第20話 手の届かない日常

 その後も、俺はディーデリックとラーシュにせがまれるようにして、地球にいた頃に食べた料理や食べ物を、いろいろと思い返していた。

 結界上に次々現れる、ヴァグヤバンダ基準では豪華絢爛ごうかけんらんなごちそうの数々。フォンスも、マティルダも、パウリーナも、最早研究作業どころではない。マティルダなど自分の傍でふよふよ浮かぶトルディをつついて、何やら話しかけている。

 今も研究室の面々は、某ファミリーレストランで俺が食べたハンバーグに熱い視線を注いでいた。


「これは……肉か……?」

「肉……だと思います、はい……」

『肉でいいから安心しろよ。ハンバーグ……要するに、えーと、細かく刻んだ牛とか豚とかの肉をタマネギやら鳥の卵やらと一緒にこねて、焼いた料理だな。家でも母さんが作ってくれたけど、店で食ったハンバーグは柔らかくて』


 ディーデリックがアメジストの瞳をかっぴらいてハンバーグを見つめる隣で、ラーシュもアクアマリンの瞳を細め、眉間に皺を寄せながらハンバーグの表面をじっと見ている。

 この世界で肉をミンチに加工する技術がどこまであるのかは分からないが、出来ないわけではないだろう、と思う。問題はそれを美味しい料理に出来るかどうか、という一点だ。

 実際、地球の調理技術、食品加工技術はヴァグヤバンダの民には新鮮に映るようで、二人は俺の説明に熱心に聞き入っていた。


「この映像のこれは、なんだ……?」

「色から察するに魚……でしょうか? いや、生肉という可能性も……」

『生の魚だよ。俺達の国は、魚を生で食べる文化が根強く残っていて……』


 次いで二人が目を向けながら問いかけてきたのは、結界の左手に映し出された刺身の写真だ。これは確か、父の晩酌ばんしゃくに付き合わされた時の映像だったはず。

 この世界は外海の沿岸部でしか魚を食べる習慣が無いらしいから、俺達が日常的に魚を食べることに、二人とも大層驚いていた。生で食べることについては、地球上でも海外の人がよく驚いているから、こっちの人たちが驚くのは当然だと思うけれど。

 その次に大きな反応があったのは、地元のスーパーマーケットの野菜売り場を映した映像だった。


「なんだこのイモの山は!?」

「イモだけじゃありませんディーデリック老、他にも根菜類が山と積まれています!!」

『えーとこれは……うちの近所のスーパーマーケットの野菜売り場かな、多分。屋内市場、って言えば通じるか?』


 顎が外れんばかりに口を開く二人に、ビビりながら俺は説明を加えていった。

 オーサの町にもそれなりに規模の大きな市場はあるが、扱われているのは食肉と鶏卵が中心。農作物はどうしてもタチマメと岩イモ、ニンジンみたいな食感をしたアカセリしか育たないせいで、並ぶ種類も量も多くないそうだ。乾燥した世界だから陳列している最中に、どんどんしなびていく問題もある。

 この映像のように、野菜類が山積みになって陳列されている光景は、王都の市場ですら見られるものではないという。


「環境が違えば、育つものも違うだろうが……何故なにゆえ、これほど大量に並べられる?」

「それに、こんなに瑞々しい色をして……しなびたり、変色したりしていないのがすごい」


 ディーデリックとラーシュが揃って感嘆の吐息を漏らす。その言葉に俺は、僅かに視線を持ち上げて宙を見た。確かどうしてここまで大量に育てられるのか、社会科の授業で習った気がする。


『学校で習ったな、今の時代は物流が発達して、ごく短い時間で、かつ食材を劣化させない環境を維持して売る場所まで運ばれて、消費者に買ってもらえるって。

 肉になる家畜や野菜を畑や牧場で育てて、それを食うってのはカトーがこの旅団でもやってるけど、あっちは機械とかも使って、たくさん一気に育てたり、面倒を見たりできるようになってる。あとは肥料もいろいろ開発されてるんじゃなかったっけ』


 俺の話に、二人がほう、と息を吐いた。

 人の手だけではなく、機械の力も借りて作物を育て、土壌に栄養を足して育てるということは、この世界では一般的な考えではなかったらしい。元々土地がやせているから、そこで育つことのできる作物を育てるのに栄養を足してもしょうがないと思ったのだろう。


「なるほど……効率よく作物を育てる仕組みが出来ているんだね」

「飢えさせないようにするには、そういう手もあるか……」


 感心しきりのラーシュに続き、ディーデリックも呆気にとられた様子で息を吐いた。そんな彼だが、「これだけ育つのなら少しぐらい奪っても、誰も困らないだろう」なんて思っているに違いない。

 そんなディーデリックを薄目を開きながら見て、俺は小さく肩をすくめた。


『世界が違い過ぎる、ってのはあるとは思うから、いきなりこっちでも導入を、ってわけにはいかないかもしれないけどなー……あー』


 スーパーの映像を見て、先日に母に買い物に付き合わされたことを思い返しながら、俺が懐かしさに浸っていると。

 パパパ、と表示される映像が切り替わった。


「おや……?」

「これは……」

『え?』


 途端に、その場の空気が変わる。ディーデリックもラーシュも、なんならレオンもハッとした表情をしていた。

 そこに映っていた映像を確認した俺も、彼らと同様にハッとした。それと同時に目頭が熱くなり、胸の奥から何かが込み上げてくるのが分かる。


『あぁ……これ、俺ん家の、夕飯の風景だ……野菜炒め、豚肉の生姜焼き、味噌汁にご飯……母さんの手作りのお新香も……』


 そこにあったのは、我が家の、韮野家の夕食の風景だった。木製のテーブルに敷かれたランチョンマット、その上に並べられたご飯茶碗に、豚の生姜焼きと野菜炒めが盛られたシンプルな皿、母が頻繁に漬けていた、白菜の浅漬けの小鉢。

 俺が寂し気に俯いたのを見て、ラーシュがにわかに慌てだした。懐かしめば懐かしむほど、母の作ってくれた手料理の風景が、溢れ出して止まらない。


「小僧?」

「ニル、あの、つらかったら別のことを考えても」

『懐かしいなあ、母さんのお新香……酸っぱくて、味気なくて、全然好きじゃなかったのに、いつも残してたのに……今は無性に、お新香食べたいなあ……』


 気づけば俺は、魔法陣の真ん中に座って俯いたまま、ぼろぼろと涙をこぼしていた。

 もう、母のお新香を、食べることは叶わないのだ。母が亡くなったわけでも何でもないのに、もう食べたくなっても食べられないのだ。

 そのことが、非常に悲しくて、辛くて。涙と思い出が止めどなく溢れ出してくる。

 俺の様子にいたたまれなくなったらしいレオンが、呆然とするディーデリックとラーシュに声をかけた。


「ラーシュ様、ディーデリック老、すまない、一時中断させてやってくれないか」

「ああ……」

「魔法陣を停止した。いいよ」


 ラーシュが言うと同時に、俺の目の前に広がっていた、映像を映していた結界が消えてなくなる。それを確認したレオンはすぐさまに駆けた。石板の上に座って泣きじゃくる俺を、ぎゅっと抱き締める。


「ウッ、ウッ、ウッ……」

「ニル……!!」


 獣の声で悲しい鳴き声を発する俺を、レオンが優しく撫でつつ抱き上げる。そのまま彼が俺を石板の外に連れ出したところで、じっとこちらを見ているディーデリックと目が合った。

 泣きはらして真っ赤にした目で、俺は彼をにらみつける。


『うぅぅっ……おい、ジジイ……』

『不敬じゃぞ……なんじゃ』


 鼻声が混じっていそうな思念で呼びかければ、あちらもあちらでムッとしたような声色をして。面と向かってジジイ呼ばわりしたのは初めてだから、不敬と言われるのもしょうがないけれど。

 俺はレオンに抱かれたまま、口を一杯に開いて噛みついた。


『分かってんだろうな、お前のしたこと……お前は、お前達は、俺達から今映したこれを、全部いっぺんに取り上げたんだぞ! 学食のカレーも!! 家族で一緒にする食事も!! 母さんの手料理も!!』


 恨み言を吐き出す間も、俺の目からは涙がぼろぼろと溢れ出してくる。

 そうだ、こいつらは俺達四十一人の日常・・を、自分たちの勝手でいきなり取り上げたのだ。中学校で過ごす日常も、家庭で過ごす日常も、それ以外の生活も、一切合切。

 俺達は何も、召喚されるまで眠りについていたとか、召喚されたと同時に生まれ落ちたとか、そんなことはない。召喚された日までに送っていた十四年の日々があり、共に過ごした家族や友人もいたのだ。

 俺の言葉を、ディーデリックもラーシュも、ただ無言で聞いていた。俺を見つめるその瞳に、うっすらと悲しみの色が混じる。


『今、分かった。忘れられないって、つらいんだ。思い出して、懐かしくなって、帰りたい、戻りたい……そういう気分に、どうしたってなっちまうんだ。だから皆、忘れて完全な魔物になるんだ』

「ニル……」


 ようやく涙が止まって、ぐしぐしとレオンの胸元に顔を押し付けながら、俺は話す。話し続ける。思わず声が漏れたか、レオンが俺の名を呼んだのが聞こえた。

 今、俺は初めて、自分の人格が保護されていることを呪った。

 根木先生も、俺以外の三十九人も、召喚されて契約を結んだ日を境に、地球での日々も、記憶も、封印されたり消されたりで思い出さなくなっていた。そうなれば、俺みたいに、地球での日々を思い出し、今は手が届かないことを思って悲しみに暮れることもないのだ。

 それが、俺はどうだ。地球から引き離され、人間の姿も失い、一匹のシトリンカーバンクルとして生きながら、地球で過ごした日々と家族を思って泣きじゃくるだけ。

 こんなことになるなら、他の皆と一緒にすべて忘れて魔物として生きられた方が、どんなに幸せだろう。

 だから、だからこそ。俺は改めて、ディーデリックをまっすぐににらみつけた。


『いいか、ジジイ。ラーシュも。

 お前らが俺達の世界に、楽園パラディーサヤに、行く道を作りたい。大いに結構だ。全力で応援してやる。研究にも喜んで協力してやる。道が開いたら喜んで行ってやる。

 だが、俺は帰るために・・・・・行くんだ。大事な故郷が、俺はあっちにあるんだ。俺だけじゃない、一緒に召喚された他の皆も、故郷があっちにあるんだ』


 俺の率直な、心からの言葉を、ディーデリックもラーシュも、ただ口をつぐんだまま、真剣な表情でそれを聞いていた。

 念話が繋がっていないにせよ、他の三人も、レオンも、その場に立ち尽くして俺を見ている。俺の発する思いを見つめている。

 そのままの勢いで、幾分か興奮を落ち着けた声色で、俺はディーデリックに自分の想いと願いを突きつける。


『だから……ジジイ、召喚した時言っただろ。『元の世界に生きて帰すつもりで動いている』って。

 約束しろ。絶対に帰すって。魔物のままであってもいい……帰すって、約束しろ』


 俺の思念を受け取ったラーシュが、小さく息を呑んだ音が聞こえる。その音が耳に届くほどに、静寂が研究室に満たされていた。

 やがて、深く深く、ディーデリックが息を吐き出して言う。


「……小僧。誰に向かって物を言っておるか」

『お前に――!!』

「よせっ、ニル!」


 その何とも傲慢で尊大な物言いに、思わず声を荒げながら俺が身を乗り出すのを、レオンがとっさに抑え込んだ。

 彼の腕の中でもがく俺に、『薄明の旅団』の主席に座す老人が、至極真剣な表情で握りこんだ右手を自分の鳩尾みぞおちに押し当てた。背筋をしゃんと伸ばしたまま、厳かな声色で発する。


「このディーデリック・ファン・エンゲル、魔導士として、旅団を預かる者として、一度口から吐いた言葉をたがえるつもりは毛頭ない……わしも、全力で、パラディーサヤへの、お前達の故郷への道を、開く術を探るとも。

 そしてお前に約束しよう、生きて帰すと。生きたまま、日常に、帰すと」

『……忘れんなよ』


 老爺の宣言に、レオンが細く息を吸い込む音が聞こえてくる。見れば、驚きに目を見張ってディーデリックを見つめていた。俺の身体を抱く腕に、力がこもる。

 レオンの腕から何とか抜け出し、彼の肩に上る俺から視線を外したディーデリックが、傍らのラーシュへと声をかけた。


「ラーシュよ」

「はい」

「小僧の記憶の解析は任せる。小僧とレオンに、研究棟への立ち入り許可を与えろ」


 ラーシュが短く返事をすれば、老爺は淡々と命令を発した。それに笑顔を見せたラーシュが頷けば、続けて俺が先程まで座っていた石板の方を見やる。


「それと、今の映像はカスペルにも共有しろ。もしかしたらあれらの料理を見た彼奴が、近いものを再現できるやもしれん」

「かしこまりました」


 年若い共同研究者がしっかと頷けば、ディーデリックが次いで目を向けるのはレオンの方だ。俺を肩の上に乗せた主人へと、低い声で呼びかける。


「レオン」

「はい」

「これからは昼食後に、小僧をこちらに連れてきてから農場と牧場の仕事に向かえ。カトーにはわしから話す」


 旅団の長の言葉に、レオンは背筋をこれまで以上にびしっと伸ばした。

 しっかり背筋を伸ばし、大きく頭を下げる。俺を肩の上に乗せていることを忘れたかのようだ。慌ててレオンの後頭部にしがみつく。


「……かしこまりました」

「よろしい。各々励むように」


 頭を下げたままのレオンの返事に満足した様子で、ディーデリックはこちらにくるりと背を向けた。念話のチャネルを切断すると、ローブの裾を引きずるようにして研究室から出ていく。

 自動で消えては現れる結界が静かな音を立てて再生成されるのを確認すると、ラーシュが深く深く息を吐き出して笑った。


「やれやれ、ぶちまけたね、ニル」

『すまない……ジジイの顔を見たら、我慢が出来なくなって』


 やっと身体を起こしたレオンの後頭部にしがみついて、レオンの頭の上から顔を出すような姿勢になった俺が、僅かに目尻を下げる。

 正直、ぶっちゃけすぎた気がしないでもない。

 しかしラーシュは軽い調子で頭を振った。俺があそこまで率直に言葉を発したことが、随分と気持ちよかったらしい。


「いいよ、痛快だ。実に痛快だった。人間の人格を残したままの、ニルだからこそ言えたことだ。僕の言いたかったことを全部言ってくれた。

 ディーデリック老が敬礼してまで宣誓したんだ。君は自分の想いに自信を持っていい」


 そう話しながら、ラーシュが俺を撫でようと手を伸ばす。レオンより頭一つ背が低いラーシュでは、レオンの頭の上にいる俺には手が届かない。

 すぐさまレオンの肩を経由してラーシュの手に顔を寄せると、意外や意外、彼はそのまま俺の身体を抱き上げた。

 レオン以外の人間に抱かれるのは初めてだ。ちょっと恥ずかしいが、魔物を抱くことに慣れているのか存外に腕の中の収まりがいい。

 それにしてもディーデリックの、あの鳩尾みぞおちに拳を押し当てる姿勢は敬礼だったのか。初めて知った。

 しかして、ラーシュは俺を腕に抱いたままで、レオンへと視線を投げた。


「ニル、レオンも、いいかい? 僕達『研究班』は、クンラートの残した召喚魔法の解析と、パラディーサヤの座標特定、ニル達四十一人を送り返す術式の開発等々……やることはいっぱいある。君達の協力が、それらの進捗を進めるには不可欠だ」


 そう話すのを、レオンは神妙な面持ちで聞いている。今まで一顧だにされることもない下っ端だったのが、旅団の一大プロジェクトの重要人物。この反応も当然ではある。

 ラーシュが俺を抱いたままで石板の置かれていた机の引き出しに触れる。どうやら魔法でロックがかかっていたらしいそこがゆっくり開くと、中から輪っかの付いた薄く小さな石板を取り出した。その石板を、俺の首輪に括りつける。


「これが、『正義の壁』の最後の結界を突破するのに使う認証キーを表示するタグだ。落としたりしないよう、ニルの首輪に付けておこう。次からはこれを使ってくれ」

「ありがとう、ラーシュ様」


 石製のタグを首輪に付けた俺を抱き上げ、レオンの腕の中へと返しながら説明をするラーシュに、レオンが改めて頭を下げた。

 これで、俺とレオンは研究棟に、自由に立ち入りすることを許可されたわけだ。

 再びレオンの腕の中に腰を落ち着けた俺を、ラーシュが小さく身を屈めながら見つめて口を開く。


「ニル、君は覚えている。パラディーサヤのことも、そこで暮らし、君が関わる人々のことも、ちゃんと覚えている。酷なこととは承知の上だが、なるべく忘れないで、大事にしてくれ。それは、間違いなく力になることだから」

『ラーシュ……』


 その言葉に、俺は目を見開いた。

 この若く見える青年は、まるで俺達が何を目的として接触したか、何をこの旅団の中で為そうとしているか、全てを把握しているかのようだ。

 俺が地球のことを覚えていること。クラスメイトの皆を覚えていること。それが力になっているのは、間違いないことだと実感している。

 俺はすぐさまに顔を上げ、俺を抱くレオンと念話のチャネルを繋いだ。


『レオン、そろそろ本題に入ろう。この流れで話すのが一番いい』

『なるほど、確かにな』


 俺の言葉にレオンも頷く。この流れなら、俺達の目的を話すのにもちょうどいい。

 その内容を聞き取ったラーシュが、にっこり笑いながら面白そうに小首をかしげた。


「ふーん、やっぱり何か、僕に話したいことがあって声をかけたんだね?」


 ラーシュの問いかけに、レオンも俺もこくりと頷く。ディーデリックがいたからすぐに切り出せなかったが、今なら問題ない。


「ああ、そうだ……ディーデリック老がいらしたから少し控えたが。あの方には出来れば聞かれたくはない内容で」

『記憶を記録する時、召喚される前のことに限定して思い出すようにしてくれたから助かった。召喚された後の四日間のことも記録されたら、ちょっと都合が悪い』


 俺達の思わせぶりな発言に、ラーシュの口角が小さく持ち上がった。

 それはまるで、いたずらの対象を見つけた子供のようだ。年齢不相応な笑顔を浮かべて、研究班のトップは口を開く。


「分かった、それじゃシンプルにいこう。君達は、何をしようとしているんだい?」


 その分かりやすい問いかけに、俺もレオンも表情を引き締めた。

 真剣な顔をして、ラーシュにまっすぐ向き合う。そしてレオンが、静かな声色でそれを告げた。


「俺達は、パラディーサヤへの道が開かれた時、あちらから召喚された人間四十一人を、可能な限り帰し、人間だった時に送っていた元の日常に戻れるようにするために動いています」

『そのために、人間だった頃の人格と記憶の封印を解いて、人間だったことを思い出してもらっている』


 レオンの言葉と、その後を継いだ俺の言葉に、ラーシュが数瞬、その水色の瞳を大きく見開く。

 と、すぐにその瞳が細められ、嬉しそうな顔で俺達を見てくる。


「……へえー、なるほど。もう少し、詳しく説明してもらえるかい?」


 そう言って、彼はますます、面白いものを見るような目で笑ったのだった。

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