第7話

「デモルスピヤ、様子はどうだ?」

「全く問題はありません。準備の方も順調に進んでいます」

「そうか。それはいい知らせだ。だが、今までの事を考えると順調だと言われると何か裏があるのではないかと考えたくなる」

「それは私も考えておりました」

「うむ、用心に越したことはない。勇者の情報は逐一報告する様に潜入組に伝えておけ」

「はっ、かしこまりました」

現在、魔王とデモルスピヤは思念伝達のスキルを使って会話をしていた。

フゥー

(デモルスピヤは自分の役目をしっかり真っ当してるようだな。いや、正確には真っ当できていると言うべきか。当面な統率という我が役目に問題はないだろう。問題は他の部分だ。気がかりな事が多くある)

魔王はあの有名な考える人のような姿で真剣に考え続けている。

そんな様子を見た家臣は、

「魔王様がまた集中なさっている。しかし、ここは玉座の間。集中室に行って1人で集中なさった方が邪魔が入らないのでは…」

コンコン

ガタ

ドアが少し開く音がする。

「失礼します。今、お時間よろしいでしょうか?」

ひょこっと顔を出して伺うように声を出す。

ひょこっと顔を出している者のところに家臣が詰め寄る。

小声で話しかける。

「なんのようだ?」

「魔王様に伝えなくてはならない事が…」

家臣が話している相手はゴブリン族の長であるゴルドレイイドだ。

「なんだ?魔王様は集中状態にある。あまり集中を途切れさすような行為はしたくない。一度私の耳に入れてから魔王様本人の判断が必要かどうか決めさせてもらう」

「…分かりました」

(こいつで大丈夫なのか?こいつ自身にすごい力があるわけでもないし、魔王様に伝えなくて良さそうな事はどうする気だ?まさか、自分で解決するつもりなのか?こいつにそんなことできるのか?)

ゴルドレイイドが家臣を疑り深い目で見ている。

(私のことを信用していないような目ですね。まあ、それも仕方ありませんな。私が魔王直属の部下になったのは日が浅いですから)

「おほんっ。あなたが私の事が分からないのも無理がありません」

家臣は咳払いしながら言う。

「お主の実力が全く読めん。貴様の魔力がイマイチ感じ取れない」

フッ

(ん?今、鼻で笑った?いや、気のせいか)

「まあ、この扉の間で話すのもアレですし一旦外に出ましょう」

「いや、それじゃダメだ。早急に魔王様の耳に入れてもらわなくてはならない」

「なら、ここに入ってきていいので私に手短に話してください」

「うむ、そうだな。どこから話が脱線したのやら」

「それは貴方のせいでしょう」

「なんだと〜俺のせいだと〜」

ゴルドレイイドが家臣に圧をかける。

ゴブリンの長という立場にあるという事で修練を怠らない。家臣の何周りもでかい図体が身長130センチほどの家臣に圧をかけている。ゴルドレイイドの体付きは、かなりの筋肉質でパワー勝負となったら家臣はすぐに吹っ飛ばされそうな程のガタイをしている。

「まあ、今の話は置いておいて話を本筋に」

「ああ、そうだな。俺も何やってんだか」

ゴルドレイイドは少し困惑したような顔で我に帰った。

「で、俺が魔王様にしたい話というのが勇者の近況とそっちの方にいる魔族のことなのだが」

「それはとても重要な事ではないですか!!何故先にそのことを言わない!!」

「オメーがいちいちなんか言ってきたからだろ。俺は早く魔王様に言いたかったのに」

「…これは失礼しました。私目も反省するべき点が見つかりました。今後精進致します」

「まったく、そうしてくれ。それで魔王様と話したいのだが…」

ゴルドレイイドは魔王の方をチラリと見る。ゴルドレイイドは眉間を寄せて困ったような顔をした。

「ものすごく集中しているようだが魔王様は何をしてらっしゃるのだ?」

ゴルドレイイドは振り向いて家臣に聞く。

「魔王様は集中されている」

頷くように家臣は答えた。

「俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて、魔王様が何について考えていらっしゃるのかと聞いているのだ」

「・・・」

家臣は少し固まって口を開けた。

「私もわからないのです」

「はぁぁ?!?!お前ずっと魔王様の側にいるんだろう?!なんでわからないんだーー??」

「私にも口を割ってくれなのだ。何度も尋ねているが後で話すの一点ばり」

「…まあ、今俺には関係ないしそこの所は今回は無視させてもらう。とにかく、魔王様に報告しなくては」

魔王は2人のやりとりに目もくれず考え続けていた。

(勇者…やつは一体何を考えている…)

「魔王様!!」

「ん、なんだ?」

魔王はゆっくりと顔を上げてゴルドレイイドの方を見る。

「はっ、魔王様、今日は早急に魔王様のお耳に入れておいて欲しい情報があり私ゴルドレイイドが参った次第です」

ゴルドレイイドは膝をついて敬意を払う。

「そういう堅苦しいのはいい。早く用件を申せ」

「はっ、実は先程潜入調査組から報告が入りました」

「おお、報告が来たか!」

魔王は立ち上がった。

「はい、潜入操作をしてる者たちからの連絡だと勇者が王城を攻め上げていると報告がありました」

「な、何??!!どういう状況だ?」

「今から状況を説明いたします。最初に言っておきますが、これは言伝で聞いたこと正確な情報とは言えません。そこはご了承下さい」

「うむ、分かった」

「それでは話をさせて貰います…」

ここからは勇者サイドに話を移し回想をやらせてもらう。魔王達に入った情報はこれからの回想と内容の違う部分もあるが気にせず読んで欲しい。


勇者サイド

時は少し遡る。

「ついにこの時が来た」

そう言いながら勇者は王の間に入って行く。

トコトコ。

目の前に広がっていた光景は王が大きな玉座に座って周りに美女を何人も配置し、美女と戯れている様子だった。

「よぉ、王様。忙しいと言う割には大分寛いでるじゃねぇか」

勇者はそう王に吐き捨てる。

「な、何故貴様がここに?!」

王は勇者のいきなりの登場に驚いて玉座から飛び上がった。

「あんたに用があってな。ちょっとお邪魔させてもらった」

「勇者よ、何しに来た?」

(こいつとは関わりたくない…何を考えてるか分からんからの。用心することに越したことはない)

「用があるって言っただろ」

(用じゃと?なんのことじゃ?)

「不思議そうな顔してるな。そりゃあそうだろうな。俺がお前に対して一方的に用があるんだからな」

「お前だと…余は王であるぞ」

王がお前呼ばわりされたことに憤りを感じた表情をしている。

シュッ

王の目の前に敬服を表すような姿勢で男が1人現れた。

「王様、どうか怒りをお静めてください」

「じゃが、奴は余のことをお前呼ばわりしたのじゃ!」

「どうか冷静にご判断を。あの勇者の実力は本物です。少しでも彼の釈に触れるようなことがあれば消される可能性もあります。少しは大目に見てやりましょう」

「何を悠長なことを…舐められたままでは余の威厳が…」

「あの勇者に敵う者はこの世界にはいません。私も王国の騎士団1の実力を持っていますが彼には歯が立ちません。それほどの力を持っています」

「ぐぬぬぬ」

「彼の機嫌を損なわしたらどうなるかわかりません。横にいる2人も国1の戦士と国1の僧侶、彼らに敵う者はこの国、いや、この世界にはいません。彼らを怒らせると何をしでかすか全く見当がつきません。とにかくお怒りをお静めください。そして、話を聞きましょう」

「うぬぬぬ」

(確かにこやつの言う通りだが、余のプライドがそれを許さぬ…)

王が険しい顔をしていると勇者が口を開いた。

「優秀な部下がいてよかったな。じゃなきゃ、今頃天に行ってたかもしれないな」

ザワワワ。

王はこの日初めて寒気を感じた。

勇者の恐ろしさを思い出した。

「お前は下がっておれ」

「はっ」

シュッ

男はまた姿を消した。

「…で、勇者よ、私になんのようじゃ。話を聞こう」

「やっと話ができるな。なら聞きたいことがある」

「なんじゃ、さっさと申せ」

(こやつ余の王の座を狙ってたりして…)

「単刀直入に聞く。何故、魔族を滅ぼさなければいけない?」

勇者は睨みをきかせながら王に尋ねた。

「お主は何を言っている?」

王は勇者の質問に非常に困惑したように返事をした。

「そのままの意味だ。何故、おれら人間、人族は魔族を滅ぼさなければならない。何故、勇者は魔王を倒す使命を受けなきゃいけない」

勇者は真剣な眼差しで王を見る。

横でその姿を見ている戦士と僧侶。

(勇者がここまで真剣な表情になるなんて…)

戦士は勇者の真剣な横顔を見ながらそんなことを思っていた。

「何故そんなことを聞く?全く理解ができん」

王は首を傾げながら言った。

「俺は意味が分からないからだ。何故魔族を滅ぼさなければいけないのか、俺には理解できない。ここ近年の魔族に動きは全く見られない。

実際に魔族からの俺達人族への被害は全くない。完全に人間に対して無害な存在だ。俺達に被害が及ぶケースは俺達から魔族にちょっかいを出した時だけだ。正当な防衛行為だ。魔族自ら俺ら人族対して何かしてきたことなんてない。むしろ、こっちは戦闘経験を積むためだとか言って罪もない魔族を散々屠ってきた。おかしいと思わないか?俺はおかしいと思う。何故、俺らが奴らを殺めることは許されて、奴らの人族への罪は許されないんだ?明らかに筋の通らない話だ。俺は魔王と戦いながらそんな矛盾を感じた」

戦士と僧侶が目を見開いて勇者に視線を寄せる。

(あの勇者がこんなことを考えていただなんて…今思えば魔王を討伐を終えた直後の城への帰り道ボソッとこんなこと言ってたな。『俺がやった事に本当に意味はあったのだろうか』とか言うあいつらしくないセリフを言ってたな。まさか、ここに繋がる事になるとは…!)

戦士がそんなことを思いながら勇者を見えていた時、勇者はまた口を開いた。

「おかしいと思ったことがまだある」

「貴様は何を意味の分からぬことを言っておる。魔族は我々人族の敵、滅ぼさなければいけない対象でしかない。奴らがいなくなった時、真なる平和が訪れるのじゃ。我々人間が魔族に怯える必要のない世界を創り出さなくてはならないのじゃ。それこそが我々人間の悲願であり目標だ。貴様は腐っても勇者、今の発言は許されんものじゃぞ」

王が勇者を蔑むような目で見る。

「俺がお前聞きたいことの本題はこれからだ。お前の価値観とかどうでもいい。よーく、俺の話を聞けよ」

勇者は王の蔑むような態度を物ともせずに睨みつけるように言い放った。

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