第30話 (ミライ)
朝、病室のカーテンをさっと開ける。ジンはすぐにおはようって返事を返してくれたけど、レンはベッドの上で眠そうに呻いた。
「起きて! 朝だよ!」
「おはようミライ……。今日も元気だね……。おやすみ……」
ゆさゆさと掛け布団の上からレンを揺すると、傷が痛んだらしく低い悲鳴が聞こえた。
「あっ、ごめん。でも目が覚めたでしょ? 起きて起きて!」
「なんでお前そんなに元気なんだ? お前も結構疲れたはずだろ?」
「なんか寝たら治った!」
「嘘だろ……。なんつー体力馬鹿だよ……」
「ほらほら! 朝ごはんもらってきたよ! たくさん食べて早く治そ!」
お医者さんが用意してくれた療養食を二人のベッドに運び、私も食べる。海藻のサラダと、貝のスープ。それから焼きたてのパン。頬張ると、体に力がみなぎってくる気がする。
自分のご飯を食べ終えて、二人の様子を見る。ジンは利き手である右手を火傷したせいでゆっくりだけど、ちゃんと食べている。でも、レンはスプーンを持ったまま船を漕いでいる。まだ眠いらしい。
「起きてってば! 私が食べさせてあげようか?」
「う〜ん、起きる。起きるから」
「はい、あーん!」
スプーンにスープの中の貝柱を乗せて、レンの口元に持っていく。半分寝たまま、レンは口をもごもご動かす。二、三度噛んだら目が覚めたらしい。
「おはよう」
「うん、おはようダーリン」
二口目を差し出すと、レンは困ったように笑う。
「……まだ僕のこと好きなのかい? てっきり愛想をつかされてるもんだと思ってたけど。僕は、君を傷つけただろう?」
「一号のお嫁さんになる、っていう私が作られた理由はなくなった。つまり、私はあなたの嫁になっても全く問題ないってことじゃん?」
レンが私を拒む理由はなくなったわけだ。私は自由だ。遠慮なく、ガンガン行くとしよう。
「うーん、困ったな……」
「なんで困るんだよ。人から好かれるのはいいことだと思うぜ」
食べにくそうに左手でご飯を食べながら、ジンがこっちを見ている。レンは、きまりが悪そうにその視線から目をそらした。
「そんなことを言われてもね……。僕だけはやめておいた方がミライのためだよ」
「なんでよ」
私がむすっとふて腐れると、レンは困った顔をして、人差し指で頬をかいた。
「ああ、そんなに怒らないでくれ、僕のかわいいミライ」
「かわいい? 私に恋してる?」
「してないなあ」
「そうかぁ」
「傷が治ったら、次は星が綺麗な国に行こうか。高い山の上にあってね、あそこにしか咲かない花があるんだ」
「あっ、話逸らさないでよ! もう!」
焦ることはない。頑張ろう。いつか必ず、振り向かせてみせる。
アルケミック・ガール1 骸骨海岸と二人の人造人間 櫂矢 真衣 @tairanalu
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