第8話

「く…ただの勇者ごときが生意気な…」

王は怒りを表したような表情を見せる。

「今すぐテメェを消してもいいんだぜ。お前も人間だ。命が惜しかろう」

勇者は右の掌を下に向けながら顔の横に手を構え手に炎を纏わせた。

纏わせた炎を勇者は王に見せびらかすように大きくしていく。

「こ、こやつ…なんて小癪な。勇者の行動とは到底思えん」

「俺は一応あんたに勇者の称号と任を解任してもらってるんだがな。なのにいつもいつも俺のところに来やがって…こっちはやっと平穏な余生を過ごせると思ってたのに…」

(お、ようやく勇者っぽい発言したぞ。それでこそ勇者!)

戦士が頷きながらそんなことを心の中で思っていた。

「ん…」

王が「そういえばそうだった、どうしよう」みたいな顔をした。

「今から俺はあんたに俺が本当に知りたいことを聞く。しっかり答えてくれよ」

「…答えられる範囲でな」

「何故、勇者と国民とで教育内容が違う?」

「は?!」

勇者は困惑したような表情をした王を見て顔を顰める。

「そんな事にも気付いていないのか?」

「なにぃ?」

「まあ、落ち着けよ。とりあえず、俺の話を聞けよ」

「うぬぬ…」

(此奴、偉そうに…余は王であるぞ。1番偉いのだぞ!)

「勇者と他の者での認識に違いがある。他者に含まれるのは勇者以外の全ての人間のことだ。

俺は勇者だと通告をうけ、城の英才教育を受けるようになってから外の教育というものに触れてこなかった。だからこそ、俺は…いや、勇者達は分からなかった」

(勇者達は…?教育方針の違いがあると言うのか?)

戦士がそんなことを考えていた。

「今考えればおかしいよな。勇者は魔王を討伐することを絶対の事項とされ教育される。だが、他の者達は魔族は悪で殲滅しなければならない対象だと教育されている」

「「「「!!!???」」」」

王の間で驚きと疑問が皆の頭をよぎる。

「勇者はま、お、うを討伐することだけが人族にとって平和が訪れる手段と教育し、他の者には魔族を殲滅することで平和が来ると教え込んでいる。片一方は魔王だけを討伐すれば平和が来ると思っているのにもう片一方は魔族を殲滅してやっと平和が訪れると認識している。そりゃ、両者に認識が違えば勇者は疑念を抱くよな。両者の考え方に差があるんだから」

「当たり前じゃ。勇者の使命は魔王を倒すこと…?」

「そう、今まで当たり前として勇者達は魔王を倒すことだけを使命として教育を受けてきた。そして、殆どの勇者はそれが勇者にとって当たり前のことだと思い魔王討伐に向け、修練を積み続けた。その過程で魔族を経験のために殺していることに意識もくれずにな」

ゴクッ

「勇者は魔王以外の魔族の存在を自分たちが経験値を稼ぐための道具ぐらいの認識を刷り込まれる。だが、その程度の存在と頭に刷り込まれていても魔族を殲滅する対象だとは思っていない。だから、勇者は皆、魔王に戦いを挑んだ後疑念が出てくる」

「何故、お主はそこまで…」

「歴代の勇者は全員日記を付ける癖があったのさ。俺以外な。俺はそんな面倒くさいかったるいことしてられねぇと思ってやってなかったがな」

「日記…」

「その日記に自分が思った疑問についても書いてあった」

「疑問とは…」

「俺と同じさ。魔王を倒すことと魔族を殲滅すること、自分が魔王を討伐しに行っての違和感について」

「い、違和感…」

「魔王が会って見ると案外いいやつだったと言うことを書いてある日記が多く残されていた」

「「「????!!!!!」」」

会場中にまたも驚きが飛び交う。

「くっっっ」

王の顔が歪む。

「おいそれってどう言うことだ?」

戦士が皆を代表して勇者に聞く。

「そのままだ。魔王は悪い奴じゃない」

「「「!!!!」」」

「お前、魔王の寝込みを襲っておいてそれを言うか?」

戦士が勇者にツッコミを入れる。

「だからこそあの作戦を決行した。確実に魔王を葬り、このくだらない戦いを終わらせるためにな。だが、人族側はそうじゃなかったらしい。魔王の討伐が終われば今度は魔族の殲滅。俺の勇者としてのミッションに魔族の殲滅は入っていない」

「だからか!貴様が我らに非協力的だったのは!」

「俺は勇者に選ばれてからずっと一つのことだけを使命とされて教育されてきた。魔王討伐、これのみが勇者の使命だ。それ以外のことは知らない。日記にもそう書いてあった。しかも、そう書いてある者の全員が魔王と戦った後に今のことを記していた」

「な、なんだと…」

(まさか、今までの勇者供がそのような秘事を隠していたとは)

「その顔は日記の存在を知らなかったという事か。王なのに知らないとはな。この様子だと伝統的に勇者のみに伝承されてきたのかもしれないな」

「日記…」

「俺は全ての日記を目を通した。俺の感じた違和感が解決されるかもしれないと思ってな。だが、決定的に情報が足りなかった」

「情報?」

「魔王を討伐して直後の勇者たちの行動記録だ」

「そ、それは!!」

王が何かを恐れるような顔をした。

「お前の表情を見て確信したぜ。魔王討伐に向かい国に帰ってきた勇者全てはこの国の方針に疑問を持った。だが、その事実を国が隠蔽した!」

「「「??!!!!」」」

会場に広がる驚き、その中で驚いていなかったのは王と勇者の2人だけだった。

「おい、王が驚いていないぞ。ってことは…」

戦士が第一声をあげ、

「隠蔽交錯が行われてきったというのが事実だということだね」

僧侶が同調するかのように答えた。

「・・・」

王は黙り込んでいる。

その態度が逆に親兵達の不安を掻き立てた。

「え、王族は代々勇者に対して行ってはならない行為をしてきたというのか」

「王族だからってそんなこと許されるのか?」

ざわざわしている中一言の叱咤が飛んでくる。

「えーーーーい。全員黙れ!!」

シーン

王の間は静かになった。

今叱咤を飛ばしたのは王だ。

「フフフ、その反応を待っていたぞ。やはりな。おかしいと思ったぜ。まず、先代の勇者が今の世にいないところぐらいから睨んでたぜ」

「先代の勇者?」

戦士が勇者に問う。

「みんな疑問に思わなかったのか?俺の前の勇者の存在について」

「「「???」」」

「前の勇者が魔王討伐に行ったのは20年以上前だ」

「それがどうしたんだ?」

またも戦士が勇者に言葉を挟む。

「そう、それだ!」

「は??」

「今生きてるものの中で前の勇者の事をまともに覚えている奴がいないんだよ」

「え、お前何言ってんだよ」

「俺はさっき20年以上前と言った。その意味が分かるよな」

「20…まさか!!」

「すぐ気づいたよ」

戦士は驚きながら、僧侶は下を向きながら言葉を吐いた。

「20年で言葉を区切っているということはどういうことかもうここにいる奴ら全員気づいただろう。…そう、30年以上は経っていないんだよ。つまり、前の勇者が今の時代に生きててもおかしくないということだ」

「「「!!!!」」」

(理屈は合ってるだが…)

王の側近が隠れながらも勇者の言葉を聞いていた。

「だが、ここにいる誰一人として前勇者の所在、安否、情報を持ち得ない!それは、テメェら王族が葬ったからだろう!!」

「「「!!!!」」」

その場に更なる驚きが充満する。

「な、何を言っておる!いくら魔王討伐をしくじったからと言って国の重要な戦力じゃ。そんなことするわけなかろう」

「お前らにとって魔王討伐をしくじったことなんて然程気にすることではない!魔王という魔族を知ってしまったことがお前らにとって1番の弊害なんだろ!魔王の本質が国バレることをお前らは恐れていた!だから、勇者に口封じを施した!」

「それは貴様の絵空事だ!勇者達の功績はしっかり記されている!それに魔王討伐に失敗したとしても勇者はしっかりと帰還を果たしている!」

勇者は王に対して人差し指を突き立てる。

「まさに、それだ!勇者は魔王に殺されることなく多少のダメージを負っているもののしっかりと五体満足で帰還している。これが何よりの証拠だ。魔王が俺たち勇者、いや、人族に危害を加える気がないという現れだ。

周りがざわざわし始める。

「え、魔王は人間に危害を加える気がない?」

「魔族は悪とずっと教えられてきたが違うのか?」

そのざわざわした空間を変えるべくか勇者が口を開く。

「その証拠に魔族達から人族に対しての敵意が全く感じられなかった。俺が経験を積むためと国外で魔族と通していた時、魔族は守るような戦いをしているだけで人間に攻撃をするような態度は見られなかった。まず、これが俺にとって疑問となったきっかけの一つだ。魔王が人間に敵意がないのと同時にその仲間である他の魔族もそれに影響されている。というより、魔王の方針に他のすべての魔族も納得し、従っている。そのため、魔族は一切人間を襲ってこない。ここ何百年の歴史で魔族・か・ら・人間に危害を加えたことによる被害はゼロだ」

「ゼロ?」

「え、魔族って人族の敵なんじゃないのか?」

「魔族にとっても人間と同じように人族を敵とみなしているわけじゃない?」

不意に1人の従者が勇者に一言声をかける。

「勇者様。今おっしゃった被害がゼロというのは本当なんでございますか?」

「ああ、本当だ。俺が徹底的に書物を調べた」

「「「!!!」」」

「勇者ってとんでもない淫な人物で…」

「不真面目で勉強嫌いとかって聞いてたけど…」

ある2人の女従者がヒソヒソとそんなことを言っていた。

目を細めながらヒソヒソと話していた従者の方を勇者は見ていった。

「俺の印象ってそんなチャランポランだったの?」

その時勇者は苦笑いを浮かべながら聞いていた。

2人は慌てふためいた態度を取る。

「まあ、そんなことはどうでもいいか…」

勇者はこの時少し傷ついた顔をしていた。

この事実をこの場で気づいていたのは戦士と僧侶の2人だけだった。

(今までの行いが悪かったかな…)

今までの言動を勇者は心の中で少し反省していた。

「ごほんっ。話の続きをさせて貰うと魔族達は俺たち人族に敵意も無ければ危害を加える気もない。そして、その事実に気づいた勇者は全て後々消された。まとめると、存在は消されていないが、いたという事実も残っているが、その代わりにその人物が現在に実在する権利を勇者は奪われた!!」

勇者は王の間に響くように高らかに叫んだ。

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