第9話

「・・・」

「おい、王よ。言葉も出ないのか?」

(この勇者はおかしい!いや、余の汚点か?余があの勇者が魔王を討伐したからといって気を緩ませてしまったという弊害か?)

「認めたらどうだ?お前ら王族が勇者を最終的にはこの世から消していたと言う事実を!」

王は口を閉ざしたまま勇者を見つめ続けた。

「でも、どうして国民達は勇者達がいないと言う事実を知らないんだろう?」

1人の従者がそう呟いた。

「簡単な事だ。王国の機密組織に代々続く記憶又は印象に関わる魔法を使える魔術師がいるからだ」

勇者がその疑問について答える。

「き、貴様が何故そのことを知っ…」

王は自分の発言した言葉を一刻を早く取り消したいかのように口に手を当て黙り込んだ。

(し、しまった…!)

「その反応は図星ということだな。王族は代々、国民を騙し続けてきたってことか。大層な身分だな。そして、俺が今言ってきたこと全てが事実ということと受け取っていいようだ」

勇者がそう発言すると王は顔を青ざめた。

「い、い、や、ち」

王が言葉に詰まりながらも何かを言おうとした時だった。

シュッ

王の目の前に1人の男がまた現れた。

「陛下今までの話全て本当でございますか?私は王様の側近の護衛として長らくここにいますが機密組織のことなど一切知り得ませんでした。これはどういうことですか?」

さっき現れた王の護衛の男が先程と同じような敬服を表すような姿で現れ、王に言葉を投げた。

「き、貴様でも余には向かうのか…」

王は腹わた煮えたぎるような状態だ。

「その反応は先ほどのことは事実であるということでいいと解釈してよいようですね…」

側近の護衛は複雑そうな顔をした。

「…陛下、質問です。機密組織を知っている者はどのくらいいますか?」

「それは国家秘密じゃ言えぬ」

「…はい」

満足のいく返答が返ってこず不安そうな顔をした。

「お主は余のただの護衛。そのことだけを考えておればいい」

「…はっ」

男は小さく返事をした。

「おい、王。お前は俺の質問に一つも答えてないぞ。俺の言ったことが事実であると確認できただけだ。はっきり答えて貰おう」

勇者は2人の問答が終わったのを見計らって言葉を発した。

「ぐ…」

「俺は気が長くねぇ。急いで白状した方がいいんじゃねぇのか?そこの頭伏せてるやつの質問にも答えて貰わねぇとな。それは俺が知りたかったことでもあるからな」

勇者のこの発言を聞いた側近の護衛が勇者の方を振り向く。

(彼は何を考えているんだ?)

「もう一度聞くぜ。まずはこの質問だ!何故、国民と勇者の教育方針にズレがある?さっさと答えろ」

睨みを利かせながら勇者は王に向かって言う。

(これを答えていいのだろうか?先祖代々勇者に関しては秘によって様々な事柄が守られてきた。それもこれも魔王を討伐し、魔族を殲滅するためだと言われきた。だが、もうその必要はないのでないだろうか?もう魔王はいない。あとは魔族の殲滅のみ。正直に全てを話せば丸く収まるのではないのだろうか?いや、これをあの勇者はきっと…)

王が歯を噛みしめながら懸命に考えていると勇者が横槍を刺してくる。

「おい、さっさと話せ。じゃなきゃ、殺しちまうぞ。俺が今更人を殺めることに躊躇すると思うなよ。魔王だとて生物だ。同じ命だ。俺はそれを既に殺めている。俺に恐るものは何もない」

勇者は真剣な眼差しでそう言い放った。

(勇者が王様を殺せないことは明白だ。ここで王様がいなくなってしまったら勇者知りたい事を得ることができない)

側近の男は玉座の横に背筋を伸ばした状態で佇んでいた。

側近と王との会話が終わり、勇者が王に突っかかっている時にこの男は勇者達から見て玉座の左側の方に立っていたのだ。

「…勇者よ、一つだけ問うてよいか?」

「答えてくれるならなんだって答えてやるよ。なんだよ?」

「余がこれからお主が知りたい情報を言ったとしてお主は気が収まるのかの?」

「…最低でも、お前が嘘を付かず話してくれれば俺はお前に危害を加える気はない」

「そうか…」

「一応言っておくが俺が連れてきたそこの僧侶は嘘を見抜くスキルを持ってるからな」

「な…」

「王様、嘘は私には通用しませんのでお気をつけ下さい」

僧侶は不適に笑う。

(何がお気をつけてじゃ。…ここまで来ると素直に余が知る限りのことを話すべきかも知れん。だが…)

王の顔が曇る。

すると、勇者が何か悟ったようにこえをかける。

「おい、そこの護衛!お前ならサイレント又は防音のスキルぐらい持ってるだろ。頼む、そのスキルを使ってくれ」

「!!!」

(何故、私にそのようなことを…まさか、王のことを気遣って…)

側近の護衛は一度固まった後、王の方をチラリと見た。

王の曇きった顔を見て確信した。

(やはり、そう言うことか)

「勇者様、貴方の言う通りにしましょう。そして、ここに従者の皆さん。すみませんが一時この王室から退去をお願い致します」

護衛は勇者の方向に顔を向けながらそう言った。

「え、今更?」

「どう言うこと?」

「なんで??」

そこにいた従者は皆いきなり出て行けと言われ困惑と動揺を隠せない状態だ。

「ここからは…」

勇者が少し顔を伏せながら曇らせた表情をして小さな声で呟いた。

その小さな声に気づいた従者が1人いた。その従者は勇者の顔を横から見た。顔を見た従者は目を見開いた。そして、勇者の仰々しい目つきを見て震えた。

その従者がその様子を見て初めて発した言葉が

「みんなここから出よう。きっとここにはいてはいけない」

震えながら従者は皆に聞こえることで言った。

その従者の様子を見た他の従者も何かを感じ取ってその場から全員出て行った。

・・・

「全員出て行ったか」

勇者は戦士と僧侶に確認のために問う。

「ああ、大丈夫だ」

「生命をこの空間には5人分の人間の反応しか感じない」

戦士と僧侶が頷く。

「…人間の生命反応が5人分か」

(少し引っかかるが、まあいいか。とにかく今この場には俺と戦士、僧侶、護衛、そして王の5人しかいない。今からする話はこの国を混乱させるかもしれない。奴らがあのまま居ると話を聞かれて噂が立ち、いたずらに国を荒らす可能性がある。それは避けるべきだろう)

勇者がそんなこと考えているとある男が口を開く。

「それじゃあ、この王の間を閉鎖空間状態にする様に魔法とスキルを使う」

そう言って護衛は作業に取り掛かろうとした。その時だった。

「いや、ちょっと待ってくれ」

勇者がその動きを止めた。

「おい、どうしたんだよ?」

戦士が勇者に尋ねる。

だが、戦士の心境は

(どうせくだらないことでもこのタイミングで言うつもりだろ。あいつは昔から重要なタイミングになるなんか知らないがちょっとボケを入れてくる)

そして、その予感は見事的中した。

「ちょっとこの空間むさ苦しくないか?男しかいないじゃん。可愛い女の子がいないってどう言うことよ?今の時代のこう言う異世界物語って絶対可愛い女の子出るじゃん。ヒロイン又は主人公で!!なのにここにはそれが一切ない!!どう言うことだよ!」

勇者は堂々と言い放った。

それに賛同する様に僧侶も言葉を述べる。

「確かにその通りですね。ここに紅一点でもあれば見栄えが良くなりますね。むさ苦しい男達だけだと全然この場が映えませんね」

「お、流石分かってるな」

「当たり前でしょう。もう何年共にいると思ってるんですか?」

「イェーイ」

「イェーイ」

2人は小さく拳を交わして喜んでる様子だった。

「というか、この物語でヒロインポジの人とかって出てきたか?」

戦士も会話に混ざるように疑問を投げかけた。

「確かにいないな。アホの魔道士3人組ぐらいじゃないか?」

「あとは勇者のハーレムの女の子達ぐらいか?」

「あ、確かにそうですね。全然女性が出ていない」

「いや、そんなことないぞ。さっきの俺のことを馬鹿にした従者達は女だったぞ」

「あー、完全に存在忘れてたわ」

「流石ですね。抜け目がない」

「あったりめぇよ」

「お前らしいな。流石に俺はあんな場面でそこまで目は言ってなかった」

「だから、お前はまだまだなんだぞー」

「お前みたいな奴には言われたくないな」

「まあ、落ち着きましょう。我々3人は今まで永らく苦楽を共にしてきた仲でしょう?」

「お前の言う通りだな。というかお前が王に聞いておきながら放置でいいのか?」

「・・・話が盛り上がったせいで完全に忘れてた」

真顔で勇者は言った。

(平常運転だな。少し安心したぜ。いつもと全く違ってずっと真剣な様子だったからな。あの調子でずっと行くのかと思ってビビったぜ)

戦士が安堵している時、僧侶は別のことを考えていた。

(そういうことですか。本当に貴方は気が回る。小さい頃から私も戦士も分かっていますよ)

微笑みながら勇者の輪の様子を僧侶が見ている。

その様子を見ていた王と護衛の2人はというと。

((あいつらは何やってんだろう?))

困惑の表情をしながら3人を待っていた。

「おっと、待たせてすまなかったな」

「いや、いい。余に…王族に配慮したか!たからの。そして、むさ苦しい男どもだけで悪かったの(怒)。それじゃあ、話をしようか」

「やっぱり聞かれるとまずい話なのか?」

勇者が真剣な表情で王に聞く。

「なるべくなら余が死ぬまで自分の口からこの話はしたくなかった。いや、してはいけなかったか…だが、もう隠す必要もないかもしれんの。魔王はいないのじゃから」

「そうか…じゃあ、さっさと話してもらおうか」

「…わかった。話は2000年近くの時を跨ぐ…」


ここからは人族の話。

人族は何種かの分類があった。しかし、全ての種族は自分達の利益しか考えず、全ての種族で和平を結び共存するような環境ではなかった。

そのような均衡状態が少し訪れたあと、まもなく、より自分達の我を通そうとする種族が現れた。

それが戦いの火蓋を切るきっかけとなった。全ての種族は自分たちが1番と主張し、争い続けた。最初こそ、小さなイザコザのような規模の戦いだったが、最終的には全ての人類を巻き込んだ戦争となった。

戦争が始まって時が経つにつれ少しずつ人類の数が減っていった。人類の数だけでなく種族も時間が経つごとに減っていった。

この戦いでは負けた種族は一切許されない存在とされ他の生き残った種族達に袋叩きにあった。それによって、その種族は絶滅の域を辿った。それが何度も繰り返され最終的に一つの種族だけが生き残った。それが現在、存在する種族、人間だ。戦争に勝ち、唯一生き残った種族こそが人間だ。生物の分類上は人間、種族としてのカテゴリーは人族で我々は現在認知している。

人間は他の人族の全ての尸の上に成り立っている。



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