第24話 (ミライ)
一号が追い、レンは逃げ回りながら瓶を投げ続ける。キンッ、キンッ、と高い音を立てて瓶が砕けて、どんどん新しい炎が湧き上がって来る。飛び散るガラスの破片が炎の揺らめきを反射して、雪でも降っているみたいに二人の周囲でキラキラと輝く。
「ミライ、今のうちに逃げよう」
ジンが、私の耳元でそっと囁いた。
「嫌だよ。置いていけない」
「だからって、あたしたちまであいつら共々丸焼きになる筋合いはねえよ。あれは、あいつらの揉め事だ。あたしたちが首を突っ込んだってどうにもならねえ」
「嫌だよ。そんなの、私だけ蚊帳の外にいるみたい」
「しょうがねえだろ、蚊帳の外なんだから。あいつらが揉め始めた時、お前はまだ生まれてすらいなかったんだ」
「やだもん!」
私は衝動的に走り出して揉めている二人の間に割って入り、その場でビターンと寝転んで、手足をジタバタさせる。それから、渾身の力を込めて大声で叫んだ。
「やだやだ! やなの! 私だって当事者なの! 私も混ぜて! 私だけ仲間外れにしないで!」
私が暴れると、床を覆っていた火が叩かれて、少しだけ火の勢いが弱くなった。
「ミライ、危ないから退きなさい」
たしなめるように、レンが言う。
「やだ」
「失せろ。殺すぞ」
呆れた顔で、一号が私を見下ろしている。
「やだ」
レンが私を飛び越えて、一号の方へ行こうとする。私はバッと飛び上がってレンの胴体にしがみついて、それを止めた。
「ミライ、いい子だから聞き分けてくれ」
「やだ」
「邪魔するんじゃねーよ」
私の背中に、剣の切っ先が突きつけられる。布越しでもその鋭さは伝わってきて、肝が冷える。
「やだ」
もう嫌だ。レンと一号が殺し合いをしているのも、レンに一号との結婚を望まれているのも、一号からよくない感情を向けられてるのも、私だけ置いてけぼりにされて話に混ぜてもらえないのも、全部嫌だ。
「やだやだ! 二人とも自分の都合ばっかり! そっちがその気なんだったら、私だってわがまま言うもん! やーだー!」
今までは、レンが喜ぶのなら、って望む通りに振舞っていたけど、それももう終わりだ。
「金輪際あなたのいうことなんか聞いてあげないんだから!」
びっ、と指を突きつけると、レンは困った顔で首をかしげた。
「困ったな……。何がそんなに嫌なんだい?」
「二人が揉めてるのが嫌なの。ちゃんと話して。私が見た限り、あなたたちが殺しあう必要なんてない」
「僕は一号に殺して欲しいんだ。一号だって、殺したいほど僕を憎んでいるだろう?」
「決めつけないで。あなたが作ったからって、なんでもあなたの想定通りになるわけじゃないの」
「知ったような口を聞くんじゃねーよ。どちらにせよ、そいつはクリーチャーを殺す気なんだ。だったら、俺は反撃する。二度と仲間を殺させやしない」
「じゃあ、クリーチャーが怪物じゃなくなればいいの?」
「……どういうことだ」
ぴくっと一号の眉毛が動いた。
「私に任せて」
理論上は、できるはずだ。
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