第6話

「魔王様…どうなさいますか?」

「うーーん」

魔王は頭を抱え悩んでいる。

(あのクソったれ勇者が関わっている作戦だ。何をどうしたって無駄なんじゃないか?実際、奴の隙のない作戦によって我はやられた。なら、ここで我がほとんど考えもなしに作戦を作り実行しても意味をなさないのではないか?ん〜、勇者が関わる事で話がややこしくなっている)

「んーーーーー」

「魔王様?」

「はっ」

「大丈夫でございますか?さっきからずっとうなだれていますが」

「え、さっきからうなだれているように見えた?」

「はい、私の眼にはそう映りました」

「マジか、さっきの我は外から見るとそんな風に見えていたのか…」

魔王の心に少しダメージ。自分が威厳ある存在であるため、悩んでいる姿も魔王らしくしていなければならない筈だったが、実際の姿はうなだれている、つまりは、自分が勇者に舌を巻いて全く歯が立たないから落ち込んでいるように他の者の眼には映っていた。

「我が完全な状態であれば打手もあるのだがな…」

魔王が玉座の間に座りながら悩み込んでいる。その時だった。玉座の間の扉が勢いよく開いた。

バシンッ

「魔王様!!」

「おぉ、お主は!」

「はっ、魔族がピンチと聞き駆けつけました。この悪魔族の代表デモルスピヤが参った次第です」

「おぉー、よく来てくれたぞ、デモルスピヤ。ちょうど困っていたところだ」

「魔王様、お久しぶりです」

デモルスピヤは頭を下げている。

「そう、かしこまるな。顔をあげよ」

「はっ」

デモルスピヤは頭を上げ少し微笑んだ様子で魔王の方を見る。

デモルスピヤの趣は長身長でスラっとしたスタイルで紫色と黒色の間のような色の肌をしていて、黒色の翼が付いていて、ドラキュラのような牙を持っている。ものすごいイケメンだ。

「お前の力が必要なのだ。力を貸してくれぬか?」

「なんなりとお申し付けください」

「うぬ、お主の力借りるぞ。これからお主の腕を見込んで頼がある」

「はい、どんな難題であろうとこなしてみせます」

「お前の実力は誰が見ても一流だ。魔族の中で我の次に強いだろう」

「ありがたきお言葉です」

「そこで頼みだが、お主以外には務まる筈がないと思っている。我の代わりをして欲しいのだ」

「魔王様の代わり?!?!」

「そうだ」

デモルスピヤは呆気に取られたような顔で驚いている。

「…申し上げにくいのですが、それは無理なのではないかと思われます」

「なんだと?!何故だ?」

「私目ではその重任真っ当できるとは思えませぬ」

「この役目はお主しかできぬ!」

「…私自身自分の腕前ぐらいは把握しております。魔王様の代わりなど到底熟せぬほどの実力差があります。魔王様の実力も重々承知しております。だからこそ、言わせて貰います。私では代わりを果たすことなどできません。私目と魔王様との実力差は天と地ほどの差がありますから。代わりなど務まる筈がありません」

「ぐぬぬ。だが、お主しか居ないのだ。我を除けばお主が魔族の中で1番の腕を持っておる。デモルスピヤであれば我が代わりを務めることができる」

「無理です…魔王様自身も理解してなさる筈です」

「別に完璧に我が代わりをしろと言うわけではない。我の代わりに指揮系統と作戦担当、我が今まで1人でこなしてきた防御壁等の雑務をやってほしいだけなのだ」

「指揮系統など…それは実質的に魔族の全指揮権ではありませんか…」

デモルスピヤは自分が任されようとしていることに驚きのあまり絶句している。

「これは全て代わりで務まる仕事だ」

ドヤ顔で魔王は答える。

「魔王様、何をおっしゃっているのですか!!魔王様が今おっしゃっていたことは実質的に魔王様の地位なるものからの全てはございませぬか!!」

「ふっ、お前に託そうとしていることはやろうと思えばやれる事だ。我が力は今までやってきた魔王職なんてものを真っ当するだけのしょぼい力ではない。天までもが驚く力こそが我の力である」

「ああ…」

フッ

(やはりこの方は圧倒的な力を持った偉大な方だ。私も全力を持って尽くさなければ)

「どうする、デモルスピヤ?」

「やります。やらせて下さい。我が使命真っ当して見せます」

「いい返事だ。流石だな、デモルスピヤ」

「勿体なきお言葉有難う御座います」

「ふっ、頑張るのだぞ。我がこれからお主に我が責務の全てを伝える。人族から魔族を守る大切な役目だからしっかり頼むぞ」

少し笑みを浮かべながら魔王が言う。

「分かっております。私が魔王様の責務を肩代わりすることで魔王様は勇者討伐だけに集中してくださいませ」

「うむ、了解した。ぬしのことは忘れん」

「…魔王様、そのセリフはまるで私が死に向かうような感じがするのでやめて下さい」

「…え、そんな風に聞こえちゃった?」

「はい」

デモルスピヤが冷や汗を流しながら応える。

「本当か?ガチで?」

魔王は振り返って家臣に聞く。

「申し訳ございませんが私もデモルスピヤ様のおっしゃっていた意味のように聞こえました」

「そ、そんな。そんなつもりで行ったわけじゃないんだぞ。我はお主に感謝しても仕切れないと言う意味を表現したかっただけなのだ」

魔王は慌てた様子でそう弁明を垂れる。

「フフフ、もういいですよ。そんなにお慌てになさらなくても大丈夫です」

クスッと笑いながらデモルスピヤは応えた。

「そ、そうか?」

「はい、魔王様の気持ちはよく分かりました。さて、私は魔王様に任された責務を真っ当するとしましょう」

「いつも迷惑をかけてすまんな」

「いえ、いつものことなので大丈夫でございます。それでは失礼します」

デモルスピヤは玉座の間から出て行く。

「おっと、まだあやつに伝えていなことがあった」

魔王は玉座の間を駆け出してデモルスピヤわ追いかける。

魔王はすぐにデモルスピヤのもとに追いつく。

「ん?魔王様なんの御用でしょうか?」

「お主に伝え損ねたことがあっての」

「なんで御座いましょう?」

「我が責務の内容全ては後でテレパシーメッセージで送る。すぐに目を通し、実行に移してくれと伝え忘れていた」

「ああ…そのことですか。それはありがたいことです。しかし、魔王様の責務は大体把握しておりますのでご心配なく」

「ん、そうか?」

デモルスピヤは一度悩んだような素ぶりを見せて口を開く。

「いや、念のために送ってもらえませんか?」

「ふっ、分かった。すぐに送る」

「ありがとうございます」

2人のやりとりは終わり、魔王は玉座の間に戻った。

(デモルスピヤなら問題なく役目を果たすだろう。我が今まで貼ってた防御障壁が無くなった影響が大分出ている。だが、我は復活してまだ間もなくて使えない能力もある上に現在、魔力量が極端に少ない。同時に様々なことをしようとしてもできない状態だ。我が代わりをする者が今はどうしても必要なのだ。許せ、デモルスピヤ。本当はこんな重任を任せたくはないが仕方ないことだったのだ。全てはあの勇者が無駄に用心深く我の遺体を処理したせいなのだ。復活に上で体の再生に大半の時間を使ってしまったためにスキルや魔法、魔力そこら辺のステータスが完全にもとに戻っていないのだ。だが、お主が役を買ってくれた今我は勇者の討伐と人族からの奇襲の対策を考えることだけに集中できる。頼んだぞ、デモルスピヤ)

魔王は玉座に腰を下ろし肘置きに肘をついて拳に顳顬を当てながら悩み始めた。

(どうするか…あの勇者は相当頭が切れる。我の想像の斜めいく案を出してくる。じゃなければ我はやられている筈がない。今までの勇者は馬鹿正直に堂々と勝負を挑んできたがあの勇者は考え方自体が違う。我だけを倒すことに執着していたように見える。もしかしたら、勇者という使命を与えられた事が嫌だったタイプの勇者では無いのだろうか?歴戦の勇者の中でも何人か勇者という使命に疑問を持っている者がいたな。我を最も追い詰めたあの3人もそうだった。我と戦っている時にはそのような感情や心は読めなかったが後になって我が人間どもの街に潜入した時あの3人が勇者とはなんなのかということに悩んでいる時期があった。あの剣も今後の勇者を楽にさせる為に奴ら3人が残したものだ。まさか、あんな使い方する奴が現れるとは思ってもいなかったが。だが、やられた事自体は我自身の責任である。我が様々な事を想定して動いていればあんな事にはならなかった。正直勇者を舐めていた。我にとって勇者は雑魚同然の存在。ただただ馬鹿正直に我に挑んでくる無能共ぐらいだと思っていた。それが間違いだった。今まで全ての勇者が今回以外の勇者とほとんど同じ動きをしてきた。我は錯覚させられたのだ。勇者の行動パターンは一定だと。その為に、いきなり現れたイレギュラーな存在に我は滅された。我が最強のパッシブスキルがなければ今頃魔族は滅んでいたかもしれない。あの勇者はそれほどの知の持ち主だ。舐めてかかればこっちが喰われる。そんなことだけは絶対にあってはいけない。我も流石に次死ねば終わりだ。油断だけは絶対にあってはならない。そして、我は完全に今のところ勇者に踊らされている。完全に後手に回っている。おかげで全然捗らない。勇者を倒す算段は立っている。完璧な作戦だ。しっかりと準備をし実行できればの話だが。今のところ、仲間である魔族を守る方法ばかりを考えている。我がいないことで守りがザルになっていることを的確についてきている。おかげで同胞に犠牲者を出してしまった。我が胸が痛む。だが、そんなことばかりに気を取られている暇はない。勇者がもしかしたら我の存在に気づき始めている可能性がある。監視に当たっている部下の報告では気づいたような素ぶりは見えないようだが、急ぐことに越したことはない。やつは相当な策士だ。策士という点で言えば我が経験から我をも凌ぐ力を持つと見ている。だが、確認したいことも多くある。自分の目でどうにかして確認したい。他の者に任せても良いのだがそれだと自分の目で見たという確信が持てない。部下を信頼していないわけじゃないが自分の目で見てみたい)

魔王がこんな風に悩んでいる間家臣は待ちぼうけを喰らっていた。

(魔王様玉座に座ってから黙り込んでしまった。私ものすごく暇…どうしよう…なんか構ってくれないかな。今ちょうど暇なんだよな。このくそ暇な時間どうやって過ごそう…)

家臣はそんな事を思いながらそれから2時間ほど魔王に見放されて待ちぼうけを喰らった。

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