第26話 (一号)
ああムカつく。あんなお気楽女に全部見透かされたなんて。あいつに助けられるなんて。こんなにムカついているのに、あいつの言ったことを信じてしまうなんて。
俺の足は、ミライの言った通り、仲間のいる部屋へ向かっていく。火元からはだいぶ離れたはずだが、廊下には煙が満ちている。ここもすぐに火の海になるだろう。
なんで信じたのかなんて、答えは簡単だ。
あいつの言うことが本当だったら、そんなに嬉しいことはないからだ。クリーチャーも他の仲間もみんな助かったらどんなにいいだろう。誘惑に負けた。しかも、あんなに自信満々に、怖いものなんてないみたいに言う。ロープ登りもできない雑魚のくせに。
仲間たちがいる部屋は、まだ燃えていなかった。一人ずつ抱え上げて、船の外へ運び出す。海岸に座らせると、みんな不思議そうな顔をした。
「ここでじっとしててくれ。すぐに戻るから」
わかったのかわかっていないのか、みんな穏やかに俺を見ている。人数を数えて、あの部屋にいた者は全員連れ出したことを確認する。
あと一人。最後の一人は、まだ工房の瓶の中だ。まだ生まれていないが、瓶ごと連れ出せばなんとかなるだろう。
煙に咳き込みながら進む。だいぶ火が回っている。船が崩れるのも時間の問題だ。
クリーチャーは無事だろうか。ミライが約束を守る方に賭けたが、そもそも彼女が真っ当に頑張ってくれたとしても、作戦がうまくいく保証はない。しかも、船が崩れるまであと少ししかない。
一旦船の外に連れ出してから、安全な場所で処置をするか? いやダメだ。こんな大火事、街からも見えているだろう。じきに野次馬が来る。そこへ処置の済んでいないクリーチャーを連れ出せば、確実に大ごとになる。船が燃えようが崩れようが、船内でやり遂げなければいけない。
工房はまだ無事だった。大慌てで瓶を担いで外を目指す。重いが、なんとかなる。
「ごめんな」
生まれなければ死ぬこともないのに。俺が寂しさを埋めるために身勝手に生み出したせいで、みんな死んでしまうんだ。まだ話もしないし意思も芽生えていないようだが、こいつらにも死の恐怖はきっとある。
寒気がする。レンがどういうつもりで俺たちを作ったのかは知らないが、俺はいつのまにかあいつとそっくり同じことをしている。なにも教わっていないと思っていたが、やはりこの身はあいつが作ったものなんだ。
レンはまだ生きているだろうか。
もしもミライが処置に成功したとしても、あいつはまだ瓦礫の下だ。一緒にいた人間の女にも、ミライにも、あの瓦礫をどかすのは無理だろう。
あいつはミライと女に、自分を置いて二人でクリーチャーを連れて逃げるように言う。あいつの行動が手に取るようにわかる。
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