第17話 (一号)
俺は生まれた時、大きな瓶の中で溶液に浸っていた。
「やった! ついにできたぞ!」
俺を作った人は、そう言って嬉しそうに飛び上がって喜んだ。
そいつは、瓶の中から俺をひっぱり出すと、せわしなく話しかけた。俺が言葉を理解できるようになったのは、それから随分後だった。だから、その時なにを言われたのか半分も覚えていない。自分が錬金術によって生まれたホムンクルスであることと、自分を作った錬金術師の名がレンであり、彼が自分の持ち主であることだけは、なんとなく周りの言動を見て把握した。
レンは、俺に剣の使い方を教えた。ある程度扱えるようになると、熊と同じ檻に入れられて、熊を殺すように命じられた。
俺は難なく熊を殺すことに成功した。レンはとても喜んだ。俺が強いとレンは嬉しいらしかった。自分は戦うこと、殺すことを求められているのだと、すぐに理解した。
熊の他にも、たくさんの猛獣と戦った。難しいことではなかった。俺の骨は固く、筋肉は強かった。
本物の戦場に立ったこともある。俺はどの戦士よりも強かった。
他にもたくさんホムンクルスが作られたけれど、俺が一番強かった。二号から先は量産型なのだと聞いた。
「君は、僕の最高傑作だよ。君は誰より強いんだ。どんなものにも負けない、すごいヒーローなんだよ」
レンは俺に繰り返しそう言った。レンは、俺を強く改造するのが好きだった。
「一号をこれ以上強くしないで下さい。一人ぼっちになってしまう。一人ぼっちは、寂しいですよ」
ある時、ミュウがレンにそう言った。
「一人になんかならないよ。こんなに仲間がいるじゃないか」
レンは耳を貸さなかった。
いつしか、俺とレンは人々から恐れられるようになっていた。人間は俺たちをバケモノと呼んだ。
バケモノを作ってはいけないと、ある日突然決まりができて、俺たちは殺されることになった。俺たちは死にたくなくて抵抗した。
必ず助けに戻るから、とレンはホムンクルスたちの元を去った。
助けは来なくて、仲間たちは一人残らず死んでしまった。屍の山の中で、自分一人だけが突っ立っていた。俺は誰にも負けなかったが、俺以外はそうじゃなかった。
隣で死んでいた二号が腐り始めた頃、助けは来ないし、来てももう無駄だと諦めて、俺はその場を去った。
ミュウの言った通りだった。一人ぼっちは寂しい。
はっ、と目が覚める。昔の夢を見た。ミライに逃げられたあと、しばらく周辺を探したが、見つからなかった。
クリーチャーに追わせることも考えたが、やめた。こいつは、できるだけ船の外に出したくない。豪雨で人目がないとはいえ、もしも誰かに見られたら確実に人間たちは怪物を恐れて殺しにくる。
体を起こす。仲間たちと雑魚寝している薄っぺらい布団は、すぐにくしゃくしゃになってしまう。
また一人死んでいた。
「くそ……」
「うう?」
クリーチャーがすり寄ってきて、冷えた体に体温が移る。昨夜、鎧を脱いだきり体も拭かずに考え事をしていたらいつのまにか寝ていたせいで、体が冷えて軋む。
俺がもっと強ければ、みんな生きていただろうか。俺が頑張れば物事はうまく行くのだと、あの頃は思っていた。
「クリーチャー。お前は死ぬなよ」
悔しいが、レンの贈り物は的を射ている。もしもミライと仲良くできたら、とても嬉しいだろう。
でも、あいつを見て、つい思ってしまった。
俺はあんなに頑張ったのに裏切られた。強くもなんともないあいつは、穏やかに平穏に育ったらしい。
あんなに頑張ったのは、無駄だったんじゃないだろうか。
俺があいつみたいな無害なやつだったら、バケモノ呼ばわりされるようなこともなくて、みんなは今も生きていたんじゃないだろうか。いっそ、なにもしない方が良かったんじゃないだろうか。
あいつが悪い。レンのせいだ。あいつが、俺が強くなるたびに喜ぶから。あいつの言うままに俺はバケモノになった。
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