの爽やか表情に戻っていた。

(…こいつとの付き合いは短いから思った以上にこやつのことを我は知らない。だが、おんな表情は初めて見た。あの笑みが何を意味しているのか…あれこそが奴の素であったりしてな。だがまあ、今は勇者討伐に集中しなければ。我が勇者の集中を削ぐと言っておきながら我の集中が最後まで持たなかったら笑い話だな。はっはっはっ)





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